ももクロ論壇第三弾評論誌『アイドル感染拡大』発売

ももクロ長編論考(3万字)執筆しました。
論考「パフォーマンスとしてのももいろクローバーZ」 中西理 
第1部 ダンスとしてのももいろクローバーZ
第2部 演劇とももいろクローバーZ 変わりゆくももクロのパフォーマンス

多田淳之介インタビュー「Perfumeももクロ
 ■SPEEDとPerfumeの衝撃
 ■Perfumeと震災以降
 ■ももクロの当て書き的振り付け
 ■Perfumeの振り付けの難しさ
 ■「ももクロの場合はよくも悪くも再現性がない」
 ■身体的負荷とパフォーマンス
 ■パフォーマンスの意味が変わる
 ■ドラマが発生するということ


予約はこちらまで→http://jitsuzonfuyu.blog111.fc2.com/blog-entry-2104.html


アイドルに感染した者は皆アイドルになり、この社会は笑顔に包まれる。
200ページ、約22万文字を超える大ボリューム。
ももクロをはじめ、東京女子流スマイレージBerryz工房℃-uteさくら学院、BABYMETAL、SPEED、Perfume、演劇、サイリウムラブライブ!AKB48私立恵比寿中学アリスプロジェクト、地下アイドル、地方アイドル、ヴィレッジヴァンガードあまちゃんマキシマムザホルモンなどなどを取り上げた、まさに文化評論の決定版!『アイドル感染拡大』を手に取っていただき誠にありがとうございます。
ももクロ評論第3弾をようやく刊行することができました。
アイドルに感染した者は皆アイドルになり、この社会は笑顔に包まれる。
200ページ、約22万文字を超える大ボリューム。

ももクロをはじめ、東京女子流スマイレージBerryz工房℃-uteさくら学院、BABYMETAL、SPEED、Perfume、演劇、サイリウムラブライブ!AKB48私立恵比寿中学アリスプロジェクト、地下アイドル、地方アイドル、ヴィレッジヴァンガードあまちゃんマキシマムザホルモンなどなどを取り上げた、まさに文化評論の決定版!『アイドル感染拡大』を手に取っていただき誠にありがとうございます。
ももクロ評論第3弾をようやく刊行することができました。

ももクロとは一体なんなのか」

過去2作の評論誌ではそう問い続けてきたわけですが、ももクロ第11弾シングルのタイトルは『泣いてもいいんだよ』というとてもわかりやすいものとなっております。
なぜももクロはここまでわかりやすくなってしまったのでしょうか。

この本を読むことで再び「ももクロってやっぱり訳がわからなくってすごい」となることでしょう。
ももクロを探究する方々にはより理解を深めるための本となり、ももクロを知った気でいる方々には混乱をお届けする本となるはずです。

僕たちが思う「訳がわからない」の9割以上は様々な学問で証明可能であると言われています。つまり「訳がわからない」と言えるような範囲のものはほぼ理解することができるのです。もちろん学術的に解明できるということであり、それを全部把握できる、ということではありません。ですが僕たちが思う「訳がわからない」は言わば思考停止状態に陥っているだけとも言えるのです。

ももクロを見たときに生じる「なんだかわからないけどすごい」という感覚は果たしてなんなんでしょう。

ももクロと出会うことで僕たちは「訳がわからない」の旅に出ました。
そして様々なものと出会い経験と知識を獲得し、「訳がわからない」ものの多くがある程度理解可能であることを知りました。
歌声だけでなく表情や身体全体を含めて歌っているから心に突き刺さるんだ、とか。
これまでのももクロの歴史がより彼女たちを際立たせるんだ、とか。
いろいろ自分を納得させるための言葉を獲得したわけです。

このように「訳がわからないもの」をある程度納得することでももクロのことを知ったつもりになっていたのです。
ももクロはやっぱり訳がわからない」というさらに先の地点へと到達するにはより深く感じて、より深く考えなければなりません。
(桃神祭一日目の百田夏菜子と観客とのコールアンドレスポンスで「ももクロはわかんない」という言葉が多くの人達に賞賛されたのは、本誌製作に大きな力を与えてくれた。7月27日追記)

