10月のお薦め芝居(2006年)



10月のお薦め芝居


10月のお薦め芝居

by中西理



 




 10月といえば芸術の秋というのはあまりにも紋切り調だが、今月も演劇・ダンスともになかなか充実したラインナップである。またまた、東京、大阪の2都市公演やそれ以上の場所での巡演公演がずいぶんあって、そのせいでどこかで読んだようなと思う人もいるかもしれないが、そこのところはまあ勘弁してほしい。エジンバラ演劇フェスティバルの観劇レポートを大阪日記に執筆中。興味のある人は覗いてみてほしい。リヨンオペラ座によるマリー・シュイナール振付のオペラ「七つの大罪」(ブレヒト=ヴァイル)とかナイロン100℃KERAの作品を彷彿とさせた英国劇作家の新作「Realism」とか今年のエジンバラはいろいろ収穫がありました。エジンバラ演劇祭のリポートは週刊ウェブマガジン「マガジン・ワンダーランド」(http://www.wonderlands.jp/info/subscription.html)にも寄稿したので興味のある人はそちらにも登録して読んでみてほしい。
 実は少し反省している。このお薦め芝居は自分のブログ大阪日記とえんげきのページえんげきのページの共通コンテンツになっているのだが、最近えんぺで昔のお薦め芝居の原稿(http://dx.sakura.ne.jp/~nnn/play/hosi/writer/profile.html#naka)を読み返してみたら、けっこう楽しそうに書いているというか、今よりずっと楽しくて読み応えのあるものになっていたことに少しショックを受けたのだ。
 特に最初のころ(http://dx.sakura.ne.jp/~nnn/play/hosi/1996/hosi_naka9610.html)は先月の反省と題して、前の月にお薦めした舞台が実際にどうだったのかをレビューという硬い形式ではなくてちゃんとフォローしていたし、お薦めといっても明らかに偏向していることへの確信犯的な喜びがあったからだ。どうやら、反省をやめてしまったのは1行レビューかなにかにおそらく「お薦め芝居を信じて見にいったのにつまらなかった。反省しろ」みたいな書き込みがあって、それにカチンときたからじゃないかと思われる(http://dx.sakura.ne.jp/~nnn/play/hosi/1996/hosi_naka9611.html)のだが、せっかくなのでひさしぶりに復活させてみたい。




 坂手洋二主演の「蝶のような私の郷愁」が見られなかったのが残念だったが、先月はいろんな意味で松田正隆に尽きた。初期の作品が黒木和雄監督の遺作として映画化された紙屋悦子の青春砂連尾理+寺田みさこが松田ワールドをダンスにしてみせた「I was born」、そして自らが率いるマレビトの会による新作「アウトダフェ」。これらはジャンルも違うし、作品の方向性としても同じ作家が関係しているとは思えないほど異なるのだが、映画監督、振付家・ダンサーといった他ジャンルのアーティストをその世界観が魅了して、それぞれのジャンルで★★★★レベルの作品をつくらせたというのはただごとではないと思った。特に現在進行中のマレビトの会については旗揚げ公演である「島式振動機関」が以前こまばアゴラ劇場で上演されて、見に来た観客を戸惑わせたということはあっても、12月のシアタートラムでの「アウトダフェ」が始めての本格的なお披露目となりそうで、おそらく賛否両論となることは必至だと思われるが、「紙屋悦子の青春」の松田正隆がこんなところまで来てしまってるんだというのを知ってもらいためにも、必見の舞台となるはずだ。


珍しいキノコ舞踊団、飯田茂実の公演、クロムモリブデンとお薦め芝居に挙げながらもいろんな事情で見られなかった公演が多かったのは残念だった。それだけにクロムモリブデンの関西公演は見逃せない。キノコも愛知での公演でなんとかみたい。


 そんななかで、今や私が偏愛する劇団ナンバー1の地位を着々と獲得しつつあるむっちりみえっぱりはやっぱりよかった。1行レビューにチェルフィッチュ五反田団を模倣しているなどととんでもない勘違いを書いている人がいたけれど、一言だけ言っておくと、上記の2劇団よりずっと前からこの劇団はあるんです。しかも、作風は昔からほとんど変わっていない(笑い)。


 逆に最近のイチオシ劇団ナンバー1なだけに岡田利規の新作チェルフィッチュ「体と関係のない時間」 はややフラストレーションが残る内容。こういう形の変な前衛に方向転換するのは個人的には喜ばしくないので、これは次の新国立劇場での公演に期待したい。


