7月のお薦め芝居(2006年)



7月のお薦め芝居


7月のお薦め芝居

by中西理



 




 7月は維新派、関西に初登場のシベリア少女鉄道、こちらも関西初登場劇団が東京から京都に大挙してやってくる「TOKYOSCAPE」、きたまりが出場するトヨタコレオグラフィーアワード、少年王者舘、大阪ショートプレイフェスティバル(チェルフィッチュ+ほうほう堂、身体表現サークルら、上海太郎舞踏公司、ヤザキタケシと東西の注目集団が集う)、毛皮族と注目の舞台が目白押しである。きたまりのインタビューを大阪日記に近々掲載予定。興味のある人はどうぞ。





 7月のイチオシはシベリア少女鉄道残酷な神が支配する」★★★★(精華小劇場)である。継続的にとはいい難いものの、チェルフィッチュポツドール毛皮族五反田団と東京の注目劇団が関西公演を実現してきたなかで、最後に残された待望ひさしい大物である。


 表題は少女漫画界の巨匠、萩尾望都の長編漫画と同じなのだが、これが果たして内容に関係あるのかどうか。すでに東京公演は開始されており、私も明日見に行く予定だが、今回はどんな仕掛けを用意してくれるんだろうと今から楽しみ。


 というわけで大阪での初公演の前に出来栄えが知りたくて観劇してきた。ここでネタばれするわけにもいかないので、どうしても抽象的な感想にならざるをえないのが心苦しいが、ラストの切れ味はこれまでに上演されたこの劇団の代表作「耳をすませば」「二十四の瞳」に匹敵する鋭さで、大阪公演を見ようかどうか迷ってる人がいたら、絶対お薦め。前半はある大学を舞台とする誘拐事件をめぐる捜査陣と犯人側のやりとりがミステリ劇としても緻密なタッチでサスペンスフルに展開していくのですが、事件が解明に向かう過程でもどうしても解けない謎が残り、それが後半に至るやシベ少独特の崩壊感覚のもとに見事に解決*1(?)されていきます。


 ミステリファン必見といいたいけれど、それで見に来て怒ったとしても感知しません(笑い)。ミステリファンでは特に「馬鹿ミス」ファンの人に限定でお薦め(笑い)。「残酷な神」は確かに舞台に降臨し、私たちの前にその恐ろしい姿を現してくれました。萩尾望都とは関係ないでしょうね、これは(笑い)。 




 今月は関西では初登場6劇団(ポかリン記憶舎、reset-N、桃唄309、birds eye view、ユニークポイント、風琴工房)が東京から京都に大挙してやってきて開催する「TOKYOSCAPE」★★★★にも注目したい。


 なかでもこの企画のうちのイチオシ中のイチオシとして関西の演劇ファンにぜひとも見てもらいたいのがポかリン記憶舎「煙の行方」★★★★(7月28日[金]─ 30日[日] 京都・西陣・須佐命舎)である。「煙の行方」は再演だが、いかにも夏らしさの満喫できるポかリンならではの楽園感覚の充溢した舞台。「地上3cmの楽園」のキャッチフレーズ通りに現実ではないが、かといって単なるファンタジーでもない、ここだけの世界を見せることのできる明神慈の魔術をどうか関西の演劇ファンも味わってほしい。和服美女がもうひとつの売りなだけに以前から「絶対京都でやってほしい」と言い続けてきただけに京都公演の実現は本当に嬉しいの一言なのである。できれば毎日通い続けたいところだが、トヨタコレオグラフィーアワードと重なっていて1日しかいけないのが痛恨のきわみである。


 もうひとつこちらはほとんど10年越しで期待していた関西公演がついに実現した桃唄309「おやすみ、おじさん」★★★★(8月4日[金]−8月6日[日] アトリエ劇研)である。短い場面を無造作につないで普通の演劇では描けないような共同体の群像や歴史の流れなどを描き出す長谷基弘の作劇術は他に類例がないほどユニーク。もっとも、個人的には妖怪や霊能力者がいっぱい登場する長谷版のサイキックウォーともいえるこの作品が初めてこの劇団を見る人にとって適当な演目かどうかには疑問があるのだけれど、唯一見逃した芝居だし、まあいいか(笑い)。


