奇想の劇作家、畑澤聖悟

 畑澤聖悟は才人である。役者としての畑澤はスキンヘッドの風貌ひとつを取っても端倪すべからざる存在感の怪優。自由奔放な野生の魅力は東京の俳優には見られぬもので、公演ごとに毎回よくもわるくもなにをやらかすか目が離せない。美術教師として地元高校に勤務し生徒会、演劇部、放送部顧問として活躍、ラジオ劇作家として賞を総ナメ。さらに地元新聞には郷土史にまつわるコラムも連載。地方都市でこの才能があれば謙虚の人というよりは自信家のタイプ。ちょっとした天狗になってもおかしくないところだ。
 そうもいかないのはそこに挑戦しなければならないもうひとりの才能、弘前劇場の主宰である劇作家、長谷川孝治がいるからだ。長谷川も劇団主宰、高校教師、大学講師、ラジオ劇作家、映画祭のプロデューサーといろんな分野でマルチな活躍をしている。しかし、その本領が発揮されるのはもちろん劇団を全国区の存在にした劇作家としての活動で、多彩な分野で才気を発揮する畑澤が「演劇人」として劇作の世界にその才能を注ぐことになるのは当然の帰結だといえるだろう。
 とはいえ、弘前劇場の座付き作家として同じ劇団の俳優を共有している長谷川と畑澤だが、現代口語地域語を駆使した会話劇という弘劇の集団としての方法論は共有してもその劇作家としての資質はずいぶん異なる。
 長谷川の演劇が、登場人物の隠れた関係性がその会話から浮かび上がってくるという形態を取っていることが多いのに対し、畑澤のそれは必ずしもそうではない。2人は劇作へのアプローチがまったく違うのだ。弘前劇場で畑澤の劇作を最初に見たのは「召命」だった。近未来の高校が舞台で、今よりももっと校内暴力や学校崩壊が激しくなった未来において、命の保証もないほどに危険な立場となった校長を会議によって選ぶという物語であった。最近の報道などを見ていると公募制により選ばれた校長が自殺するなど、もはや状況は未来の絵空事ではなくなっているが、畑澤は芝居を書き上げる前に「これは供儀についての芝居である」と構想を語った。文化人類学の神話分析に登場する「生贄としての王と供儀としての死」という神話的枠組みを学校の物語に寓話的に置き換えたのだ。
 「召命」で書いた話し合いによってだれかひとりの犠牲を選ぶという神話的枠組みは畑澤はこだわりを持っているようだ。若手キャストによって上演された「俺の屍をこえていけ」はある地方のラジオ局を舞台に若手の社員らが管理職の職員のうちからリストラ候補をひとり選ぶという物語。こちらもせちがらい最近の世相のなかでは身につまされるのだが、構造は「召命」の喜劇的変奏とでもいえそうな趣向であった。  
 一方、「月と牛の耳」はこれまで見た畑澤作品の中ではその完成度において代表作というにふさわしい好舞台だが、眠るごとに記憶を失う拳法家の父親とその家族を描いた。畑澤によろ家族論というような色彩の舞台で、父親を実際にはありえない特殊な病気に設定したことなど、長谷川なら選ばないような趣向を含んでいることや拳法家に設定していることなどは格闘技愛好者である畑澤らしさを感じさせるが、舞台のタッチは最近のというよりは少し前の弘前劇場の匂いを感じさせるものであった。だが、この舞台も「王権の継承」という神話的枠組みに基づいて構想されたもので、「構造」→「関係のディティール」という枠組みは変わらない。
 その続編的な性格を持つ「月と二階の下」は映画「エクソシスト」が下敷きとなっていた。ある家の二階にこもって奇声を発したり、暴力を振るうなど奇怪な行動を取り始めた娘をなんとかするためにいかにも怪しげな宗教者や心理学者らが集まる抱腹絶倒の前半が急転して家族の問題に収斂していくという芝居であった。
 これまでの畑澤の劇作を俯瞰して浮かび上がるのは「奇想の劇作家」という姿だ。畑澤の作品にはそんなものが芝居になるのだろうかという設定を強引に芝居にしてしまい、次にどんなものが飛び出すのか分からないビックリ箱のような面白さがある。ところがそれは同時に欠点でもあって、「構造の枠組み」が露わになりすぎて図式的な構図が透けてみえてしまうことも多いのだ。
 「今日もいい天気」はだれでも知っている某有名テレビアニメが下敷きになっているということだが、畑澤はそれをどんな風に料理するのだろうか。若干の危ぐを持ちながらも大いなる期待で持ってこの新作を待ちたい。
 地方都市での二人の才能の出会いを思い浮かべるとすると私などはリバプールで出会った二人の天才が二十世紀の音楽史を塗り替えた歴史を連想してしまうが、結論はもう少し待ちたい。畑澤は原石であってこれまで見せたのはその可能性のほんの一部だと思うからだ。それが磨かれた時、私たちは二十一世紀初頭の日本現代演劇のおいてもうひとつの神話を目撃することになるのかもしれない。
(中西理 演劇コラムニスト、Web下北沢通信主宰 http://member.nifty.ne.jp/simokitazawa/index.html

 
 
  
 
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