「現代日本演劇・ダンスの系譜vol.11 演劇編・上海太郎舞踏公司」セミネールin東心斎橋

VOL.11[上海太郎とメタファーの演劇] Web講義録

講師・中西理(演劇舞踊評論)
特別ゲスト・上海太郎(上海太郎カンパニー*1

【日時】2009年7月30日(木)p.m.7:30〜 
【場所】〔FINNEGANS WAKE〕1+1 にて

 東心斎橋のBAR&ギャラリーを会場に作品・作家への独断も交えたレクチャー(解説)とミニシアター級の大画面のDVD映像で演劇とダンスを楽しんでもらおうというセミネール「現代日本演劇・ダンスの系譜」の第11回の日時が決まりました。これまで第1回目のチェルフィッチュを皮切りにニブロール青年団イデビアン・クルー弘前劇場レニ・バッソ五反田団珍しいキノコ舞踊団ポツドールダムタイプその後(藤本隆行)と今もっとも注目の演劇・ダンスの集団(作家)を選んで紹介してきました。
 今回は上海太郎舞踏公司です。新カンパニー「上海太郎カンパニー」の旗揚げ公演9月にを控えて準備中の上海太郎氏をゲストに迎え、俳優・演出家・振付家として多彩な才能を見せる上海太郎の全貌に迫っていきたいと思います。
 上海太郎は関西を代表する人気劇団だったそとばこまちの座長を辰巳琢郎から引き継ぎ3代目座長となります。当時のそとばこまちは劇団☆新感線南河内万歳一座などとならび関西小劇場を代表する人気劇団で「つかからシェイクスピアまで」をキャッチフレーズにエンターテインメントを志向したアイデアあふれる舞台で東の遊眠社、西のそとばと並び称されるほどの人気を誇っていました。
劇団そとばこまち「お気に召すまま」の映像を流す)
 上海太郎は演出家であるとともに天才的なギャグメーカーでもあり、「メモリアルトライアングル」という芝居のなかに挿入された「麻雀オペラ」は伝説的な演目となり、このシーンのインパクトがあまりにも強すぎたためにしばらくすると「麻雀オペラ」があったということは覚えていても、芝居自体がどんな筋立てだったかはまったく思い出せないという観客が続出したらしいという噂が聞こえています。
(「ジャックは箱の中」から「麻雀オペラ」を上映) 
 その人気劇団だったそとばこまちの座長の座を捨て退団。言葉の壁を越える演劇を目標として新たな表現の場を求めて、劇団「上海太郎舞踏公司」を1989年に設立。ダンス、パントマイムをベースにした短い場面を積み重ね、壮大でイメージ豊かなドラマを構成するという独特のスタイルにより「ダーウィンの見た悪夢」「マックスウェルの悪魔」などの傑作群を制作した日本現代演劇において90年代を代表する作家のひとり*2である。


「破鏡重円」
初演:1989年12月、豊中市ローズ文化ホール
まぎれもない上海太郎舞踏公司の旗揚げ作品。ブランコ、シーソー、うんてい、登り棒、縄跳びなどをすべてマイムで表現した「運動場の風景」はスローモーションやストップモーションを駆使した上海太郎の振付の原点とも言える。旗揚げ作品ながらその完成度を絶賛され、翌年広島は福山の世界演劇祭、京都国際ホール杮落とし、尼崎ピッコロフェスティバル等に招待される。
ダーウィンの見た悪夢」
初演:1990年アートスペース無門館、近鉄アート館  大阪、京都、東京、名古屋、ロンドン、エディンバラ、ダブリンで100ステージ以上


#1  街の風景I
#2  少年時代
#3  進化
#4  猿まね
#5  SEXミクロ編
#6  アニマルセックス
#7  SEXミクロ編II
#8  深夜徘徊族 #9  パスカルの情景
#10 胡蝶の夢
#11 狐のお宿
#12 TVの中の宇宙
#13 街の風景II
#14 サークルゲーム
#15 おもいで
#16 プロローグ

上海太郎の代表的振付け作品「進化」をはじめ「少年時代(虫取り)」「猿まね」「アニマルSEX」「夜間徘徊族(ゴキブリ)」など、動物の動きを全編に取り入れた作品。また海外での公演を意識し白い着物を着た女達が舞い踊る「狐のお宿」のような日本的なシーンもある。テーマは「我々は何処から来て何処に行くのか」



