2月のお薦め芝居(2006年)



2月のお薦め芝居


2月のお薦め芝居

by中西理



 




 今月は本当に困った。絶対落とせないという公演が毎月何本かづつはあるのだけれど、同じ週の週末に3つも4つも重なっていたりする。以前、シベリア少女鉄道の土屋亮一くんが彼の場合の芝居を作っていくときの苦労を語ってくれていたことがあったけれど、まさにあっち立てればこっち立たず。スケジュールを組んでいくだけで、究極の選択を迫れている思いである。そして、こういう時に限って一番いいのを見逃すのね。本当にもう。
 これまで演劇・ダンスの公演レビューを中心に執筆してきた大阪日記だが、少し演劇・ダンスについての長い論考を書いてみようかと思っていて、そのための頭の準備体操的な感じで「ダンスについて考えてみる」という文章を連載開始した。とりあえずのターゲットは「ダンスにおける即興」と「ノイズ的身体」だが、いまのところ「ダンスについて考えてみる(即興について2、3)」で即興について考察中。感想などあれば歓迎します。
 最近はmixiにもはまっています、マイミク募集中なので皆さんよろしくお願いします。




 2月(2月13日−3月12日)は演劇では今もっとも注目すべき劇団が立て続けに公演を行う。チェルフィッチュ「三月の5日間」★★★★(六本木スーパーデラックス)、ポツドール「夢の城」★★★★(新宿シアターTOPS)、五反田団「ふたりいる風景」★★★★こまばアゴラ劇場)である。
 岸田戯曲賞を昨年の岡田利規チェルフィッチュ)に続いて今年はなんと三浦大輔ポツドール)が受賞したが、「三月の5日間」はその受賞作の再演。芝居の冒頭近くに六本木のライブハウスというのが出てくるのだが、それが実は今回の公演の会場となるスーパーデラックスだったらしい。こういうサイトスペシフィックな仕掛けを考えるのがチェルフィッチュらしいなとも思うが、ここまで来ると本当は発端の場所である六本木ではなく、この舞台のメインの舞台となった渋谷のラブホテルでの公演というのを期待してしまう。だけど、稼働率高いようだから、そんな目的で借りたら高いのだろうな。他の客も困るだろうし(笑い)。
 でも、この演劇は初演の時に「渋谷のラブホからイラクの戦争を俯瞰する」と初演の感想で書いたように「その時の東京」そして特に六本木と渋谷を描いたものでもあるから、見終わって会場から出たらそこが朝の渋谷というのが最高のロケーションなんだけれどなあ。
 実はもっと正しいこの芝居の鑑賞法は芝居を六本木で見た後、誰かと渋谷のラブホに行き、そこで朝までいるということなんだけれど、私には実現不可能そうなので……誰か付き合ってくれる人いませんか。いや、何の下心もありません。純粋に芸術鑑賞のための行為ですから……。
 岸田戯曲賞の受賞で計らずも、受賞後第一作の新作となった「夢の城」。はたして三浦はここでどんな舞台を見せてくれるのか。岸田戯曲賞受賞という演劇界の内部的なことだけでなく「男の夢」がテレビの「演技者。」でジャニーズのキャストにより放映されるなど、いまや勢いはとどまるところを知らず。メジャーになっても日和見はしないで、人間に対する悪意に満ちた舞台を作り続けてほしいと思うが、今回も「最低な人間の最低な生活の最低な光景をお見せします」と書いているから、大丈夫だろう多分。もちろん、私にとって大丈夫だということはこの劇団の場合、見終わって生理的に耐えられなかったりして、怒る人はかならずいると思う。たのむから、そういう時は劇団宛に嫌がらせメールを送るだけで済ませて、私に責任転嫁するのだけはやめてほしい。この芝居お薦めだけど、いわば劇薬。誰にもお薦めできるものではありません。嫌な気分になりたい人だけ、劇場に出かけてください。
 そして、こちらは惜しくも受賞を逃したがやはり岸田戯曲賞の最終候補にノミネートされていた前田司郎の新作「ふたりいる風景」。個人的にはこのところ一時の馬鹿馬鹿しいばかりに馬鹿馬鹿しいよさが薄れてちょっといい話だったりするのはどうよと思うのだが、アゴラのサイトで確認してみると今度の舞台はインターネット演劇大賞のあの傑作「ながく吐息」以来、モチーフに尿が復活(笑い)。なんとなく、よさげな予感。
 さらにMONOの金替康博、そして私の個人的アイドル、後藤飛鳥ちゃんが客演……後藤飛鳥五反田団)」。一瞬、目が点に。確かに五反田団には出演はしていたけれど、いつの間に後藤飛鳥五反田団の劇団員になっていたんだ!。ポかリン記憶舎、スクエア、ロリータ男爵、birds eye view……いろんな劇団に客演していたけれど、これまで入団したことなかったのに。恐るべし前田司郎。