この本はももいろクローバーZについて様々な角度から考察を試みた評論集です。
読み終えて多くの気付きを得て、さらにももクロという混乱に陥っていただけたとしたら、この上ない喜びです。
ももクロ探究の旅はまだまだ果てが見えないのです。

この本は目次を見て気になるページから読み進めていただいて構いませんが、はじめから通して読むことでより深く理解できるように構成をしました。
掲載順も読みやすさを重視し、読者のみなさまが無駄にストレスを感じないように、思考の旅に集中できるように構成しています。
註釈や説明的な言い回しも極力減らしました。ですがももクロについての知識が無い方でも読めるようなものを目指しました。

一緒にももクロを理解し、再び「ももクロって一体なんなんだ」という幸せな混乱に巻き込まれましょう。


ももクロ論壇責任編集 さかもと『アイドル感染拡大』目次

にるそん考2 アイドル戦国時代の俯瞰的な分析  
にるそん サイト『にるそん考』

【序文】
ももいろクローバーZ
 1:コンテンツの特徴
  1期:王道アイドル期「斎藤悠弥、黒須克彦ツキダタダシ
  2期:飛び道具期「前山田健一NARASAKI、AKIRASTAR、大隅知宇
  3期:コラボ期「やくしまるえつこ布袋寅泰、miwa、広瀬香美高見沢俊彦中島みゆき
  4期:ダウンタウン期「武部聡志
 2:戦略の特徴
  ?ベンチャー企業的なフットワーク(1弾から抜粋・改良)
  ?共闘という新しい形でのアイドル文化の形成(1弾から抜粋・改良)
 3:ストーリーの特徴
東京女子流
 1:コンテンツの特徴
 2:戦略の特徴
  ?次世代を見据えた育成
  ?リーダー不在
  ?事務所のパフォーマンスノウハウを継承
 3:ストーリー
スマイレージ
 1:コンテンツの特徴
  1期メンバー時代
  ・「天上人としての非現実的なアイドル像と俗世的なシチュエーションのギャップを強調している点」
  ・「過去のハロプロの伝説的楽曲を再アレンジして蘇らせる点」
  2期メンバー時代
  ・つんく的な関西感・コミックグループ感を強調
  ・ミュージカルからコミックソングまで楽曲の幅を広げプログレッシブミュージック感とジェットコースター感
 2:戦略の特徴
  ?日本一スカートの短いアイドルという外面的なアイコン
  ?初期段階からアイドルスキル完成型
 3:ストーリーの特徴
  ・ハロプロエッグの天才児たち
  ・AKB帝国を打ち崩す対抗馬としてメディアから圧倒的な期待を受ける
  ・歌唱メンバー、一番人気のメンバーの脱退発表
  ・逆風の中で2期メンバー加入。「浮世離れした正統派アイドル」から「現代的なライブアイドル」への変化
  ・2年ほど冷遇期間。地方のドサ回り。積極的に外部関係者にアクションを働きかける。ヤッタルチャン大作戦。上原浩治とのつながり。
  ・武道館
Berryz工房℃-ute
 1:音楽
  ・初期モーニング娘の要素を二分し、お互いに補完し合う関係
  ・歌詞と年齢をコンセプトだけでなく、風景の細部まで合わせる
 2:戦略の特徴
  ・コンセプトに寄せるのではなく、メンバーに寄せる
  ・少女達の成長ストーリーの圧倒的蓄積
 3:ストーリー
  ・ハロプロキッズというハロプロ全盛期の極上の上澄み
  ・同期であり対照的な存在
  ・ハロプロというホームでのアイドル性と個性の長期間純粋培養
  ・アイドル戦国時代に伴うハロプロ帝国の領土拡大
  ・武道館公演
さくら学院(BABYMETAL)】
 1:音楽
  ?年齢を限定されたグループゆえの焦点の深さ
  ?異ジャンルを取り込む際の本気度合い、気鋭の若手ミュージシャンの登用
 2:戦略の特徴
  ?『発表会』という徹底したコンセプト、握手会をしないことによる80sアイドル的天上人感の醸成
  ?養成所として割り切り卒業生を応援する体制
  ?海外音楽をオマージュした海外向けのプロモーション
  ?国内市場を早々に振り切って海外展開を急速に行うフットワークの高さ
 3:ストーリー
  ・大手芸能事務所による「Super Lady養成所」
  ・強制的な組織循環、終わりがあるからこその儚さ
  ・活躍する卒業生たち
  ・海外メタルファンからの注目を一気に高める
  ・史上最年少での武道館単独公演
 結び