「非ユークリッド恋愛学」

初演:1991年12月大阪近鉄アート館 1992年3月青山円形劇場
1994年11月京都府民ホールALTI
動物の動きをモチーフにした前作から一転、マリオネットやロボットの動きで彩った作品。テーマはもちろん「宇宙を構成する要素としての恋愛のエナジー」。ここで生まれた「スワッピング」「プラトニック・ラブ」などのシーンはその後作品集「EROS」の中で上演されている。


「Dance」
初演:1992年豊中市ローズ文化ホール 1995年宝塚ソリオホール柿落とし公演
1997年大阪市市役所ホールなど再演多数
人はこの世に生まれ何をするのだろう。親の愛情に育まれ、また自らも子を養い育んでいくとしても、他の動物達と同様に種を保存することだけが至上命題というわけではあるまい。第1部「愛でよ育てよ」、第2部「それ行け探検隊」、第3部「いいお父さんになりたい」に分かれるこの舞台で「人生の目的」について考えた。もちろん結論なんてない。動きのモチーフは植物。



マックスウェルの悪魔
初演:1994年豊中市ローズ文化ホール 1995年新宿シアター・サンモール
2000年再びローズ文化ホール
プログラム
1恐竜の時代
2上海太郎舞踏公司的題目
3ブレイク
4ゲーム 5弱肉強食
6愛の募金活動
7愛の誕生
8花園
 i愛の花園
 ii聖戦
 iii愛は地球を救う
9 整列
10 花はどこへ行った
11、行き倒れ
12絶滅
  ついにダーウィンを超えた、と評される上海作品の中でもスケールの大きさを誇る一作。恐竜の繁栄と絶滅の描写から始まりラストでは発狂しながら絶滅へと向う人類と在りし日の恐竜達の姿がオーバーラップする。宇宙をビリヤード台に見立て人類の歴史を転がす悪魔の力をもってしても人々の心の中に広がる愛の力には勝てなかった……。〜愛は地球を滅ぼす〜熱力学第2法則から夢想する上海太郎の大予言。

「ジャックは箱の中」
1998年豊中ローズ文化ホール青山円形劇場

変なタイトルである。英語でJack in the box.はびっくり箱という意味である。「びっくり箱のように、次から次と変なシーンが飛び出す」というイメージでつけてみた。わたし(上海太郎)は英語を語順どおりに訳す癖がある。副題に「ダンスにオチがあってもいいじゃないか」というコピーをつけた言わば名場面集である。だがそのこと以上に我々にとって画期的だったのは関西を中心に若手有望株のダンサーを広く集めて行ったプロデュース公演だったということだ。プロデュース公演花盛りの時代にあって、劇団の個性を何より重視し純血主義をつらぬこうとしていたものの、前年に気に入らない劇団員を一斉解雇した結果のやけっぱちプロデュースであった。だが3ヶ月の練習期間をとり、最初の1ヶ月は上海メソッドをたたきこむというハードな公演の結果、豊中、東京で絶賛を浴びたものの300万円の赤字を出した。



「Eros」
1999年9月伊丹AIホール、2003年豊中市ローズ文化ホール、亀戸カメリアホール

#1  SEX
#2  女の友情
#3  スワッピング
#4  怪傑!黒痴漢
#5  ストリッパー
#6  プラトニック・ラブ
#7  接して排さず
#8  男の一生

エロスであれ、エロであれそれは上海太郎の永遠のテーマである。「SEX」(破鏡長円)に始まり「アニマルSEX」(ダーウィンのみた悪夢)「スワッピング」(非ユークリッド恋愛学)と毎年1作ずつ作ったエッチな作品に「DANCE」のラストシーンとして作った「いいお父さんになりたい」の4作品をまとめて上海太郎独黙劇場「SEX」として上演したのは1992年だったか。その後「路地裏のストリッパー」等を制作した勢いでタイトルを「EROS」と変え、「プラトニック・ラブ」を加えたり「アニマル〜」や「いいお父さん〜」を削除したり「怪傑黒痴漢」「接して漏らさず」などを新たに加えストイックなまでにエロに生きる男の孤独とロマンを描く硬派な作品に仕上がった。シンボリックに登場する黒痴漢は常に馬に乗って現れるが、
それこそは男の性欲の象徴であり、文字通り男に馬力を与えるパワーの根源なのだ。砂漠に倒れた愛馬におのれのマントをそっとかけ仮面も捨てた黒痴漢は荒野を何処へ向うと言うのか……。