 最近のショッキングなニュースは水と油の解散(正確には活動休止)。4人のメンバーがそれぞれ別々に作品を上演した公演を京都で見たばかりだったので、この決断は驚きはしたが、やはりそうかという予感のようなものはあった。そういうわけでとりあえずの4人での活動の最終公演となる水と油「均衡」★★★★は見逃せない……のだが、劇団サイトとe+見て見ると、私が行こうと思っていた25日の昼の回はチケットすべてソールドアウトじゃないか。そういえば、結局、運良くチケットが手に入り見ることができたのではあるが、新国立劇場の時も同じ羽目に陥ったような。だれか、チケットゆずってくれませんか(涙)。
 とにかく、私が見られるかどうかはともかく、まだこの集団の公演見たことがない人は当日券に挑戦する価値おおいにありです。おのでらんがフランスにマイム修業に出かけるほか、メンバー個々はこれからも活動を継続していくけれど、4人がそろうのは当面これが最後ですから。世界にも稀な絶妙のアンサンブルは見逃すと後悔しますよ。




 反対にこれもびっくりしたけれど嬉しいニュースはロマンチカの復活。しかも、本格的に劇場での公演となるといつ以来のことなんだろうか。そういう意味でロマンチカ「PORNO」★★★★は絶対に見逃すことができません。
せっかくなので今後は継続的に活動してほしいとの思いはあるのだけれど、今度いつ見ることができるのかは神のみぞ知るってところもありますから。しかも、もうひとつの驚きは音楽監督:飴屋法水のクレジット。ここの場合、主宰の林巻子は女子美出身で美術の人でもありますから、舞台美術ではないというのは分かるのだけれど……音楽監督は謎です。女性を中心にした舞台でのレビューといえば最近では毛皮族のそれが有名ですが、ロマンチカのそれはまったくワンアンドオンリーの世界。耽美的でありながら、ポップでアートでキッチュな林巻子の美学が舞台の支配して、限りない快楽の世界に観客を誘います。




 弘前劇場を退団して自らの集団を立ち上げた畑澤聖悟の新作渡辺源四郎商店「夜の行進」★★★★もどんなモノを見せてくれるのか興味津々である。背負ってきた弘前劇場という看板を脱ぎ捨てたときに現れる姿はどんなものなのか。それはこれまでと同じなのか、違うのか。詳しい筋立ては分からないが、畑澤に聞いたところ、「今回はイタコの話」になるらしい。以前、畑澤がラジオドラマで「イタコに率いられた高校が甲子園に出場して大活躍する」という話を書いたと聞いたことがあったので、恐る恐る「ひょっとして、あれの舞台化ですか」と聞くと、「そんなわけないでしょ」と一言。いくらなんでもそれはないか(笑い)。