論考「パフォーマンスとしてのももいろクローバーZ」 中西理 サイト下北沢通信

第1部 ダンスとしてのももいろクローバーZ
多田淳之介インタビュー
 ■SPEEDとPerfumeの衝撃
 ■Perfumeと震災以降
 ■ももクロの当て書き的振り付け
 ■Perfumeの振り付けの難しさ
 ■「ももクロの場合はよくも悪くも再現性がない」
 ■身体的負荷とパフォーマンス
 ■パフォーマンスの意味が変わる
 ■ドラマが発生するということ
第2部 演劇とももいろクローバーZ 変わりゆくももクロのパフォーマンス


サイリウム」が表象するものとは何か 吉井紀州 サイト「紀州梅のあかしお生活」

 ■はじめに
 ■サイリュームと「サイリウム
 ■ペンライトと「サイリウム
 ■「サイリウム」の認識論
 ■「サイリウム」という表象
 ■「サイリウム」を通して解釈する
 ■おわりに


ラブライブ! 〜2.5次元への誘い、紅白への願い〜  くら サイト (音楽CDレビュー(仮))

 ■ラブライブ!とは何か
第1章 ラブライブに影響を与えたもの
 ■ラブライブの当初とAKB48
 ■ももクロ的サクセスストーリーを持つラブライブ
 ■ラブライブけいおん!
第2章 2次元と3次元
 ■声優のアイドル化
 ■ラブライブの演出
 ■2.5次元の世界
第3章 ラブライブと紅白
 ■ラブライブの紅白出場可能性
 ■アニソンの軌跡
 ■叶え!みんなの夢!


百田夏菜子論 仙女下凡の明日 すなお サイト常夏モスクワ

 0 言ひ仰せて何かある
 1 開花した大輪の花
 2 日産『灰ダイ』事件 その道は覇道
 3 CONTRADICTION 不均衡の均衡
 4 『コノウタ』から排除された「みんな」
 5 不易流行
 6 均衡の先へ行く
 7 「小さな巨人百田夏菜子のジレンマ
 8 「普通」のスーパースター
 9 WWWの中心地
 10 真赤な誓い


めんどくさい夏菜子ちゃん推し座談会  
 イカサマ、くら、ごっち、しょうしょう、すなお、いし



比較アイドルグループ論—AKB48ももいろクローバーZ私立恵比寿中学を題材として くら
0章 前書き
 ■何故この3グループなのか
1章 メンバーの増減と目標
 ■メンバーの卒業
 ■なぜこの表現になるのか
 ■表現からみるグループのスタンス
 ■グループと目標
 ■高校の部活で例える3グループ
2章 メンバー
 ■リーダー 〜グループによってこ大きく異なるリーダーの役割〜
 ■センター 〜センターは誰?どう決まる?〜
 ■メンバー同士の先輩・後輩関係 〜上下関係は存在するか?〜
 ■メンバー間の衝突・仲の良さ 〜ケンカを繰り返すAKB、ケンカしたことがないエビ中、仲良しはどちら?〜
 ■AKB総選挙に関する意見
3章 本質とその魅力
 ■グループを代表する人物・言葉
 ■コンセプトを教えてくれる曲
 ■キャッチフレーズ
 ■補足 〜モノノフはわかってくれない〜
終章 後書き
 ■AKB48は新陳代謝出来るのか?
 ■パフォーマンスへの回帰〜ももクロ化するAKB〜
 ■AKB48の伝統を破壊する島崎遥香
 ■ももクロ最後の壁「続けていくこと」
 ■ライブパフォーマンスと不満
 ■「8人」のエビ中の行く末は?