 現代におけるディスコミュニケーションの問題に鋭く切り込み、群像会話劇の世界に新世代登場を思わせた夏井孝裕によるreset-N「パンセ2006」★★★★(8月3日[木]−8月5日[土] ART COMPLEX 1928)も関西の演劇ファンにどのように受容されるかが興味深い。実はここしばらく夏井の作品を見られていないので、最近ではどんな風なのかも楽しみだ。劇作家協会新人戯曲賞を受賞した代表作「knob」を初めとする数作品については現代人の持つ根源的な不安に切り込むその作風から西の深津篤史、東の夏井孝裕と位置づけていたのだが。 




 紹介するのが遅れたが維新派「ナツノトビラ」★★★★がイチオシなのはいうまでもない。昨年メキシコ、ブラジルでの海外ツアーで初演された作品を練り直しての日本初演。野外劇で知られる維新派ですが、海外ツアーでの上演が大劇場でそれに合わせて製作されていた舞台だということもあって、今回はなんと会場が梅田芸術劇場(元の梅田コマ劇場)。梅田芸術劇場といえば普段はミュージカルや座長芝居が上演されている商業演劇の牙城。最近でも「エリザベート」や「レ・ミゼラブル」も上演されるなど、東京でいえば帝劇、日生劇場に乗り込んで上演するようなもの。野外劇の維新派愛する人からは「こんなの維新派じゃない」「維新派も商業主義の前にころんだのか」などというブーイングがでそうですが、個人的にはこの勢いをかって、帝劇進出するのも一興ではという痛快感を逆に感じている。


ワールドカップに例えれば完全アウエー状態でもあるわけですが、こういう場所ではおそらく普段の維新派ファン以外にもミュージカルファンのOLや場合によってはおばさまも客席に現れそうで、そういう人にどういう風に見られるかには興味深々なところがあります。




 関西では東西の注目の劇団・ダンスカンパニーが集う大阪ショートプレイフェスティバル★★★★にも期待したい。東京からの遠征組はチェルフィッチュ+ほうほう堂、ボクデス、ロリータ男爵などツワモノぞろいではあるが、個人的に注目しているのはなぜかここに青年団が入っていること(笑い)。おそらく、平田オリザ作品ではなくて、若手の作品による参加だとは思うが、不思議なのはこのラインナップのフェスティバルでいったいだれが青年団に声を掛け、OKをとったのかということ(笑い)。迎え撃つ関西勢も上海太郎舞踏公司、スクエア、遊気舎、ヤザキタケシからトヨタアワード受賞のセレノグラフィカまでなんでもあり状態。今回はダンスも多いようなので関西の演劇ファンにもコンテンポラリーダンスの面白さを知ってもらえるよい機会になりそうで、それも楽しみである。





 少年王者舘「I KILL」★★★★(精華小劇場)は天野天街の新作。表題は「イキル(生きる)」と「I KILL(殺す)」のダブルミーニングだが、なんとも意味深長。と、思ったらチラシはそのものでした(笑い)。




 こちらは再演だが、ほぼ新キャストでの上演ともなる弘前劇場「夏の匂い」★★★★(ザ・スズナリ)にも注目したい。午後の光が射す病室に訪れる人たち。何気ない会話が作り出す生と死の重さ、そして夏の匂い……。長谷川孝治の四季シリーズ4部作、「春の光」「夏の匂い」「秋のソナタ」「冬の入り口」の再演企画2作目。今回は準レギュラーの鈴木真ら客演陣を最小限にとどめ、劇団員中心の座組みで再演に挑戦。看板の福士賢治はもちろんだが、山田百次ら今後の中核となっていく俳優がどのような演技を見せてくれるのかが楽しみ。