 関西の演劇ファンへの朗報はあのシベリア少女鉄道が精華演劇祭に参加、6月にも関西で初めての公演を行うことだが、その前に新作シベリア少女鉄道「ここでキスして。」★★★★が新宿南口の紀伊国屋サザンシアターで上演される。前作シアターサンモールでの「スラムダンク」はさすがに「もうネタ切れ?」の声を覆ししぶとく健在を見せ付けた公演となったが、紀伊国屋サザンでの前回公演は「中劇場は苦しいのでは」の評判も一部にあったので、土屋にとってはリベンジということになるだろうか。
 シベ少の場合、舞台が始まる前にネタばれするわけにもいかないので、いつもどおりに内容は不明だが、サイトによれば「 〜 踏み出せば その一足が道となり その一足が道となる迷わず行こう 行けば分かるさ 〜 日本語って不思議なもので、ある意味これぞ「シチュエーションコメデイ中のシチュエーションコメディ」! 危機一髪の、抱腹絶倒の、阿鼻叫喚の、死屍累々の地獄絵図。自由と混沌に酔う(きもちわるくなる)、世界一誠実なコメディをあなたに。」ということになる。
 これと表題「ここでキスして。」をデータにあなたは今回どんな話(仕掛け)を推理するか。実はシベリア少女鉄道の楽しみはここからすでに始まっている。




 今月は先月以上に注目のダンス公演が目白押し。実はえんぺへの掲載時期が不安定なので先月のお薦めで一部前倒しで紹介してることもあって、若干の重複は許してほしい。そのなかでレニ・バッソ*1「Elephant Rose」★★★★伊丹アイホール、2月17、18日)は日本でもっともクールでカッコいいコンテンポラリーダンスを見せてくれる集団の新作、しかもひさびさの関西公演ということでそれこそダンスファンだったら必見中の必見である。
 「日本人には珍しいクールなセンスと構成力の確かさが光る新進気鋭の振付家。10代のころから早くも将来を嘱望され、一昨年には文化庁の派遣留学生としてドイツで遊学。帰国後は立て続けに新作を発表するなど、精力的に創作活動に取り組んでいる。2月末に横浜で開催されたバニョレ国際振付賞の、ジャパンプラットフォームの候補振付家11人のひとりにも選ばれており、今後国際的な活躍が期待される、コンテンポラリー・ダンス界のサラブレッド的存在である。(中西理/広告批評 「クリエイターズマップ1998」 1998年2月号)」と北村明子のことを書いたのがもう8年も前のことになるが、その後、北村とそのカンパニーは世界を股にかけた活躍ぶり。それは嬉しいことではあるが、それだけにこれを見逃すと今度いつ関西で見られるか分からないよ。 




 昨年の横浜ソロ&デュオで苦節10年にしてついにナショナル協議員賞を射止め、新たな一歩を歩みだした濱谷由美子のCRUSTACEA「R」★★★★(アートシアターdB、2月18、19日)もぜひ薦めたい舞台だ。「R」は濱谷が一昨年に上演した作品*2の再演ではあるが、映像や舞台美術を初めて使ったことでやや焦点がぼけてしまったその時の作品を純粋に身体の動きだけに焦点を絞り込む形でタイトに再構築したのが、今回の作品では先日横浜ダンスコレクションで上演したワーク・イン・プログレス的な公演を見る限りは「立ち尽くすダンス」というそのラジカルなコンセプトは一層露わになって、完成度においてはまだ若干の難があったものの、ダンスに対するラジカルなアプローチは刺激的であった。
 前作の「SPIN」そしてその発展形といえる「GARDEN」は「倒れるまで踊り続ける」という作品だったが、こちらは「倒れるまで立ち尽くし続ける」という作品。やっている作業は一見対極的に見えるが、いずれも身体に通常ではない負荷をかけ続けていくことで、初めて立ち現れる身体のありようを舞台上に提示してみせるという意味では共通点があり、この2作品は2部作としていわば双子のような作品ともいえる。実は負荷をかけることで、立ち現れる身体のアンコントローラブルな動き、いわばノイズ的身体*3にこそ最近の日本のコンテンポラリーダンスの新たな問題意識があるのじゃないかと今、考えていて、その意味でもこの作品には注目したいのである。




