8月のお薦め芝居(2006年)



8月のお薦め芝居


8月のお薦め芝居

by中西理



 




 8月は今年も休みをとってこのところ恒例となっているエジンバラ演劇フェスティバルの観劇ツアー(8月14日−24日)に行くことに。今年こそこのところ毎年書けずじまいになっている観劇レポートを大阪日記に書くぞと今のところは思ってるのだけれど、果たして書くことができるだろうか。そういうわけで、私が見る予定のものを中心に紹介しているこのお薦め芝居では留守中のものは見ることができないため、いくらなんでもエジンバラの公演をここに書くわけにもいかず、モチベーション的には下がりぎみなのだが、そんなことをいってちゃいけない。でも、どういうわけか今月はお薦めはダンスばかりになっちゃいそうで、それも困ってるのだけれど。





 8月のイチオシは関西で上演されるコンテンポラリーダンスで今もっとも注目されている振付家・ダンサーの黒田育世によるBATIK「SHOKU」★★★★アイホール)である。2004年8月に上演された作品の再演。先に行われた横浜赤レンガ倉庫の公演はもう終わっているはず。どうだったのだろうか。この作品の後、黒田はソロ作品「モニカ×モニカ」を踊ったり、最近ではナジの作品にダンサーとして参加したり大忙しなのだが、そうした経験を積んで、2年の時をへて、ひさびさのカンパニー作品がどのように変容したのかが楽しみなのである。





 そうだ演劇公演がないと書いたがこれがあった。このところ公演のたびに閉塞感を感じる最近の関西演劇のなかで唯一気を吐くなどと書いてきたが、本拠地を移して東京にいってしまったじゃないか。クロムモリブデン猿の惑星は地球」★★★★(中野ザ・ポケット)である(笑い)。とはいえ、東京に行ってもクロムはクロムだった。なんなんだ、この題名は(笑い)。芝居の内容とどこまで関係あるのかは分からないけれど、いくらなんでもこの題名はまずいんじゃないか。見逃してしまったが「皆に伝えよ!ソイレント・グリーンは人肉だと」という芝居が東京で上演されていたからひょっとしたら、この題名もそのあたりからとったのだろうか。
そういえばどちらも主演はチャールトン。ヘストンだったような……。いかん。これでは全然芝居の内容の紹介になってないうえにこのお薦め芝居自体が名作映画のネタばれになってるような気がする(笑い)。




 クロムモリブデンなき後の関西でもっとも期待しているのがベトナムからの笑い声である。関西では珍しく先鋭的な笑いを、そして笑いだけを追求し続けるその真摯な姿勢は特筆すべきものでもう少し注目されてもいいはずなのだが。私にしても劇団からのダイレクトメールで最近公演があることに気がついたぐらい、目立たない時に目立たなく公演するのはなんとかならないか(笑い)。公演のチラシさえもそれまで見かけなかったし。今回のベトナムからの笑い声「サンサンロクビョウシ」★★★★(スペースイサン、8月25−27日)はシュールコメディの「村おこし」、不条理コメディの「アクタガワリュウノスケ」、ナンセンスミュージカルの「オリエンタル歌劇団」とそれぞれテイストの異なる笑いを狙ったオムニバス3本立てである。チラシの劇団紹介に自ら「手段としての笑いではなく、目的が笑い」と書いているようにブラックからシュール、シチュエーションコメディから不条理まで、笑いのデパート的なその幅広さを生かそうと最近はオムニバスがそのスタイルとして定着した感もある。かつて、あんまりのおかしさに思わず劇場の席からころげ落ちそうになった「ハヤシスタイル」といった大傑作もものしているだけに本当は長編の1本ものが見たいところではあるのだけれど……。個人的には「登場人物は13人と二匹。歌あり、踊りなし、四幕ものミュージカル『ロンドバルトとポニーテール』」という「オリエンタル歌劇団」がすごく気になる。二匹っていったいなんなんだ。




 京都芸術センターの企画にも注目したい。五反田団の前田司郎が京都の俳優と共同作業で作品を制作する「ノーバディー」★★★★がお薦めである。今回は演びゼミで用いたテキストを使ってのワーク・イン・プログレス公演となるが、来年度、シチュエーション、登場人物を変えた戯曲を新たに書き下ろし、『ノーバディー・京都バージョン』として上演される予定。




 こちらは少し先になるけれど岡田利規の新作、チェルフィッチュ「体と関係のない時間」 ★★★★(京都芸術センター、9月22−24日)は東京の人にとっても注目のはず。芸術センターのサイトの紹介ページに岡田が文章を寄稿しててこれがすごく面白いので引用してみる。


