9月のお薦め芝居(2006年)



9月のお薦め芝居


9月のお薦め芝居

by中西理



 




 9月は演劇・ダンスともに注目の公演が目白押しである。実は先月前倒しで書いてしまっているものがずいぶんあって、そのせいでどこかで読んだようなと思う人もいるかもしれないが、落ちるよりましなのでそこのところはまあ勘弁してほしい。先月行ったエジンバラ演劇フェスティバルの観劇レポートを大阪日記に執筆中。興味のある人は覗いてみてほしい。まだ、書いてないけれどリヨンオペラ座によるマリー・シュイナール振付のオペラ「七つの大罪」(ブレヒト=ヴァイル)とかナイロン100℃KERAの作品を彷彿とさせた英国劇作家の新作「Realism」とか今年のエジンバラはいろいろ収穫がありました。





 9月のイチオシはそういうわけでなぜか先月に引き続きこれである(笑い)。このところ閉塞感を感じる最近の関西演劇のなかで唯一気を吐くなどと書いてきたが、本拠地を移して東京にいってしまったじゃないか。クロムモリブデン猿の惑星は地球」★★★★(中野ザ・ポケット、9月12−17日)である。とはいえ、東京に行ってもクロムはクロムだった。なんなんだ、この題名は(笑い)。芝居の内容とどこまで関係あるのかは分からないけれど、いくらなんでもこの題名はまずいんじゃないか。見逃してしまったが「皆に伝えよ!ソイレント・グリーンは人肉だと」という芝居が東京で上演されていたからひょっとしたら、この題名もそのあたりからとったのだろうか。そういえばどちらも主演はチャールトン。ヘストンだったような……。いかん。これでは全然芝居の内容の紹介になってないうえにこのお薦め芝居自体が名作映画のネタばれになってるような気がする(笑い)。




 今月は正真正銘関西の劇団からのオススメも2本。まずはマレビトの会である。現在初期の代表作「紙屋悦子の青春」を原作とする映画が上映されている松田正隆だが、最近はそういう作品(九州弁による静謐な会話劇)とは180度も違い、タルコフスキーソクーロフを連想させるような難解な前衛劇を相次いで発表しており、マレビトの会「アウトダフェ」★★★★アイホール、9月28−10月1日)もそういう傾向の作品になると思われる。「アウトダフェ」とは「火あぶりの刑」という意味の言葉。テレビ番組のドキュメンタリー取材で訪れた、チェルノブイリ原発での体験と、長崎出身であることで常に身近にあった「原爆」の歴史を基に、チェルノブイリのゾーンと呼ばれる立ち入り禁止区域に住みついた人々をモチーフにした物語。

 公式サイトから内容を紹介すると
    
 流浪の果て、オデュッセウスAは帰郷を決意する。故郷は天皇の勅命による発掘調査と歴史編纂事業のさなかにあった。人々の記憶にとどめられそうもない程の昔、勅命は発せられたのだった。天皇自身さえそのことは忘れてしまったに違いない。
 オデュッセウスAが到着すると、もうすでに発掘作業に従事している自分自身を発見する。彼は「オデュッセウスAダッシュ」を名乗り、 オデュッセウスAの分身であると告げる。

 故郷の土地から発掘され、作業者によって語られてゆくのはまるで異郷の歴史のようでもあった。あるいはまた、取るに足らない人々の営みのどうでもよい時間の断片であった。そして、何よりもそれは二十世紀のアウトダフェ(火あぶりの刑)による死者たち(たとえば原爆やアウシュヴィッツ絶滅収容所チェルノブイリ原発事故の犠牲者たち)の失われた灰の記憶の困難な再現作業でもあった。

 隣国のミサイルが発射されると同時に天皇崩御し、最期の言葉を伝令に耳打ちした。伝令はオデュッセウスAをめがけ走っているらしい。「何故、私か、私たったひとりに向けてなのか」と不思議に思う、オデュッセウスA。分身に意見を聞こうにも、Aダッシュは女作業員のグリージャと恋に落ち、闇のなか愛の営みにふけるばかりであった。