学生であることの強さ 私立恵比寿中学MV考察 さかもと

 ■ 人間性を捨て去ったももクロ 中学生に留まるエビ中
 ■ 『大人はわかってくれない』というつながり
 ■ 『手をつなごう』という寓意性


「それでは聞いて下さい、ももいろクローバーZでコノウタ」 平成ノブシコブシ徳井健太 サイト「平成ノブシコブシ徳井健太の爆撃



「目指す側」から「目指される側」へ
 ももクロと地下アイドル/ご当地アイドル
 ばるすた

第1章 ももクロアリスプロジェクト
 ■腕利き揃いの作家陣
 ■常設劇場の強み
 ■ももクロを超えるゲリラ戦術 【アリス十番
 ■超個性派集団 【スチームガールズ】
 ■OZの物語 【OZ(オズ)】
 ■候補生という刺客 【ぱー研!
 ■不屈の大増殖 【スライムガールズ
 ■死地に飛び込む戦士 【仮面女子
 ■アリスプロジェクトが閉塞していくアイドル界を打開する
第2章 ももクロとご当地アイドル
 ■水戸から首都圏へ 【水戸ご当地アイドル(仮)】
 ■福島復興への想い 【Loveit!】
 ■いわき市から世界へ 【アイくるガールズ】
 ■ご当地アイドルムーブメントに思う


2&インタビュー ライブアイドルは泣きながら走り続ける  2&公式サイト


劣化した社会にこそ魂が宿る ももいろクローバーZの可能性と不可逆性 さかもと

 ■ 第1章 ももクロ現象とは何か
  ・鵺みたいなもの
  ・高城れにと般若心経
  ・大人と子どもが同居する高城れに
  ・高城れには悲しみの記憶と共に踊る
  ・モノノフはDD化する
  ・ファンとの同一性を強調するももクロ運営
  ・再物語化の強化
  ・「ももいろクローバーZとは高城れにの事である」
 ■ 第2章 地下アイドルから見るももクロの異常性
  ・ライブアイドルとしてのももクロ
  ・ももクロファンはヲタ芸と思わないままヲタ芸を打つ
  ・ピンクレディー的卑猥さ
  ・言い訳できないハロプロと言い訳できるももクロ
  ・ガチ恋が成立し得ないももクロ
  ・「ドルヲタは山頂ではなく高原を開拓すべきである」
  ・学生性を捨てたももクロと学生であり続けるエビ中
  ・秋元康という大河
  ・『恋するフォーチュンクッキー』を作れないももクロ
  ・この時代がももクロを作り上げたのか
 ■ 第3章 ももクロがインフラになる日
  ・ヴィレヴァンから見る爆発的人気獲得と地方への広まり方
  ・『あまちゃん』とマキシマムザホルモンももクロがなぜ流行るのか
  ・ももクロは宗教ではなく祝祭である
  ・ファン同士が仲良くなるということ  
  ・なぜ布袋寅泰君が代を演奏したのか
  ・非血縁社会日本の救済としてのももクロ

「別名S.S.ヴァン・ダイン ファイロ・ヴァンスを創造した男」ジョン・ラフリー著

別名S・S・ヴァン・ダイン: ファイロ・ヴァンスを創造した男

別名S・S・ヴァン・ダイン: ファイロ・ヴァンスを創造した男

 ヴァン・ダインが美術評論家ウィラード・ハンティントン・ライトという人の別名だというのは知ってはいたのだけれど、具体的にどんな評論家でなにが専門なのかというのは分からなくて、ずっと以前から知りたいと思ってはいたがそのままになっていた。「甲虫殺人事件」とかでエジプト学についての薀蓄などを書いていたりしたことから、なんとなくアカデミズム系の古美術の専門家のような人を想像していたのだけれど、実は現代美術の評論家として活動していて、写真家でギャラリーの運営もしていたスティーグリッツなどとの懇意だったということを知って少しびっくりした。
 しかも、単なる美術評論家というだけでなく、若くして「スマート・セット」という文芸雑誌の編集長として活躍し、アメリカへのニーチェの紹介者のひとりでもあったというのも興味深い。そういえば、推理小説創始者として知られるエドガー・アラン・ポーも確か作家であるのと並行して雑誌編集者だったと記憶している。ヴァン・ダインの後継者となったエラリー・クイーンも自らミステリ雑誌を創刊し編集長となった。推理小説の作家と編集者というのは相性がいいのだろうか。