 「年来ぼくは、演劇ってのは要は言葉と身体とその関係性なんだと思って、そのことについて実践を通じて自分なりの回答を出してきたつもりだし、発言や執筆の機会があれば直裁にそう言葉にしたりもしてきた。確かに演劇は言葉を扱うし、身体を扱う。けれど同様に、というかそれよりもたぶんより本質的なこととして、時間も扱う。物語のテーマとして時間を扱うとかそういうことではなく、テーマの如何をとわず演劇というものはそもそも上演時間を必ず持っている。それをどうデザインするかという話だ。そんな当たり前と言えばあまりにも当たり前のことに今さら気付くなんて、ぼくもなかなかのスロー・ラーナーなわけだけれども、とにかくようやくそこに意識が行くようになった。つまり、考えていること、トライしようと思っていることをまんまタイトルにしてみただけなのです」


これがいったいどんな作品として具現するんだろうか。なんとも刺激的なのである。この公演は美術展「Freeing the Mind,抽象再訪」の一環として行われ、チェルフィッチュが上演するフリースペースの空間は元ダムタイプの美術家、小山田徹が空間デザインをしたものとなる。これもまた刺激的ではないか。美術展にはほかにも中西信洋、梅田哲也らも参加。こちらにも注目である。




 前回公演が終わった後、「次は色川武大の『怪シイ来客簿』をやりたい」と作・演出の大竹野正典が宣言していたくじら企画だが、くじら企画「色川武大を読む」★★★★というのがその公演なのか、はたまた本公演をやるための準備公演の位置づけなのか。と思って劇団公式サイトで確認してみると、今回はリーディング公演で本番は10月にアイホールで予定されているみたい。でも、やはり、くじら企画は見逃せない。




 ダンスでは日本とオーストラリアの交流事業「オーストラリア−日本ダンスエクスチェンジ」の「LUCY KOTA Project 〜互いの国のダンサーへの振付作品の製作〜」★★★★も注目。山崎広太ルーシー・ギャレンが、昨年夏に互いの国でダンサーのオーディションを行い、本年夏、山崎がメルボルン、ルーシーが京都・山口に滞在しながら作品を創作したもので、ルーシーの作品にはJ.A.M.Dance Theatreの森井淳がダンサーとして参加しているのも注目である。 




 「オーストラリア−日本ダンスエクスチェンジ」では珍しいキノコ舞踊団がオーストラリアのインテリアデザイナー、とのコラボレーションにより制作したKINOKO Project 〜コラボレーション作品の製作〜「3mmくらいズレてる部屋」★★★★金沢21世紀美術館、9月23日、24日)も大注目である。書いた後で「あれこれって9月じゃないか」と思ったけれど、新たな出会いで今度は伊藤千枝がどんなものを見せてくれのかに期待は大。キノコの追っ掛けとしてはこれは金沢まで遠征しなくちゃならないだろうなあ。その後、愛知県芸術劇場での公演(11月22日)もあるけれど。




 一方、大阪アートシアターdBでのSYDNEY/KANSAI Project 〜若手振付家とダンススペース間の交流〜★★★★には手塚夏子、花嵐、honeysuckle(松山)の3組が日本側から参加、オーストラリアのダンサーたちと競演。手塚のひさびさの関西への登場にも期待したい。




 元弘前劇場畑澤聖悟が弘劇時代に書いた代表作を青年団山内健司を客演に迎えて上演する渡辺源四郎商店「背中まで四十分」★★★★こまばアゴラ劇場)も期待の舞台。初演で福士賢治が演じた役柄を山内がどんな風に演じてみせるのか。今回は関西公演がないのが残念だが、いつか関西でも上演してほしい演目である。




 森山開次「KANATA」★★★HEP HALL)にも期待したい。ただ、この人についてはダンサーとしてはすごく魅了的なんだが、作品の作り手、振付家としてはどうなんだろう、という疑問も若干持ってはいるのだけれど。果たしてどんな作品を見せてくれるのか。




 砂連尾理+寺田みさこ「I was born」★★★★(こまばアゴラ劇場)は劇作家、松田正隆の戯曲をダンス化した作品。昨年、初演した作品を今年になって再演したのだが、それは劇団衛星のFジャパンと寺田みさことのデュオ作品であった。そのため、砂連尾が出演した初演とはまったく別ものとなっていたのだけれど、東京公演では再び砂連尾がキャストに復帰。初演を完全に解体してしまった前作だったが、今度はまたもや変容をとげるのは必至ぼようだが、果たしてどんな作品になるか。




 京都に初登場となる金魚「dulcinea」★★★(アートコンプレックス1928)にも注目したい。




 演劇雑誌「悲劇喜劇」8月号の特集で三浦大輔ポツドール)と岡田利規チェルフィッチュ)についての小論を執筆しました。興味のある人は読んでみてください。

 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。

 私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。




中西