 天皇の伝令はいったい何を告げるのか。発掘中止か続行か、それとも別の内容なのか。オデュッセウスAは伝令の到来を気にかけつつも、現前し積み重ねられてゆく行き場を失った廃棄物と死者たちの時間をどのように救済すればよいのだろうか。

 「ゾーン」ってそのままタルコフスキーの「ストーカー」じゃないか(笑い)。




 その松田正隆の作品をダンスに仕立ててしまったのが、砂連尾理+寺田みさこ「I was born」 ★★★★こまばアゴラ劇場)である。こちらは2005年7月に京都初演。テキストと身体の関係を元に新たな身体性を発見するべくスタートさせた、松田正隆戯曲ダンス化シリーズvol.1として発表。今回、新たに再構成する改訂版。もともとは松田の二人芝居「Jericho」と「石なんか投げないで」をテキストに作り上げられたダンス作品だったのだが、今年春の京都での再演では砂連尾に代わり、俳優のFジャパンをキャストに起用したこともあり、原作というよりはinspired by MASATAKA MATSUDAというクレジットの方がいいのではないかというように内容は一変。今回は再び砂連尾がキャストに復帰しての再々演ということになるのだが、作品としては新作といっていいぐらいにまたがらりと変わるのではないだろうか。松田原作のじゃれみさ作品は東京初登場なわけだが、特徴としてはそれまでのじゃれみさのイメージからは一変してセクシャリティーを感じさせる部分を寺田が担うことだろうか。単純に言えば色っぽいところが見られるということなのだが(笑い)、じゃれみさの新たな一面が見られるという点では東京のダンスファンも要注目である。




 そして、関西の劇団の2つ目のオススメがこちら。大竹野正典も関西で私がもっとも注目している劇作家のひとりだが、これまでのほとんどの作品が実際に起きた事件を元にした作品だったのに対して、今回の新作は異色作。くじら企画「怪シイ来客簿」★★★★アイホール、10月13〜15日)と阿佐田哲也名義で「麻雀放浪記」などの名作を書いている作家の原作を戯曲化する。「ほとんどの作品が実際に起きた事件を元にした」と書いたけれど、実は内田百〓の「サラサーテの盤」、安部公房の「密会」と原作を換骨奪回して自らの世界に合わせて仕立て上げてしまうのも大竹野の魅力。さて、どんな風に料理してくれるのか楽しみである。




 岡田利規の新作、チェルフィッチュ「体と関係のない時間」 ★★★★(京都芸術センター、9月22−24日)は東京の人にとっても注目のはず。芸術センターのサイトの紹介ページに岡田が文章を寄稿しててこれがすごく面白いので引用してみる。


 
 「年来ぼくは、演劇ってのは要は言葉と身体とその関係性なんだと思って、そのことについて実践を通じて自分なりの回答を出してきたつもりだし、発言や執筆の機会があれば直裁にそう言葉にしたりもしてきた。確かに演劇は言葉を扱うし、身体を扱う。けれど同様に、というかそれよりもたぶんより本質的なこととして、時間も扱う。物語のテーマとして時間を扱うとかそういうことではなく、テーマの如何をとわず演劇というものはそもそも上演時間を必ず持っている。それをどうデザインするかという話だ。そんな当たり前と言えばあまりにも当たり前のことに今さら気付くなんて、ぼくもなかなかのスロー・ラーナーなわけだけれども、とにかくようやくそこに意識が行くようになった。つまり、考えていること、トライしようと思っていることをまんまタイトルにしてみただけなのです」


これがいったいどんな作品として具現するんだろうか。なんとも刺激的なのである。この公演は美術展「Freeing the Mind,抽象再訪」の一環として行われ、チェルフィッチュが上演するフリースペースの空間は元ダムタイプの美術家、小山田徹が空間デザインをしたものとなる。これもまた刺激的ではないか。美術展にはほかにも中西信洋、梅田哲也らも参加。こちらにも注目である。