 畑澤聖悟の率いる渡辺源四郎商会「背中から四十分」もよかったけれど、勢いを感じる作家だけにやはり新作が見たいというのが正直なところだ。面白い舞台で楽しませてもらったが、この舞台は弘前劇場、いるかHotelと引き続き、見るのが3回目となったせいか、少し作品としてのアラも見えてしまった。森内美由紀が青年団に入団したって聞かされたのはびっくりしたが、12月の平田オリザの新作にさっそく出演するらしいので、平田が彼女にどんな役柄をあてるのか。きわめて興味深い。畑澤作品については王子小劇場が「畑澤聖悟トリビュート」という畑澤作品を3本連続で上演するという企画を今年の年末から年初にかけて敢行。畑澤の新作である渡辺源四郎商会「素振り」にも期待するが、今年の年初に関西だけで上演されたいるかHotel「月と牛の耳」をついに東京の演劇ファンにも見てもらえるのが本当に楽しみ。反省ならぬ一足早いお薦め芝居モードに入ってしまったが、「月と牛の耳」はいまのところまだ畑澤聖悟の最高傑作だと思うし、今の陣容ではおそらく、弘前劇場も渡辺源四郎商会も上演は無理だから、この芝居が見られるのはたぶんここだけだということも含めて、大げさかもしれないが、「見逃すのは本当に大損失」とまでいっておきたい。前回見られなかった関西の人には尼崎ピッコロシアターでの公演もあるので、こちらも「ぜひ」と言いたい。演劇の王道として「いい芝居」です。  




 それでは10月のお薦め芝居に入ることにしよう。今年も10月からJCDNによるコンテンポラリーダンス全国巡回公演ダンス「踊りに行くぜ!!」が始まる。今回は10月から12月に、福岡、青森、松山、前橋、札幌、福井、広島、静岡、茅ヶ崎佐世保、大阪、別府、金沢、沖縄、高知、新潟、山口、長久手(愛知)栗東、仙台の全国20ヶ所そして06年2月に東京(「SPECIAL IN TOKYO」と銘打ち、本年度の話題作品を上演)で40組のアーティストが出演するという大規模なものとなった。
 上記に挙げた地方に在住の人はぜひスケジュールを調べて、会場を覗いてみてほしい。現代芸術の最前線である日本のコンテンポラリーが今どんなものになっているかを知ることは演劇、美術などほかのジャンルが好きな人にとっても「ダンスって、あのバレエとかあまり興味ないんで……」という人にとっても目から鱗のはず。
 私自身はスケジュールが許せば「踊りに行くぜ!!」in福岡★★★★(10月7日、福岡イムズホール)を皮切りに何ヵ所か訪れたいと思っているのだが、今月行こうと思っているのは「踊りに行くぜ!!」in青森★★★★「踊りに行くぜ!!」in松山★★★★「踊りに行くぜ!!」in広島★★★★である。昨年は福岡(http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20051001)、栗東http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20051022)の2ヶ所で力尽きてしまった観劇リポートの方も今年はもう少しなんとかしようと思っているのだが。
 特に青森はコンドルズの近藤良平、東京で注目の若手ピンク、関西を代表する若手テクニシャンによる超絶技巧のデュオ松本芽紅見+森川弘和の出演者にも注目だが、なんといっても会場が青函連絡船メモリアルシップ 八甲田丸の船上というのが企画の目玉。船の上のダンスっていえば隅田川のがあるが、これは全然規模が違いそうだし、いったいどんな風になるんだろう。個人的には早めに飛行機で行って(というか早めの飛行機しかない、ともいえる)弘前奈良美智の展覧会「A to Z」も見てくる予定でこれも楽しみ。




 ダンスでは吾妻橋ダンスクロッシング」 ★★★★(アサヒスクエア)にも注目である。コンテンポラリーダンスの枠組みを広げようという桜井圭介氏の企画だが、今回の目玉はあのシベリア少女鉄道が参加しダンス作品を上演すること。絶対に普通のダンスじゃない(というかそもそも踊れない)と思うのだが、土屋亮一の考えるダンスってどんなものなんだろう。うまくいけばチェルフィッチュに続いてトヨタアワード進出も夢じゃないか(笑い)。今回はほかにも松山からYummy Danceが参加したり、じゃれみさ(砂連尾理+寺田みさこ)の砂連尾理が初のソロダンスに挑んだりと盛りだくさん。来年には寺田みさこもシアタートラムでソロ作品の上演が予定されており、同じソロでもこの落差がじぇれみさらしいって言えばそうなのだが(笑い)。




 一方、辻本知彦という人はよく知らないのだれど黒沢美香、北村明子、東野祥子と猛者の作品が集まった「ダンスセレクション2006」 ★★★★(シアタートラム)にも注目したい。北村明子はGroup Motion Dance Companyというカンパニーへの振付作品、東野祥子はBABY-Qの新作「GEEEEEK」のプレビュー公演となる。




 関西のダンス公演では千日前青空ダンス倶楽部「水の底」 ★★★★(アートシアターdB)が注目である。日本のアート・サブカルチャーにおける「コドモ性」について最近考えているのだが、演劇分野のそれを代表する表現が維新派であり、少年王者館であるとすればアートシアターdBのプロデューサーでもある大谷燠(アーティストとしては紅玉)が率いるこのカンパニーは舞踏というジャンルでそれを追求してきた。ただ、旗揚げ以降の作品の集大成のような趣きのあった前回作品「夏の器 総集編」ではメンバーであるダンサーの成長にともない、「コドモ性」のようなものだけではなく、もう少し、若い女性が持つ色気のようなものが見える作品への変貌の予感を感じさせたものになっていた。自らの集団「KIKIKIKIKIKI」を設立したきたまりがカンパニーメンバーを卒業したのは残念だが、日韓ダンスコンタクトでソロ作品の韓国公演を終えたばかりの福岡まな実や今年のはじめ福岡とのデュオ作品が横浜ソロ×デュオに選ばれたyumら、メンバーの個人個人のダンサー・振付家としての活動も活発になっており、新メンバーも含め、これがどのように作品に生かされていくのかが興味深いのだ。




