珍しいキノコ舞踊団 × plaplax「The Rainy Table」@山口情報文化センター

珍しいキノコ舞踊団×plaplax「The Rainy Table」(山口情報文化センター)を観劇。

珍しいキノコ舞踊団 × plaplax 「The Rainy Table」
振付・構成・演出:伊藤千枝(珍しいキノコ舞踊団
舞台美術・映像演出・メディアテクノロジー:plaplax(近森 基+久納鏡子+筧 康明)
音楽:大野由美子Buffalo Daughter
衣裳:AOMI

 p珍しいキノコ舞踊団 の新作「The Rainy Table」を山口情報文化センター(YCAM)で観劇した(3月1日観劇)。珍しいキノコ舞踊団メディアアートのplaplax、そして音楽にはBuffalo Daughter大野由美子、衣装にAOMIといつもとは少し違う組み合わせによるコラボレーション(共同制作)作品である。YCAMに長期滞在して現地制作した。
 舞台が始まると雨音、雷鳴の響く中、黄色い服を着た少女がテーブルにひとりさびしく座っている。そうするとそこにもうひとりの自分が現れ、彼女らに連れられて馬と一緒に屋外へと冒険の旅に出るという筋立てだ。最近の珍しいキノコ舞踊団にはそのものずばり「3mmくらいズレている部屋」という表題の作品もあったが、日常からほんの少しずれた不思議空間を描いていくものが多かった。それに対し、今回の「The Rainy Table」は映像とコラボすることで、より明らかにファンタジーの世界、バレエでいえば「くるみ割り人形」のような夢の世界を描きだした。
 それにしても印象的だったのは具体的なビジュアル映像や実際に舞台美術として登場する触れるオブジェなど馬、馬、馬……のイメージの氾濫である。雨、少女、馬の3大話という風に考えればなにかしら性的なイメージの隠喩という風にも考えられなくもないといったところだが、舞台を見ての実際の印象というのはそういうものではなく、次から次へと出てくるダンスと映像の掛け合いの面白さに眩暈を起こしそうになった。
 珍しいキノコ舞踊団日本大学芸術学部舞踊専攻の同級生3人(伊藤千枝、小山洋子、山下三味子)によって1990年に旗揚げした。だから、来年で設立20周年を迎えることになる。それ以前に土方巽によって創始された舞踏では山海塾、さらにバニョレ国際振付賞に入賞し世界的に有名になった勅使川原三郎といった例外はあったが、日本でコンテンポラリーダンスが本格的に知られ、ブームといわれるようになったのは1990年代の半ば以降のことである。これは海外の批評家によっても日本における90年代のダンスの爆発と言われたりするようになったが、その間常にトップランナーの一角としてそのムーブメントを支える重要な一翼を担ってきたのが珍しいキノコ舞踊団だ。