「Rhythm」

1999年1月大阪市役所ホール、同年11月伊丹AIホール

その晩年に聴力を失っていった音楽家ベートーヴェンを題材に身体表現のみでドラマを構成した。オープニングでは第5交響曲「運命」の第1楽章にあわせて出演者全員が踊る。各々のダンサーはヴァイオリン1、ヴァイオリン2、ヴィオラコントラバス、フルート、オーボエ、ホルン、トランペットなどと楽曲を構成する楽器を担当し、楽譜どおりのリズムで可能な限り音質や情感を体で表現するという趣向だ。「DANCE」のオープニングでも同じ趣向でホルストの惑星「ジュピター」で踊ったが、このRHYTHMではこのダンスシーンがラストシーンの伏線にもなっている。作者自身がこの作品を気に入っている理由はこれといったテーマがないことか。テーマがなくても美しい。おお、すばらしい。



パラドックス



#1  レース
#2  悲観隊VS楽観隊
#3  どっちがリアルでSHOW-壁-
#4  哀しい時は笑え
#5  カメの時間、ウサギの時間
#6  どっちがリアルでSHOW-綱-
#7  嬉しい時は泣け
#8  悲観隊VS楽観隊 第二部 #9  白昼夢
#10 出会い
#11 どっちがリアルでSHOW-水-
#12 怒った時は優しく微笑め
#13 悲観隊VS楽観隊 第三部
#14 リターンマッチ前夜
#15 アキレスの夢


「Body」
#1  怪人二十面相
#2  Lesson? 消化器系
#3  Friends?
#4  私の知らない私
#5  Lesson? 消化器系
     Bloodyな奴ら
#6  Friends?
#7  Lesson? 中枢神経系
 右脳と神経細胞
#8  箱抜け
#9  Lesson? 中枢神経系
 左脳と神経細胞   #10  そして私は
#11  Lesson? 人体の構造
#12  Friends?
#13  私の社交術
#14  バー
#15  覇権戦争
#16  レントゲン
#17  俺はどこへ行った
#18  Friends?
#19  イスを取り返せ
#20  Friends?
#21  退院
「OPEf」
 プログラム
1 Homeless Man in Osaka「大阪」
2 Theme Dance     「上海太郎舞踏公司的題目」
3 Love on the Water  「湖上」
4 Keys         「ドレミファブラザーズ」
5 Hitomi's Adventure in Wonderland 「不思議の国のヒトミ」
6 Love in the Water  「恋」
7 Breakfast Menu 「朝ごはん」
8 A Button on the Beach「月夜の浜辺」
9 Foot on the Shit〜Final version 「うんこふんだ ファイナルバージョン」
10 A Funeral      「お葬式」
11 Majong Bolero 「麻雀ボレロ
12 Who is She?     「座敷童子」
13 Kanon 「カノン」
14 Freude 「風呂屋で」
 
「Scale」
#1  暴漢
#2  見ない見ます見る見る時
#3  寄らば大樹の陰
#4  バンカラ
#5  スケールを小さく見せる方法
#6  青年よ大志を抱け?
#7  スケールの小さいネタ?
#8  スケールの大きいダンス 進化
#9  スケールが大きそうで小さいネタ 便意 #10  スモールライフ
#11  アクションスターになりたい 007
#12  スケールの小さいネタ?
#13  カリスマになりたい ジーザス
#14  青年よ大志を抱け?
#15  アクションスター
#16  贖罪
#17  ラストシーン