 日本とオーストラリアの交流事業「オーストラリア−日本ダンスエクスチェンジ」は今月も続きそのなかでは珍しいキノコ舞踊団がオーストラリアのインテリアデザイナー、とのコラボレーションにより制作したKINOKO Project 〜コラボレーション作品の製作〜「3mmくらいズレてる部屋」★★★★金沢21世紀美術館、9月23日、24日)も大注目である。新たな出会いで今度は伊藤千枝がどんなものを見せてくれのかに期待は大。キノコの追っ掛けとしてはこれは金沢まで遠征しなくちゃならないだろうなあと先月書いたが、ちゃんと23日に宿をとり金沢まで出掛けてくる予定。その後、愛知県芸術劇場での公演(11月22日)もあるけれどね。




 ダンスではMonochrome Circus+藤本隆行ダムタイプ)「Refined Colors」★★★★(滋賀会館、10月9日)も必見の舞台である。こちらは注目の舞台の再演なので前回公演のレビューをそのまま掲載して紹介することにしたい。

共に京都に本拠を置く集団であるMonochrome Circusの坂本公成とdumb typeの藤本隆行のコラボレーション作品「Refined Colors」を京都造形芸術大学studio21で観劇した。YCAM山口情報芸術センター)の企画として、昨年7月に山口でアーティスト・イン・レジデンスの形で製作されたもので、その後、シンガポール、マレーシアなどのアジアツアーをへて、両者の本拠地でもある京都で上演されることになった。
 初演も見ているが、今回の京都公演ではこの後に予定されている欧州(スペイン)ツアーをにらんで、ダンサーを3人(坂本公成・森川弘和・佐伯有香)に絞り込んだことでダンス部分が一層タイトになり、作品の完成度も高まった。オリジナルの音楽(音響)を提供した南琢也(Softpad)、真鍋大度も加え、きわめてクオリティーの高い舞台作品に仕上がった。
 「Refined Colors」の特徴は、R(ed)、G(reen)、B(lue)の3色の発光ダイオードを組み合わせて、自由に色を作り出せる新しい照明器具「LEDライト」を使ったダンス作品だということだ。LEDライトはデジタル制御で瞬時に約1670万色のカラーバリエーションをつくりだすことができ、次世代の照明といわれている。デジタルカメラで撮影したものをコンピューターで再構成し、照明として取り込むことも可能で消費電力が格段に少なく発熱もほとんど伴わない上に、重装備が不要。音響や照明の操作も全てノートブックPCで行うことにより、機動性に優れた公演が可能となる。この照明の部分を藤本隆行が担当した。
 dumb typeからこのプロジェクトに参加したのは照明の藤本だけであり、パフォーマンス部分はMonochrome Circusの坂本公成森裕子の振付で、音楽も池田亮司のものとは方向性が異なるものだが、それでも舞台の印象全体からはdumb type的なクールな匂いが感じられる。これは参加した坂本公成、南琢也らがdumb typeチルドレン的な立場のアーティストであるせいもあるかもしれない。古橋禎二なき後、本家のdumb typeの作品自体は音響・映像インスタレーション的な志向を強めているように見えるだけに藤本がダンスカンパニーとのコラボレーションにより、本格的なダンス作品を手掛けたということには今後のdumb typeを考える意味でも興味を引かれた。
 Monochrome Circusは振付家でコンタクト・インプロビゼーション(コンタクト・インプロ)の指導・実践者でもある坂本公成森裕子の2人を中心に、ダンサーやアーティストにより編成されている。その活動でもっとも特徴的なのは出前公演「収穫祭」プロジェクト。ダンスの小品をどこにでも呼ばれれば出かけていって、劇場以外の場所で観客の目の前で踊ってみせるのが「収穫祭」のコンセプトだが、その過程において様々な形起こる出会いを作品のなかに取り入れていくというダンスをコミュニケーションツールとしたコンセプトアートの側面も持っている。
 「Refined Colors」は「収穫祭」とは異なり、劇場で上演されることを前提とした舞台作品だが、出かけていった場所とコミュニケートすることで作品が変容していくという意味では「収穫祭」的なコンセプトもそのなかに取り入れている。dumb typeを連想させるハードエッジなテイストとアジアツアーを通じて、現地でサンプリングした音や光を作品のなかに取り込んでいくような融通無碍なMonochrome Circusのテイストが渾然一体と溶け込んでいるところが、この両者の共同製作ならではのオリジナリティーを感じさせた。
 Monochrome Circusの振付ではこれまでコンタクト・インプロにおける即興性が強調されてきたきらいがあるが、この作品は照明効果との関係性もあって、ほとんどのシーンでタイトな振付の要素が強まり、音楽とシンクロしてアクロバティックなリフトや倒れこむような動きが多用されるなどいつもの公演以上に身体的な強度が強いムーブメントとなった。
 坂本公成によれば「この作品は今後も変化し続ける」ということで、照明にしても振付にしても実験的な要素も強いだけにまだ汲みつくされていない可能性も感じさせられた。欧州ツアーをへてどのような次の変容を見せてくれるのか。その時には再び関西で上演されることに期待したい。