 前回も書いたが関西ではここ十数年アートシアターdBなどを中心にジャンルとしてのコンテンポラリーダンスが定着しつつはあるが、その中心はソロないしデュオのダンスで東京と比べるとカンパニーの公演が少ないのが観客の裾野を広げるという意味では大きなネックとなってきた。ところがここに来てj.a.m.Dance ThetreやLo-lo Lo-lo、そしてきたまりのKIKIKIKIKIKIなどカンパニー志向の活動が少しずつ広がりはじめて、そのなかから内容はもちろんだが、動員という意味でもリーディング・カンパニーとなりうるような存在がそのなかから登場してほしいとの期待が膨らんでいる。
 その意味で注目したいのがj.a.m.Dance Theatre「カルラ×カルラ」★★★。相原マユコの新作である。昨年上演した「ダミーピープル」は欧州のダンスコンテンポラリーヌの影響(ジョセフ・ナジやマギー・マランの作品を想起させる)を強く感じたことがあり、作品としての完成度は非常に高かった(このまま海外のフェスティバルに持っていってもおそらく通用する)のだが、私にとってはなぜこういう傾向の作品を「いま・ここ」でやるのかという疑問がぬぐいきれなくて、ちょっと評価に困ってしまった。ラバンセンターの出身で優等生的なところがある相原の育ちがやや裏目に出てしまったというのが正直な印象だったのだが、まだ、成長途上にある集団であるし、参加しているダンサー個々のクオリティーは高いので、今回の作品はどんなものになるのか、期待と不安半々というところなのである。あまり、「お薦め」になってないじゃないかと思うかもしれないけれど、関西のコンテンポラリーダンスの浮沈は彼女らにかかっていると思うゆえの苛立ちと思って勘弁してほしい。




 そう言う意味ではもっと圧倒的に困ってるのがヤザキタケシ「in the Octopus Garden 〜柔らかな夜に蛸は〜」★(横浜BankART)である。ヤザキは関西でもっとも才能のあるコンテンポラリーダンサー・振付家で昨年末にひさびさの本公演として上演された「ブルータイム」は断トツ昨年のベストといっていい公演であった。
そういうヤザキを東京のダンスファン・関係者にももっと知ってもらいたいと思い、貴重な関東での公演となる横浜でのソロ公演には個人的に凄く期待していたのだけれど……。「それで持って行くのがこれかよ」(笑い)。この作品は芸人ヤザキタケシの実力は十分すぎるほど発揮しているけれど、コンテンポラリーダンスではありません(きっぱり)。だから、勘違いされるのが嫌なのであまり東京のダンス関係者には見てもらいたくありません、というか……こんなの持ってたら関西のダンスはやっぱり「お笑い」だという間違った観念を余計に植え付けてしまうじゃないか。ちなみにヤザキは蛸の怪人に扮して、着ぐるみを着て踊ります(苦笑)。それでも確かにこの人はダンサーとしては凄いということだけは分かるので、それでいいという人はどうぞ。私はあえてお薦めしませんが。




 松田正隆の新作戯曲をテキストにじゃれみさがダンス作品を創作するという無謀企画砂連尾理+寺田みさこ「パライソノート」★★★★も何がでてくるのか予想がつかない点では相当の見ものだ。昨年末に企画されたリーディング公演にはいけなかったので、どうなるのか検討もつかないが、その前にやった松田の既存戯曲をダンス化した「I was born」は予想以上に面白かったので、ひょっとしたら瓢箪から駒松田正隆作品の上演史に残る傑作が上演されるかもしれない。ただ、難解で知られる最近の松田戯曲、一筋縄ではいかないことが予想されるだけに丁とでるか半とでるか、大いなる失敗作の可能性も含め問題作となることだけは間違いなさそうだ。




 世界のコンテンポラリーダンスの振付家のなかでひとりだけ選べと言われたら、私の場合躊躇なくウィリアム・フォーサイスを選ぶ。そのフォーサイスが本拠地としていたフランクフルトバレエ団を市側の勝手な都合で追い出されると聞いた時にはずいぶん心配したのだけれど、それだけに新カンパニーを引き連れて彼がどんなものを見せてくれるのかは。ザ・フォーサイス・カンパニー「Aプログラム "You made me a monster"「Performance-Installation」★★★★Bプログラム"Clouds after Cranach" "7 to 10 Passages""One flat thing, reproduced」★★★★は注目中の注目である。こちらも問題はチケットがまだ残ってるのかと休みがとれるのかなのだが……。




 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。特にチェルフィッチュについてはどこかにまとまった形で書いておきたいと思っているのだけれど、どこか書かせてくれるという媒体はないだろうか。
 私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。

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中西