 もともと、80年代の後半以降に日本に紹介された欧米のコンテンポラリーダンスピナ・バウシュ、W・フォーサイスローザスなど)に強く影響されて作品創作をはじめた彼女らは初期のころは「ダンスについてのダンス」、すなわちメタダンスの作り手として知られたが、その後、「少女性」を強く打ち出した作品群をへて、「フリル(ミニ)」でのアートユニット「生意気」との共同制作をきっかけに大きく方向転換。劇場公演のみに留まらず、カフェや美術館の庭などでの空間パフォーマンスなどサイトスぺシフィックな作品や内外のアーティストとのコラボレーションなども積極的に手掛け、そのキュートでポップな作品性は、現代美術における奈良美智村上隆などと並んで「カワイイ」日本現代カルチャーの最先端として、広く世界に紹介されつつある。
 このため最近では現代美術系のアーティストとの共同制作はこのカンパニーの常道となっているようなところがあるが、これまでの相手は最初のきっかけとなった生意気をはじめ、ほとんどの場合、造形作家であることが多く、舞台美術として物や空間を与えられて、キノコがそこをプレイグラウンドとして遊び回るというような作品がほとんどであった。珍しいキノコ舞踊団は独特のインティメート(親密)な魅力によって、観客席と舞台空間の壁を突き崩し、彼女らの世界に観客を巻き込んで同化していく力があり、生意気をはじめとするその種のコラボはどうしても珍しいキノコ舞踊団にとっては借景以上のものではないのではないか美術館の中庭や公園といった単なる「景観」とそれほどの差があるとはいえないのではという疑問があったのである。
 こうしたサイトスペシフィックなキノコの世界は私は個人的には好きなので見にはいくのだが、ただ、その一方でダンス表現あるいはアートとしての可能性は最初に麻布DELUXEで「フリル(ミニ)」を初演した時にかなりの部分やり尽くされていて、その後は歌を歌ってみせたり、観客も踊らせたりするなどいろんなアイデアを盛り込んではいたが、同工異曲の感があるのも確かであった。
 アーティストとのコラボという点ではこの「The Rainy Table」も変わらないが、メディアアートは造形物とは違って、そこで遊んでいればいいというわけにはいかない。遊び場にはとどまらず、一緒に作品世界そのものを構築していかざるをえないということもあって、やっと「フリル(ミニ)」から次のステップを踏み出したという風に思われた舞台であった。
 ダンスにおいて、マルチメディアパフォーマンスはダムタイプをはじめ、最近ではニブロールレニ・バッソの例を挙げるまでもなく、もはや珍しいものではない。ただ、今回のメディアダンス作品に好感が持てたのは映像を使った作品ということでいつもと違う雰囲気はありながら、これはやはり作品の世界観としては100%ピュアに「珍しいキノコ」ワールドを感じさせたところだ。
 plaplaxは近森 基、久納鏡子、筧 康明という3人のメンバーによるメディアアート制作ユニットだが、普段は鑑賞者がインタラクティブにかかわれるような映像を使ったインスタレーションを数多く手掛けていて、舞台作品に取り組むのはこれがはじめてである。名前を聞くのは今回が初めてであったが、調べてみるとその作品はICC東京都写真美術館などで見たことがあった。
 メディアアーティストというと私なんぞが普通に連想するのは例えばダムタイプ池田亮司や高谷史郎らで、壁に映像を映写したり、複数のスピーカーを空間に仕込んで音響空間を作る映像・音響インスタレーションだったり、するのだがplaplaxが得意とするのは可愛いデザインの玩具風のオブジェに通り掛った人間が触れたり、近くを通りすぎるとそれにセンサーが反応して、光や影で描かれたいろんなもの(動物とか)が飛び出してくるといったインタラクティブな作品だ。
 だから、インタラクティブだということには非常にこだわりを持っていたようで、一番それが生かされたと思われるのは篠崎芽見が映像の馬と一緒に踊るソロ(デュオ?)のダンスシーン。この部分は篠崎の動きに合わせて馬もその位置を変えたりして合わせたりするのだが、それはリアルタイムオペレーションで映像を操作していたりするようで、だからこその息の合い方を見せてくれた。
 もっとも、インスタレーションとは異なり、ダンス作品ではダンサーの細かな動きが毎回同じというわけでなく、それに合わせる必要があるうえに劇場により壁や舞台美術の位置も違うため、会場ごとに非常にデリケートな微調整が必要であり、しかもこうした映像のプログラムは一般向けにフォーマットされたものではなく、製作者本人しかオペレーションできないなどの問題もあり、作品の出来栄えがよかったので「これは海外をツアーしてもいけるんじゃないか」とカンパニーの制作に提案してみたのだが、そんなに簡単なものではなさそうだ。
 そういう課題はあるにしても、この種のコラボはなかなかうまくいかないことが多いなかで、今回の場合は珍しいキノコ舞踊団の持ち味を壊すことなく、そこにそれまでとは違うプラスアルファのようなものを付け加えることができたという意味合いでは成功だったと思う。そして、そうなったひとつの要因にはマッチングのよさがあったのではないかと思う。メディアアートそのものに例えばダムタイプ的とか、ニブロール的とかのレッテルを張るのはそもそもおかしいことではあるけれど、映像や音楽そのもののクオリティーの高さとは関係なく、例えばダムタイプ池田亮司、高谷史郎のコンビによるようなクール系の映像・音楽をもってきて、珍しいキノコ舞踊団とコラボレーションをさせたとしても、おそらくうまくいかないだろう*1、と思われる。そんななかで映像とキノコを組み合わせるとすると、まず考えるのはアニメーション系の作家などであるけれど、ここにplaplaxというグループを持ってきたのは企画制作のYCAMのスマッシュヒットだったと思う。
 キノコの伊藤千枝は2003年にフィリップ・ドゥクフレ「IRIS」のYCAMでの現地制作に演出アシスタントとして立ち会った経験があり、それもリアルタイムでダンサーの姿を撮影し、それを加工した映像を舞台で映すというようなインタラクティブなメディア性を持った作品であった。当時、制作にはひどくいろんな困難が伴ったということも漏れ聞いているのだが、その時の経験もこういう風にはなるまいという反面教師的なものも含め、今回の作品制作に生かされたのではないかと思う。
laplax

 

*1:無責任な立場からするとどのくらいミスマッチになるか見てみたいという好奇心はあるのだけれども