e-dance「狩プソ☆スピ歌」「元気の本」

 飯田茂実が率いる新ダンス集団「e-dance」の旗揚げ公演である。飯田は元Monochrome circusの中心メンバーのひとりで、出前パフォーマンス「収穫祭」PROJECTなどに参加、その活動を支えた後に退団。その後は公演ごとにダンサー・パフォーマーらを集めてプロデュース形式での公演を行い、その名称にも「e-dance」を使用*1してきた。

 今回の公演も同じ「e-dance」の名称ながら、継続的に集団活動をすることが可能なメンバーを募集し、1年近い期間を費やして、共同創作によりこの公演に向けて準備を進めてきたもので、東京と比べると関西では継続的に活動を続けているダンスカンパニーというのはMonochrome circus、アンサンブル・ゾネなど数少ない現状もあり、総勢20人前後という本格的なダンス集団*2の旗揚げ公演として注目していた。今回は女性キャスト中心の「狩プソ☆スピ歌」と男性キャスト中心の「元気の本」を2本立てで交互上演した。

 最初に見たのが「狩プソ☆スピ歌」。作品の方向性にまず注目した。冒頭でいきなり舞台上手にマイクを持った女性が現れ、歌を歌い始めると、それに合わせるように舞台には別のパフォーマーはひとりずつ現れ、音楽に合わせて皆で踊りだす。この冒頭部分を少し見るだけでこの作品が普通のコンテンポラリーダンス作品ではないことが分かる。演劇のように物語(ナラティブ)な筋立てがあるわけではないが、出演者たちはダンスだけではなく、時にはしゃべったり、叫んだり、歌も歌ったりとそれぞれ個人個人として自分のキャラを前面に出している。こうしたジャンルクロスオーバーなところがいかにも飯田らしさを感じさせる作品だ。出演者に日本以外のメンバー*3も含まれていて、フラメンコダンサー、俳優、美術家らさまざまなキャリアのメンバーが参加しているということもあって、ひょっとしたら今までの飯田作品よりももう少しヨーロッパのコンテンポラリーダンス風の作品となるのかもとも考えたのだが、そういうことは微塵もなく、いい意味でも悪い意味でもごった煮風の舞台である。

 いくつかすごく印象的な場面があった。そのひとつが下手にひとり少女風の女性がいて、自分が受けたいじめのような仕打ちを語り始めて、それに合わせて残りの女性たちが踊り始める場面。あるいは銃によって次々と女性たちが撃たれて倒れていく場面。もちろん、それは実際の銃ではないし、遊びのような光景にも見えるが、そういうものが連鎖することで若い女性たちが元気に跳ねまわっていた無邪気な舞台は世界に対する痛みを感じる場へと変容していく。

 「いい意味でも悪い意味でも」と賛否両論風のことをあえて書いたのはいくつかのシーンが順次展開されていくところで、その表現の方向性の多様さにおいて豊かな可能性が垣間見られるというプラスの面もあるが、全体を通して見るとどうしても作品がまとまりを欠くというか、散漫な印象が否めない。
 

 もう1本の「元気の本」は女性バージョンの「狩プソ☆スピ歌」とは違って深いことを考えなくとも単純に面白い。男の集団が元気いっぱいで踊ることからいうとコンドルズを彷彿とさせるような部分もあるのだが、コンドルズよりはずっとダンス寄りだろう。ただ、ムーブメントにはいわゆるコンテンポラリーダンスを思わせるところはあまりなく、むしろ空手など格闘技の集団演武を連想させたり、組み体操を思わせたりする。身体表現サークルとも似ていなくもないが、ダンスの技術についてはともかく、組み体操ひとつでもよりアクロバティックな要素を含んでいて、身体能力が抜群に高いのが特徴。それだけにユニゾンで呼吸を合わせて、掛声を掛け合って踊る部分など力感が溢れ迫力がありきわめて魅力的であった。
 ただ一見して無手勝流なので、表現としての完成度はお世辞にもあるとは言い難い。ただ彼らが表現している方向性というのは「コドモ身体」に代表されるような東京のダンスとも違うし、ムーブメントオリエンテドなこれまでの関西のダンスの流れとも異なる。掛声をかけながら皆で動く動きなどは最近の維新派を思わせるようなところもあるがそれとももちろん違う。娯楽性が高い上に独自性もあるので、コンパクトにまとめた上で東京に持っていってダンスショーケースのような企画で見せれば身体表現サークルなどと同等な衝撃を与える潜在的可能性はあるのではないかと思わせた。だれか呼んでみたいというプロデューサーがいないだろうか。
 2本を続けて見て感じたのは「共同創作」の可能性と難しさであった。飯田はアフタートークの席でカンパニーというのが作品のクオリティーを高めていくものだとすれば、私がe-danceをコミュニティと呼び、カンパニーとしないのはそういう集団の方向性に疑問を感じたからと語り、コミュニティというのはメンバーが作品を創作していくことでともに成長していけるような場となることだというような趣旨の主張を熱弁した。新集団の旗揚げの理由となぜMonochrome circusと袂を分かったのかが分かって興味深いものであったが、その挑戦が簡単なものではないだろうというのはこの公演からもはっきりとうかがえた。ダンス界におけるドンキホーテ的な行為とも取られかねない飯田の勇気ある挑戦がどのような果実をもたらすのだろうか。今後も注視していきたいと思う。

*1:「現動力」(2006年)など

*2:ダンスカンパニーと書きたいところだが、飯田自身がカンパニーの用語を避けて、コミュニティーとしているのでここではダンス集団とした

*3:フランス在住の後山阿南、スペインのAinoha Pareja、イスラエルのNadav Malamud、ポルトガルのJose Sousa Botelho