 そういうわけで、現在欧州の4カ国を巡演中のこの作品、待望の関西での再演である。滋賀は遠いと思うかもしれないが、これを見逃す手はない。




 元弘前劇場畑澤聖悟が弘劇時代に書いた代表作を青年団山内健司を客演に迎えて上演する渡辺源四郎商店「背中まで四十分」★★★★こまばアゴラ劇場)も期待の舞台。初演で福士賢治が演じた役柄を山内がどんな風に演じてみせるのか。今回は関西公演がないのが残念だが、いつか関西でも上演してほしい演目である。




 個人的に一番楽しみにしてるのがむっちりみえっぱり「表へどうぞ」★★★★(五反田・アトリエヘリコプター)。この劇団しばらく公演がなかったから、とっくに解散したかと思っていたら、今年はじめに突然の復活。「その世界は4年が経過してもまったく成熟するということはなく、しょうがないなと思わず笑ってしまうしかない脱力感もそのまま。むしろ、今回はさしたる理由もなく、コケシが舞台に登場して、作中人物として普通に存在して、最後にはコケシ対パン屋の戦いになるというなんとも意味不明でシュールな展開にそのいい加減度はより一層パワーアップした感があった」と感想を書いたのだが、こんなに早く次の公演があるなんて、嬉しいびっくりの二乗である。




 ダンスでは「DANCEBOX10年祭 ダンス100連発」★★★★(アートシアターdB)も見逃せない。大阪のコンテンポラリーダンスの拠点であるアートシアターdBが前身となるTORIIHALL時代から数えて発足10周年となるのを記念したお祭り企画。詳しいラインナップは不明だが、伊藤キムが出演するのは内定しているということで、ほかにどんなダンサーが出演して場を盛り上げてくれるのか。期待したい。本当に百連発になるかどうかは別にして、いろんなダンサーが次々に登場して短い作品を踊るというのが企画の趣旨だから、コンテンポラリーダンスって興味はあるんだけれど敷居が高くてという演劇ファンの人にとってもそのバラエティーに溢れる表現の多様さを味わってもらうには最適の公演となるかも。




 京都の異才、飯田茂実のプロデュースによる飯田茂実+e-dance「現動力」★★★(アトリエ劇研)にも注目したい。




 演劇雑誌「悲劇喜劇」8月号の特集で三浦大輔ポツドール)と岡田利規チェルフィッチュ)についての小論を執筆しました。興味のある人は読んでみてください。

 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。

 私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。




中西