円居挽「丸太町ルヴォワール」「烏丸ルヴォワール」

丸太町ルヴォワール (講談社BOX)

丸太町ルヴォワール (講談社BOX)

烏丸ルヴォワール (講談社BOX)

烏丸ルヴォワール (講談社BOX)

 円居挽「丸太町ルヴォワール」「烏丸ルヴォワール」を続けて読了。キャラクター設定などライトノベル風味は色濃い。しかし、京大ミステリ研特有の叙述ルールはかなり厳密に守られており、そういう意味では清涼院流水ではなく、綾辻行人法月綸太郎麻耶雄嵩我孫子武丸らの直系である。
 京大ミステリ研特有の叙述ルールと書いたのは実は私も「京都大学推理小説研究会(京大ミステリ研)」のOBだからだ。ミステリ研には「犯人当て」というゲームがあった。それは創設者の時代から代々伝わってきて、私たちの時代*1にはその基本的なルールが確立されていた。犯人当てとは簡単に言えば会員による創作のミステリ小説なのだが、問題編をまず会員諸氏の前で発表して(私たちのころはほとんど朗読という形をとっていた)それぞれに解答を提出してもらったうえで、解答編を発表するという形式という発表形式を取っていた。
 そのまま文章化されたものを読めば多くは短編(場合によっては長編クラスの大作もあった)の本格推理小説でもあるし、犯人当て自体は別に京大ミステリ研の専売特許ではなく、昔からあったものなのだが、京都大学ミステリ研の犯人当ての特色は推理小説の本文である探偵対犯人の闘いではなく、作家(出題者)と読者(回答者)の間の対戦ゲームという性格がよりクローズアップされていったことであろう*2。叙述をはじめとした問題におけるルールが通常の推理小説よりも厳密に設定されたうえで、逆にそのルールに合致している(つまり設定の範囲内でフェアな描写をしている)限りは作者は読者を騙すためのどんな手管を使ったとしてもそのことによって解答者をあっと言わせることができれば称賛されこそすれ、非難されることはない。そのことによって通常の本格ミステリ(いわゆるパズラー)とは似て非なる特殊な進化を遂げたのだ。
 