 注目すべきは上海太郎舞踏公司は演出家・上海太郎がダンサー・振付家である冬樹(中村冬樹)と一緒に旗揚げしたカンパニーであったことです。冬樹はダンスボックスの発足時の共同プロデューサーであり関西のコンテンポラリーダンスの草分け的存在。上海太郎舞踏公司では旗揚げ公演の「破鏡重円」で振付を担当して、出演もしています。上海太郎舞踏公司はこの1作のみで退団し、自らのカンパニーである冬樹ダンスビジョンを立ち上げますが、これは当時コンテンポラリーダンスというものがほとんど知られていなかった関西においては最初のコンテンポラリーダンスカンパニーとなります。上海太郎舞踏公司をへて冬樹ダンスヴィジョンに参加したダンサーも多く、逆に垣尾優らのように冬樹ダンスヴィジョンに何度か出演した後、上海太郎舞踏公司に劇団員として在籍したダンサーもおり、こうしたメンバーは両者の間でかなりオーバーラップしています。
(「破鏡重円」の映像を見せる)
 そういう経緯もあってか、コンテンポラリーダンスとも深いつながりを持ちその黎明期に大きな影響を与えた。劇団員だった文(dancebox)、垣尾優(contact Gonzo)をはじめ、ヤザキタケシ、北村成美、いいむろなおき、村上和司、藤井雅(〇九)ら数多くの関西を代表するダンサー、パフォーマーが客演し、創作へのヒントを得ています。最近はダンス界からはその存在を無視されている感もありますが、存在意義は大きいと思われます。
 さて、では上海太郎舞踏公司の作品自体はどうでしょうか。果たしてダンスなのでしょうか。演劇なのでしょうか。結論から先に言ってしまうとダンスの要素を多く含む演劇であると考えているのですが、上海太郎のスタイルは短いシーンをつなぎながら全体の大きな構造を提示していくというものです。
 それゆえ、そこに出てくる短い場面自体は短編の独立した演目として楽しむこともできます。それらのシーンは演劇的な要素の強いものもあればダンス的な要素の強いものもあるのですが、なかでも特徴的なのは群舞です。群舞についてはいくつかそれだけを単独で取り出しても優れた作品と見なしうる水準のものがいくつかあり、そういう風に見なされることはあまりないのですが、そのうちのいくつかはコンテンポラリーダンスとしてもきわめて優れたものであると私は考えています。
 ここではそのうちの1つである「進化」を見ていただきたいと思います。「進化」は上海太郎の代表作である「ダーウィンの見た悪夢」の中核をなす場面の1つで動物の進化の過程の悠久の時間の流れをわずか数分の群舞にまとめたものでこのアイデアは今見ても素晴らしいと思います。日本の現代ダンスにおける群舞作品としてはイデビアン・クルーのいくつかの作品、あるいは黒田育世の「SIDE-B」などと並べて語られるべき作品ではないかと考えています。ここではオムニバス公演である「ジャックは箱の中」で上演された「進化」を見てもらいたいと思います。

