6月のお薦め芝居(2006年)



6月のお薦め芝居


6月のお薦め芝居

by中西理



 




 6月の観劇は個人的には抑え目に。サッカーW杯がはじまるため、そちらにシフトした予定を立て、観劇のための遠征なども少なくしているからなのだが、それでも見逃せない舞台はいくつもありそう。ポツドールチェルフィッチュシベリア少女鉄道五反田団弘前劇場をはじめとした感想を大阪日記の方で執筆したので興味のある人は覗いてみてほしい。





 6月のイチオシはなんといっても元惑星ピスタチオ西田シャトナーが作演出、日本のパントマイムの第一人者であるいいむろなおきが出演するという佐野キリコの演劇 セカンド・プロデュース 恐竜から鳥への変異をたどるエピソード「化石に関する5つの寓話」★★★★(アリス零番舘IST)である。


野外劇団「楽市楽座」の看板女優、佐野キリコによるプロデュース公演だが、共演がフランスのマルセル・マルソーにマイムを師事、その技術の高さでは日本随一といってもいいいいむろなおき、元宝塚娘役スターで現在は商業演劇を中心に活躍している紫城いずみというなんとも異色な顔合わせ。しかも西田シャトナーが書き下ろし新作を自ら演出というのはちょっとどんな舞台になるのか想像がつかない組み合わせなのである。


 「恐竜から鳥への変異をたどる5つのエピソード」というのだけれど、シャトナーだけに単なるオムニバスというにとどまらない進化についてのシャトナー一流の解釈が展開されそう。基本的には佐野、紫城の2人芝居にいいむろがマイムでからむという構成になるらしいのだが、シャトナー演出だけにいいむろを手に入れてピスタチオでも実現しなかった超絶技巧のスーパーパワーマイムが爆発する、ことになるのだろうか(笑い)。今年のシャトナーはすでに「巨獣」で劇作家・演出家としての健在ぶりを見せてくれただけにこの新しいコラボレーションも注目である。  




 昨年のMIKUNI YANAIHARA POJECT「3年2組」は個人的には2005年演劇ベストアクト1位に選んだ刺激的な舞台であった。それは彼女のダンスにおける方法論を演劇に生かし、会話体としての台詞を温存しながら、その台詞を速射砲のように俳優が発話できる限界を超えた速さでしゃべらせることで、言語テキストにまるでダンスのようなドライブ感を持たせた。それが音楽や映像とシンクロしていくことで、高揚感が持続する舞台を作りあげ、21世紀の「夢の遊眠社」を思わせた。となれば、ダンスカンパニー、ニブロール矢内原美邦の演劇プロジェクトMIKUNI YANAIHARA POJECT「青ノ鳥」★★★★では「3年2組」で試みた演劇的実験が今度はどんな風に新たな形で展開するのかが本当に楽しみ。


 チェルフィッチュ岡田利規のダンス作品への挑戦はその作品がトヨタコレオグラフィーアワードに選ばれるなどコンテンポラリーダンスの世界にある種の衝撃をもたらしたが、本当は矢内原のダンスから演劇への挑発も岡田と同等以上のインパクトでもって評価されるべきことだったと思う。実際にはある意味、黙殺された印象もあることが、演劇界の保守性をそのまま物語っていたとも感じたのだが、今度はどうなんだろうか。どういうものになるのかは分からないがくれぐれも台詞が聞こえないなどという無意味な批判はやめてほしい。もしそうだったとしても、それは最初から確信犯として行われていることなのだから。 




 一方、珍しいキノコ舞踊団の伊藤千枝によるソロ公演伊藤千枝ソロ「私、潜るわ。」★★★★にも注目したい。紹介サイトによれば本人曰く、「『モテる』ためにはどうしたらいいか考えた末、『潜る』ことにした」とのこと、というのですが……まったく意味が分かりません(笑い)。
舞台を見たらそのなぞは解くことができるのでしょうか。このひとを食ったようなコメントからどんな作品が立ち上がるのか。これは会場にいって確かめてみるしかないでしょう。