 「丸太町ルヴォワール」「烏丸ルヴォワール」の2作品にはいくつかのいわゆる叙述への周到な仕掛けにより読者に当該の描写によって描かれていることを意図的に誤認させるアイデアがいくつも盛り込まれている。世間一般ではこういう描写に仕掛けられた罠を叙述トリックと呼ぶのだが事実誤認をさせるための描写においてどこまでは許されて、どこからが許されないのかに対しては実は京都大学ミステリ研の在籍者だけが分かる厳密なルールがある。
 このルールがあるからこそ、犯人当てが出題者と解答者が同じ土俵に立ってゲームとして成立するのだが、そのルールがどういうものかについては厳密に定義され明文化された規則が定められているわけではない。それでもルールは確実にある。というのはミステリ研の経験者であればそれがミステリ研特有のルールに基づいて書かれているのかどうかは実は一目瞭然で分かるからなのだ。
 もちろん、京大ミステリ研の出身者であるからといって、書いているのは犯人当てではなくて、特に典型的なのは綾辻行人なのだが、例えば綾辻の「殺人鬼」。ホラー仕立てで通常の意味ではパズラーとはいえないあの小説のなかで綾辻がなぜあんな風な描写の綱渡りをしているのかが、解せないのではないかと思うのだが、それはおそらく綾辻の仮想の想定読者がかつての京大ミステリ研時代の仲間たち(あるいは後輩)であって、そのために自分に京大ミステリ研のルールを課さざるをえないということがあって、部外者にはまったく理解できないようなこだわりにおいて微細な描写にこだわるということになるのだと考えている。
 「丸太町ルヴォワール」「烏丸ルヴォワール」の作者である円居挽は私(綾辻はひとつ下の学年だからほぼ同世代)とはもはや二回りも違う世代であるし、その間には京大ミステリ研特有の犯人当ての論理とはまったく異なる論理(ルール)をもてあそぶ清涼院流水も入っているわけであるから、円居が京大ルールに準じている必然性はほとんどないわけだし、彼らの世代で犯人当てがどのように運営されていたのかは見当もつかないのだが、今回この2作を続けて読んでみてすぐに分かったのはこれは京大ルールと私が考えているものをかなり厳密に守ろうとしていたことで、これは例えば同じくミステリ研(同志社大)出身で本格推理小説の優れた創作者である有栖川有栖がこうしたルールをまったく共有していないのと同じくらい確かなことだと思われたのだ。
 念のために少し補足しておくともちろん有栖川有栖と京大ミステリ研の作家たちは描写におけるルールが違うという風に書いているだけであって、それがミステリとしての価値を論じているのではいっさいない。
 たぶん、ここに書かれた文章は具体性を欠いていて、ミステリ研時代の仲間以外にはなんのことを書いているのか全然分からないとは思うのだが、そのことを具体的に説明するためには実際のトリックに詳細に触れざるをえなく、それをする必要がここであるのかどうかについて確信が持てないでいる。
 そこで一般論として例えばどういうルールがあるのかを示すために少しだけ説明すると、例えば犯人ないしなにかを企む第三者が他人を装ってある人物(ここでは仮にKとしておくと)に成りすましている。この場合、京大ミステリ研の犯人当てルールでは地の文章で「Kは……した」という風に描写することは許されない。
 ただ、地の文ではなくてその人物に対しての「Kさん、××ですよね」という第三者の発言に対し「××じゃなくて○○ですよ」とその男は答えた。そういう一連のつながりはもちろんセーフである。実際、通常のミステリ作品では作中人物の全員がKとみなしている人物に対しKの三人称描写を使うことは許されることが多いが、京大ルールではこれはNG(だめ)だった。そして、円居の描写の仕方をよく調べてみるとほぼこのルールに従っていて、これだけじゃなくほかのことでもほぼ京大犯人当てルールに準拠していることが分かるからだ。
 もう少し先まで考えてみるとひょっとしたら円居挽の小説に出てくるこの私的裁判・双龍会というものだが、 「そこに求められるのは正しい正しくないではなく、納得させる論理」というところなどひょっとしたらこの小説そのものが京大ミステリ研の犯人当てそのもののような気がした。先にも書いた大川氏の「ナイト捜し」の論理がサークル内部においてフェアアンフェア論争を生んだ際にもそれがセーフとなる最大の理由は「そうした方が面白いから」であった。実は私も京都大学時代に犯人当てを書いたことがあり、それは11月祭の際に外部からの来場者に向けて発表されたのだが、その際に犯人を当てられなかった同志社ミステリ研の人たちの捨て台詞が「卑怯このうえない。騙すためだったらなにをやっても許されるのか」ということらしかったのだが、少なくともその犯人当て「MIDORI MURDER CASE」もミステリ研内部ではぎりぎりセーフと見なされていた。つまり、周囲をあっといわせて「これは面白い」と思わず膝を打たせるような発想が含まれているものならばなんでもセーフなのであり、双龍会はその伝統のもとに生まれたものと言わざるをえないのである。
 
   
  
 

*1:綾辻行人より1学年上である

*2:そのきっかけとなったのが先輩である大川一夫氏の「ナイト捜し」という作品でそのことについては大川氏自身がこちらhttp://www.okawa-law.com/hobby/holmes.htmlのサイトで述懐しておられる

「涼宮ハルヒの驚愕」@角川スニーカー文庫

 「涼宮ハルヒの憤慨」「涼宮ハルヒの分裂」「涼宮ハルヒの驚愕」@角川スニーカー文庫などを読了。

涼宮ハルヒの憤慨 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憤慨 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