(「ジャックは箱の中」から「進化」を見せる)
次は「非ユークリリツド恋愛学」から「初恋」を見ていただきたいと思います。こちらはマリオネットの動きを模したマイムをモチーフとして活用したものですが、カラフルな衣装と共に鮮やかな印象を残します。
(「初恋」の冒頭部分を見せる)
 群像によるマイムとダンスを組み合わせたその表現形態は、一応私はダンスパントマイムというジャンル名で呼んでいますが、世界にもあまり例のないオリジナリティーに溢れる表現です。テーストとしてはフィリツプ・ジャンティ・カンパニーなどがありますが、あれは人形劇がベースになっているのでそこは違います。あえて、似ているものを探せば水と油がありますが、ここでやはり映像の一部をお見せしますので見比べてください。作品は「不時着」です。
(水と油「不時着」映像を短く見せる)
 水と油も上海太郎舞踏公司同様にダンスとパントマイムを組み合わせた表現で「ダンスパントマイム」といっていいと思いますが、こうして比較してみるとその表現の方向に大きな違いがあることが分かっていただけるかと思います。先ほど上海太郎は演劇ですと言いましたが、こちらはダンスだという人がいてもおかしくないと思います。実は前述した冬樹ダンスヴィジョンというのも上海太郎舞踏公司と身体語彙という意味ではほとんど重なりあっているにもかかわらずこちらは歴然とダンスでした。
 セリフがなくても上海太郎の作品が演劇であると考えるのは作品において提示されるのが動きやイメージというだけではなくて、言語化可能な「意味」の世界に密接につながっているからです。そのための大きな武器がメタファー(隠喩)です。それはどんなものなのか。メタファーなどというと大仰ですが要するに「例え話」のことです。メタファーは「比喩のうち、喩えであることを明示する『〜のようだ』のような形式を用いないものを指す。典型的には『人生はドラマだ』のような形式をとる。物事のある側面を、より具体的なイメージを喚起する言葉で置き換え、簡潔に表現する機能をもつ。」(ウィキペディア)ということになります。つまり、ある内容を提示することでそこに直接は出てこない別の内容を喚起させるということなわけです。
 具体的な例がないとイメージが湧かないと思いますのでまず一例をお見せしましょう。これは旗揚げ作品である「破鏡重円」から「SEX」という場面です。上海太郎演じる若い男がキャッチボールをしている。ボーっとして見ていると一見それを描いたスケッチ的なマイムに見えるかもしれませんが、一度裏の意味に気がつくと、ほぼ全編が二重の意味をこめただまし絵的な構造を持っていることが分かると思います。同工異曲ともいえますがもう1本お見せしましょう。次は「非ユークリッド恋愛学」から「スワッピング」です。
 上海太郎の作品はこうした「小ネタ風」の場面や先ほど取り上げたダンスのような短いシーンをまるでオムニバスのようにつないで作られています。実は秀作集あるいはアンソロジーのように全体を通底するような主題はいっさいない「総集編」的な公演もなかにはあるので、いくつもの作品を見ないと勘違いすることが多いのですが、先に挙げた「ダーウィンの見た悪夢」「非ユークリッド恋愛学」「マックスウェルの悪魔」のような代表的な作品は一見バラバラに見える個々の場面が実は全体としてはひとつの壮大なビジョンのようなもののある側面を描いたものであり、それが芝居の最後に至ってジグソーパズルのようひとつにまとまってひとつの絵を描くような構造をもっているのです。そして、そのピースを束ねる糊しろのような役割を果たすのがメタファーによる二重三重の意味の重ね合わせなのです。
 実際にそれがどういうものなのかを「マックスウェルの悪魔」を例に取って見ていただきましょう。まずは冒頭の部分からしばらくを見ていただきます。表題は「恐竜の時代」「上海太郎舞踏公司的演目」「ブレイク」「ゲーム」です。手元に94年12月号の演劇情報誌jAMCiに掲載しました「下北沢通信」のレビューを配布しました。ここで上海太郎の作品について詳細に解説しましたので今回はこれを基に実際の作品を見ていきたいと思います。
 (「マックスウェルの悪魔」の冒頭部分を流す)
 先ほど話しましたメタファーによる意味の重ね合わせ・重層化をもっとも典型的な形で見ることができるのが「マックスウェルの悪魔」です。「恐竜の時代」は音楽に合わせて恐竜の動きを形態模写してみせるマイムパフォーマンスで、その意味では「進化」の延長線上にあるということができます。単に恐竜を模すというだけではなく、長大な時間を圧縮して見せて恐竜の繁栄と滅亡をわずかの時間において見せてしまう。こうした仕掛けは上海太郎ならではのものといえるでしょう。「マックスウェルの悪魔」の主題は熱力学第二法則です。「エントロピー(乱雑さ)は増大する」というのが熱力学第二法則なわけですが、実はこの場面は単に恐竜の滅亡を描いたというわけではありません。いくつかの相異なるフェーズが二重写し、三重写しになっているのです。
 これを前提にもう一度「恐竜の時代」を考えてみましょう。恐竜の繁栄と滅亡を描いた場面はそのイメージを物質宇宙に置き換えれば宇宙の生成と滅亡のイメージと重なり合うことになります。
 上海太郎のもうひとつの特徴は宇宙の生成と滅亡/恐竜の繁栄と滅亡のような「同型」の構造により互いが互いのイメージの喚起を促進するというようなメタファー的関係だけではなくて、直接の意味上のつながりがない場面通しを「動きあるいは構図の同期(シンクロ)」により重ね合わせるという技法も多用している。
2001 A Space Odyssey
 