 「東京都墨田区向島の端に、30年前に建てられた防災団地があります。防災団地の前には広い公園(都立東白鬚公園)と、堤小学校、忍岡高校があります。ここには江戸時代、「関屋の御殿」と呼ばれた将軍の屋敷がありました。江戸城から見て『(隅田)川の向こう』にあるので『向島』と呼ばれるようになったという、まさに『向島のはじまり』の場所です。この団地のある付近は新しく町が開発され、広い道路に高層建築、広がる森……。下町の風情のある『向島』からは想像できない近代的な町並みです。向島でありながら、『向島』と切り離された場所。この場所にある小学校を中心とした子どもたち、そして地域のおとなたちから【森の記憶 町の記憶】を集め、ふるくてあたらしい『向島』を探検・再発見するオリエンテーリングをワークショップでつくり、開催。このオリエンテーリングの途中で、みんなの【森の記憶 町の記憶】に出会ったら、ひとときそこであなたの《記憶》を思い出してください。」。トリのマーク(通称)「向島のはじまり-森の記憶 町の記憶-  オリエンテーリング+記憶リーディング 」★★★★はトリのマーク版街頭劇ともいえるオリエンテーリングとリーディングにより街の記憶を掘り起こそうというサイトスペシフィックな作品。始まるのが朝早くから(10時半東武伊勢崎線鐘ケ淵駅西口改札前集合)が関西から駆けつけなければならない人間にとっては難点なのだが……。





 畑澤聖悟の書き下ろし新作となるザ・サードステージ 「猫の恋、昴は天にのぼりつめ」★★★★(ザ・スズナリ)にも注目。面白い題名と思い調べてみると表題山口誓子の俳句からとったもののようだが、昴ザ・サードステージへの書き下ろしに一見語呂合わせのように思わせて、こんな題名をつけることにも畑澤の類まれなセンスがうかがわれる。「葛飾・柴又、もうひとりのさくらの物語」ということでおそらく当の人物は出てはこないとは思うのだが、あのシリーズでのオマージュに満ちた作品となるんだろう。楽しみ。




 ダンスではトヨタコレオグラフィーアワード最終選考会★★★★が注目。毎年その年に上演されたコンテンポラリーダンスのショーケース的な意味でも注目されるトヨタアワードだが、私の期待はだれがなんと言おうと関西コンテンポラリーダンス界の超新星、きたまりである。ノミネートの段階ですでに受賞が有力視される白井剛(発条ト)、昨年は横浜トリエンナーレにも招へいされ話題になった身体表現サークル、人気の康本雅子ら猛者たちがそろうなかでほとんどずぶの新人といえそうなのは彼女だけ。これはもう理屈じゃなくて応援モードに入らなければ(笑い)。まあ、受賞は難しいでしょうが、この機会に東京のダンスファンにも彼女の名前を覚えてもらいたいと思う。





 毛皮族「脳みそぐちゃぐちゃ人間」★★★★はひさびさの毛皮族本公演となればそれだけでも注目なのだが、なんとロマンチカの横町慶子がゲスト出演。この話を聞いた時、「おー」と思いましたが、当然見たいのですけれどこかで見たくないというのもあって複雑な気分です(笑い)。よく林巻子は許したな(笑い)。そういえば前回のロマンチカ「PORN」では江本純子を挑発かと思わせる横町の男装シーンがありましたが(笑い)。そうか、今突然気がついたが「アートだ!」というキャッチフレーズはロマンチカを意識していたのか。





 ク・ナウカ「トリスタンとイゾルテ」★★★★も恒例となりつつあるク・ナウカ国立博物館での野外劇で万難を排してでもいかなくてはならないところだが、はずせないスケジュールが重なりまくっていて、いけるのかよ、おいという状態。宮城聰の来春からの静岡芸術劇場(SPAC)芸術監督就任により、活動休止(事実上の解散?)も聞き及んでいるだけにこの機会は見逃したくないところだ。




 演劇雑誌「悲劇喜劇」8月号の特集で三浦大輔ポツドール)と岡田利規チェルフィッチュ)についての小論を執筆しました。興味のある人は読んでみてください。
 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。
 私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。

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中西



*1:解決はされないが、解消されていくと表現した方が正確かもしれない