 ひさびさの新刊「涼宮ハルヒの驚愕」が出るというので注目していたのだが、書店で買ってみようとしたらどうやら話が「涼宮ハルヒの分裂」から続いている様子。読んでみるとこれはやはり物語の流れからして「涼宮ハルヒの分裂」「涼宮ハルヒの驚愕」上下の3冊でひとつの話だったようだ。ひとつの長編小説として読んでみると、これまでのシリーズ作品と比べるとSF味が強くて(というか完全にSFで)、作者の谷川流という人がライトノベル作家である以前にSF作家(それもかなりハードSFより)であることがはっきりと分かる。
というか作者の谷川流という人は西宮市在住。西宮市立西宮北高、関西学院大学の出身で1970年生まれというから私とは一回り以上違うが、私の妻(やはり西宮市生まれ)よりは2つ年上。そんなにめちゃくちゃ若いわけではないので、明らかにライトノベルよりはSF小説で育った世代のように思われる。もっと若い人かと勘違いしていた。西尾維新が1981年生まれなので、10年以上差があるわけで、「涼宮ハルヒの憂鬱」を最初に読んだ時からなんとなく、西尾維新を最初に読んだ時の印象と比べるととっつきやすいのはそのせいもあるのかもしれない。
 西尾維新のデビューが2002年の「クビキリサイクル」、谷川流の「涼宮ハルヒの憂鬱」が2003年だから、デビューの時期はそれほど変わらないのだけれど、年齢にはかなり差がある。もっとも谷川も33歳なのだから、西尾維新が20歳ちょっとの若さでデビューしたのが若すぎるといえるだろうし、それほどデビューが遅いということちょっとはない。こんなことを調べていたのは万城目学(まきめ まなぶ)が1976年生まれで2006年のデビュー。森見登美彦(もりみ とみひこ)が1979年生まれで2003年デビュー。ちなみに清涼院流水(せいりょういん りゅうすい)がやはり西宮市出身で 1974年生まれ。関西の大学に在学したと思われる作家をちょっと調べてみたのだが、どうでもいいことだけれど、「涼宮ハルヒ」シリーズの作者がこの辺りの作家よりもずっと年上だってのは調べてみて初めて分かった。これはかなり意外だったがそうだと考えるとうなずけることがずいぶんある。

万城目学「偉大なる、しゅららぼん」

偉大なる、しゅららぼん

偉大なる、しゅららぼん

万城目学偉大なる、しゅららぼん」を読了。「鴨川ホルモー」(京都)、「鹿男あおによし」(奈良)、「プリンセス・トヨトミ」(大阪)に続き、今回の舞台は滋賀(琵琶湖)。相変わらずのリーダビリティーの高さは素晴らしい。けど、今回は舞台の魅力の生かし方という意味ではちょっと物足りないかもしれない。次はどこだろうか? 神戸?西宮?意表をついて和歌山かも。

G・K・チェスタトン「四人の申し分なき重罪人」@ちくま文庫

 G・K・チェスタトン「四人の申し分なき重罪人」@ちくま文庫を読了。
 ブラウン神父シリーズでミステリファンに知られるG・K・チェスタトン。だいぶ以前に「ポンド氏の逆説」と「詩人と狂人たち」が創元推理文庫で刊行された時にも「こんなものがあったのか」と驚嘆して、さっそくその年のベストミステリに挙げたことがあったのも思い出したが、まだこんなものがあったのかと再びびっくりである。
 実は最近「新ナポレオン奇譚」というチェスタトンの長編が翻訳されて文庫化されているらしいということを耳にして、調べてみたらそれより先にこちらの中編集が発行されていることが分かったため、さっそく購入して読んでみることにした。
 全体としてはシカゴ・コメット紙のエイサ・リー・ピニオン氏が会員制「ロンドン・クラブ」で「誤解された男のクラブ」のメンバーそれぞれから聞き出した話という体裁での連作中編なのだが、これがいずれもツイストに富んでいていかにもチェスタトンらしい。
いずれもなかなか読ませるのだが、なかでも個人的にお気に入りを1本挙げるとするとブラウン神父ものの秀作と共通するテイストを感じさせる「忠義な反逆者」であろう。

四人の申し分なき重罪人 (ちくま文庫)

四人の申し分なき重罪人 (ちくま文庫)

張競「海を越える日本文学」@ちくまプリマ―新書

海を越える日本文学 (ちくまプリマー新書)

海を越える日本文学 (ちくまプリマー新書)