 これは「2001年宇宙の旅」の冒頭部分の映像であるが、この最後の方で骨を道具とする智恵を得たサルが手に持った骨を中空に投げるとそれがくるくると飛んで行って、次の場面ではそれが無重力状態のなかで公転する宇宙船となっている。ここでは直接の意味上のつながりはない2つの場面を動きと形の同期(類似)でつなぐことによってそこに新たな意味が生じる。これと同様なことを上海太郎は「マックスウェルの悪魔」で随所におこなっているのである。
 もっとも顕著な形でそれがなされているのが冒頭の「恐竜の時代」と最後の「絶滅」との2つの場面のシンクロである。ここでは「恐竜の時代」の動きが再び繰り返されるのであるが、最初の場面では恐竜を演じるパフォーマーは白いつなぎの衣装を着ており、できるだけ演じているのは実際は人間であるということを隠ぺいしようとしているのだが、最後の「絶滅」では同じ恐竜の動きがほかの場面に登場した人間の服装のままで演じられる。それでどういうことが読み取れるのかというと、これはここで暗示されるのは恐竜と同様に滅亡へと向っている人間の姿なのである。
 「恐竜の時代」の後に続く、「ゲーム」の部分はパフォーマーが次々と衣装を早替えしながら、カジノからルーレット、カード(ブラック・ジャック)、ビリヤードと次々といろんな種類のゲームがダンスアンサンブルによって提示されていき、偶然に支配されているこの世界を自由自在に操る「マックスウェルの悪魔」の姿が描かれるのだが、注目してほしいのはここに現れたいろんな動きやパフォーマーの配置が別の場面にも登場してくることで、観客は離れた位置に置かれた一見無関係な場面にある種の関連性のようなものが現れるのを目撃することになる。一例を挙げるのであれば「整列」という場面には「ゲーム」のカードシャッフルとほぼ同じ動きが繰り返されます。これによって一見コント風に見えるこの場面が「社会の秩序」に挑戦する「マックスウェルの悪魔」のトリックスター的な性格を提示した主題的にも重要な場面でもあったことが浮かび上がってくるのです。ゲームの動きは「花園」から始まる宗教について描いた一連の場面にも随所で登場し、それは場面と場面を貫く、縦糸のような構造をなしています。
 上海太郎舞踏公司の代表作、海外でも公演し100以上のステージ数を重ねた作品が「ダーウィンの見た悪夢」です。この作品はグループダンスである「進化」を中核にやはり一見コント風にも見える場面をつなぎながら、上海太郎が演じるひとりの浮浪者の死と「進化」の場面に代表されるような生命全体の壮大な大きな流れのようなものを重ね合わせることで壮大なビジョンを提示していきます。この作品にはいろんな生物が登場しますが、それはやはり人間の姿を暗示させるメタファー的な場面なわけです。ここでは少し編集がよくないのですが、まず短くまとめたショートバージョンをお見せすることにします。
(「ダーウィンの見た悪夢」短縮バージョン) 
 これは1993年の近鉄アート館での公演なのですが、一部メンバーの入れ替えがあった後、この作品はロンドン、ダブリンで海外公演をし、そのうちのロンドン公演には私も帯同してすべてのステージを見てきました。ここでは時間の制約上すべてをお見せすることができなくて非常に残念なのですが、後ほど映像上映会に機会なども作りたいと思いますので、興味をもたれた方はそちらもぜひどうぞ。
 私個人はあくまでも上海太郎の本領は集団によるダンスパントマイムを作る時、しかもシリアスな主題を分かりやすく表現することにこそ発揮されると考えているので、若干の不満があったのですが、最近は劇団としての上海太郎舞踏公司は解散してしまっていたこともあって、ソロ公演とクラシックの名曲に勝手な歌詞を付けてアカペラで歌う上海太郎舞踏公司Bの活動が中心になってきていました。
上海太郎舞踏公司B「朝ごはん」

 これも凝り性なところがよく出ているもので、評価が高いのはうなずけるところもあったのですが、こういう遊びもいいけれどもうそろそろちゃんと舞台作品を作ってほしいと内心では考えていました。その意味で9月に新カンパニー「上海太郎カンパニー」を立ち上げ、そこで「Rhythm」を再演するというのは私にとって非常に嬉しい話でした。
 この「Rhythm」は舞台をぜひ生で見てほしいのですが、予告編の意味もこめて最後にそのさわりの部分を上映してみたいと思います。

劇団そとばこまち
1976年に京都大学演劇研究会を母体にして誕生した学内サークル「卒塔婆小町」が発祥である。1978年5月に創設メンバーが全員脱退し、辰巳琢郎・川下大洋ら当時の大学1回、2回生のメンバーで新たに「劇団卒塔婆小町」として立ち上げた。1979年6月に現在の名称となる。