 ひさしぶりのはせひろいちの新作となるジャブジャブサーキット「亡者からの手紙」★★★★(ザ・スズナリ)は幻想的な作風で知られる異色のミステリ作家、日影丈吉の世界に挑戦するというのも注目。これまでもミステリ的要素の強い作品で傑作を上演した集団がどのようにこの作家に挑むのか。演劇ファンのみならず、ミステリファンにも必見の公演になりそう。




 ダンスでは京都芸術センターで開催される2つの公演京都コンテンポラリーダンスラボBridge「Gala Performance」★★★★山田せつこダンスシリーズ「奇妙な孤独」★★★★が注目。コンテンポラリーダンスのワークショップであるPre-Coaching Project"Bridge (プレ・コーチングプロジェクト”ブリッジ”)の最後を飾る文字通りのガラパフォーマンスで公演にはこの企画で講師をつとめてきた京都を代表する振付家・ダンサーが一堂に顔をそろえる豪華な顔ぶれ。メンバーの顔ぶれと作品は以下の通り。黒子さなえ「未定」、坂本公成+MONOCHROME CIRCUS 「きざはし」(新作)、砂連尾理+寺田みさこ「未定」、セレノグラフィカ「それをすると」、納谷衣美×山下残「シビビビ」。京都のコンテンポラリーダンスの底力を感じさせるプログラムとなりそうで、ダンスファンのみならず、これからコンテンポラリーダンスを見てみようかという人にもお薦めの公演となりそう。


一方、枇杷系の山田せつこが松田正隆作品などへの出演で知られる女優、内田淳子とデュオダンスを踊るというちょっと気になる企画が「奇妙な孤独」である。内田はこれまでパフォーマンス系の演劇作品には出演経験があってもおそらくダンスそのものの公演に挑戦するのは初めて。それだけにこちらの方はどんなものになるのか未知数。内田は女優としてもどちらかというとナチュラル・ボーン・アクトレスのタイプで、感情表出などには非凡なものを見せる半面、身体の制御やコントロールに長けたタイプのパフォーマーとはいい難い。
それだけにそれをどんな風に山田せつこが料理するのかには非常に興味がそそられる。 




 音楽座ミュージカル/Rカンパニー「泣かないで」★★★★遠藤周作の「わたしが・棄てた・女」を原作に音楽座が上演したミュージカルの10年ぶりの再々演。


 実は音楽座についてはオリジナルミュージカルを専門に上演する集団として、日本で唯一評価してきた集団であったのだが、いろんな事情で一時活動休止となった後、新体制となったRカンパニーではアンサンブルのレベルなどでやや不満がないではなかった。ただ、今回は初演、再演で主役のミツ役を演じた音楽座の看板のひとり、今津朋子が復帰して、当たり役を演じるだけにおおいに期待ができそう。この作品はハンセン病の看護に生涯をささげた女性を主人公にした日本のミュージカルでは珍しいシリアスな主題を取り上げた作品。遠藤周作の小説が原作であるとはいえ、12年前の初演時にはこの作品をミュージカルとして上演するというのはタブーへの挑戦だったと思われ、音楽座という劇団の作品作りへの姿勢の一端を示すものだったと思う。


 ハンセン病については1998年には国立療養所(星塚敬愛園・菊池恵楓園)の入所者13人が国を相手取り「『らい予防法』違憲国家賠償請求訴訟」を熊本地裁に提訴し、2001年5月には、厚生省、国会の責任を認める有罪判決が下った。国は控訴を断念し元患者や遺族に補償金が支払われることになり、「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」が制定された。


 ただその後も2003年11月療養所入所者のアイレディース宮殿黒川温泉ホテルへの宿泊が拒否された問題(ハンセン病元患者宿泊拒否事件)が引き起こされるなど無理解ゆえの差別は続いている。おそらく、このミュージカルの上演にはそうした背景もあると思われるが、そういうことと関係なく、ミュージカルとしてもよく出来た作品であり、ひさびさに今津朋子の雄姿を見られるという意味でも楽しみな公演なのだ。




 演劇雑誌「悲劇喜劇」8月号の特集で三浦大輔ポツドール)と岡田利規チェルフィッチュ)についての小論を執筆しました。興味のある人は読んでみてください。
 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。特にチェルフィッチュについてはどこかにまとまった形で書いておきたいと思っているのだけれど、どこか書かせてくれるという媒体はないだろうか。
 私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。

   |







中西