1988年より4代目座長生瀬勝久、山西惇、みやなおこ、八十田勇一らが中心メンバーとして、東京公演、テレビなどのメディアでも活躍。 代表作は「冬の絵空」「おまえを殺しちゃうかもしれない」「Zizzy」「Torch」など。

2001年、上記メンバーが脱退して、現在に至る。

劇団としての連続性はあるものの、座長が変わるごとに主要な劇団員、作風ががらりと変わるのが特徴である。
歴代座長
辰巳琢郎(2代目座長、当時 つみつくろう)
上海太郎(3代目座長)
生瀬勝久(4代目座長、当時 槍魔栗三助
小原延之(5代目座長)
北川肇(6代目・現座長)

かつて所属していた劇団員 [編集]
川下大洋(在籍時の芸名:はりけーんばんび) 小松純也  曽木亜古弥(在籍時の芸名:曽木康代) 丸山啓吾 安田光堂 八十田勇一 山崎和佳奈 山西惇
三沢恵里 石原正一 みやなおこ 上海きょん 辰巳いくお

ウィキペディア辞書より引用

そとばこまち 主な上演作品
1978
そとばこまち「緑色のストッキング」at 同志社大学新町別館小ホール
1979
そとばこまち「天才バカボンのパパなのだ」at 同志社大学新町別館小ホール
そとばこまち「真夏の夜の夢」at 同志社大学新町別館小ホール
そとばこまちファンの集いin京大11月祭
1980
そとばこまち「ヨコハマるんるん・追いかけてたそがれ」at いづもホール
そとばこまち「十二夜」at オレンジルーム
そとばこまち「中華風倭人伝」at 同志社大学新町別館小ホール
そとばこまちファンの集いin京大11月祭
1981
そとばこまち「中華風倭人伝」at オレンジルーム
そとばこまち「THE しばい PARTY」at 同志社大学新町別館小ホール
そとばこまち「いつも心に太陽を」at そとばこまち御池アトリエ
そとばこまち「猿飛佐助」at オレンジルーム
1982
そとばこまち「明日に向かってすべれ!受験編」at オレンジルーム
そとばこまち「からさわぎ」at オレンジルーム
そとばこまち「オズの魔法使い」at バナナホール 初演出
そとばこまち「よしだ花月」in京大11月祭
そとばこまち「太陽のそばの十二月」at スタジオ200
1983
そとばこまち「猿飛佐助」at サンケイホール
そとばこまち「テンペスト」at オレンジルーム
そとばこまち「よしだ花月」in京大11月祭
そとばこまち「ストリッパー物語」at 京都花月
1984
そとばこまち「五線譜のうえの国」at オレンジルーム
そとばこまち「オズの魔法使い」at そとばこまち御池アトリエ
そとばこまち「今は昔、栄養映画館」at そとばこまち御池アトリエ
そとばこまち「2人だけのパーティ」at そとばこまち御池アトリエ
そとばこまち「仮免ロミオの大冒険」at そとばこまち御池アトリエ
そとばこまち「よしだ花月」in京大11月祭
1985
そとばこまち「ご主人はストレンジャー」at そとばこまち御池アトリエ
そとばこまち「オセロー」at そとばこまち御池アトリエ
そとばこまち「風のウィザード」at オレンジルーム
そとばこまち「お気に召すまま」at そとばこまち松原アトリエ
そとばこまち「よしだ花月」in京大11月祭
1986
そとばこまち「おかしな二人」at そとばこまち松原アトリエ
そとばこまち「アイスドールを追え!」at そとばこまち松原アトリエ
そとばこまち「ボギー!俺も男だ」at 資生堂ホール
そとばこまち「よしだ花月」in京大11月祭
1987
そとばこまち「中華風倭人伝」at そとばこまち松原アトリエ
そとばこまち「今は昔、栄養映画館」at そとばこまち松原アトリエ
そとばこまち「真夏の夜の夢」at そとばこまち松原アトリエ
そとばこまち「メモリアルトライアングル」at 近鉄小劇場
そとばこまち「しばいパーティ」in京大11月祭
そとばこまち「忠臣蔵」at そとばこまち松原アトリエ
1988
そとばこまち「五線譜のうえの国」at MIDシアター


http://www.bloc.jp/simokitazawa/

*1:http://www.shang-pagnie.com/

*2:宮城聰、安田雅弘、上海太郎鼎談http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/00000311