一方、ニブロール「NO DIRECTION」 ★★★★はひさびさの新作で本来ならば最大級の注目をしなければならない舞台なのだが、今回はとりあえず福岡・イムズホールだけの上演。見たいのはやまやまだが、はたして行けるのかどうか。





 10月のイチオシも3ヵ月連続でこれである(笑い)。クロムモリブデン猿の惑星は地球」★★★★(HEPHALL)である。今度は大阪公演である。えんぺの1行レビューをはじめネット上では賛否両論のようだが、普通にやればそうだろうな。クロムの場合は(笑い)。
 しかし、やはりなんなんだ、この題名は(笑い)。聞くところによると芝居の内容とあまり関係ないみたいだけれど、それでもあえて「いくらなんでもこの題名はまずいんじゃないか」というのをつけるところがこの集団らしいといはいえるが。




 そして、関西の劇団のオススメがこちら。大竹野正典も関西で私がもっとも注目している劇作家のひとりだが、これまでのほとんどの作品が実際に起きた事件を元にした作品だったのに対して、今回の新作は異色作。くじら企画「怪シイ来客簿」★★★★アイホール、10月13〜15日)と阿佐田哲也名義で「麻雀放浪記」などの名作を書いている作家の原作を戯曲化する。「ほとんどの作品が実際に起きた事件を元にした」と書いたけれど、実は内田百〓の「サラサーテの盤」、安部公房の「密会」と原作を換骨奪回して自らの世界に合わせて仕立て上げてしまうのも大竹野の魅力。さて、どんな風に料理してくれるのか楽しみである。え、先月この文章読んだって。それはデジャヴだよ。きっと。



 関西演劇界の話題となりそうなのがそとばこまち「キャビア・ウーマン」★★★★ワッハ上方、11月9−11日)である。というのも、劇団30周年記念公演の最後を飾る企画として、かつて座長を務めた上海太郎(上海太郎舞踏公司)が古巣に客演することになったからだ。そとばこまちは日本演劇界の7不思議といってもいい摩訶不思議な劇団で、辰巳琢朗、上海太郎、生瀬勝久らがそれぞれ座長を務めて、一時代を築いているのだが、座長が退団しても、そのたびに大量の退団者をだしながらも劇団はそのまま次の座長に引き継がれるという通常の小劇場の劇団では考えられない歴史を繰り返して今に至っている。
 この「そとばこまち」という劇団は私が在学中の京都大学の学生劇団がスタートで、大学に入学して最初に見た芝居がこの劇団の「夏の夜の夢」だったことや、辰巳、上海、生瀬ら当時の中心メンバーがいずれも同世代でおそらくキャンパス内で何度も気がつかぬまますれ違っていたと思われることなどからも、心情的にも親近感を抱いてしまい、気になる存在であり続けた。
 その当時のメンバーは今はほとんどいないわけで生瀬はともかくとして、上海太郎などは現役メンバーにとっては「伝説の魚シーラカンスのような存在」に近いような気がする。特に演出家など絶対にやりにくいに決まってると思う(笑い)のだが、はたして上海太郎はそとば時代に苦手だった台詞覚えが今回はできるのか(一説によればマイムを中心にした無言劇というスタイルを確立したのはそのためとも言われている)も含め、いろんな意味で見所の多い公演になりそうだ。

結婚詐欺に遭い、居酒屋で酔いつぶれている主人公、鈴木正直。そこへ現れた天王寺誠と名乗る男。天王寺は詐欺で奪われた金を詐欺で取り返さないかと持ちかける。天王寺は通称『ダルマ』として警察にマークされている詐欺のプロフェッショナル。天王寺は表向き、心理演出アドバイザーとして塾を経営していた。しかしその実態は、詐欺のテクニックを指南する組織だった。正直はその塾に入門し、様々な詐欺レッスンをクリアしていく。そんな中、天王寺の教え子である美輪が出所。自分の仕掛ける詐欺は芸術だと豪語する天王寺は、過去に美輪の手段を選ばぬやり方を良しとはせず、美輪を嵌めたのだった。天王寺に復讐を企てる美輪、天王寺を追う警察、そして進められる正直の詐欺計画…。騙し騙され、追い追われ、最後に笑うのは誰なのか?

 これがあらすじということだが、果たして上海太郎はどの役を演じるのだろうか。




 京都芸術センターでの「ノーバディー」が見られなかったので、前田司郎の新作五反田団「さようなら僕の名声」 ★★★★こまばアゴラ劇場)はますます見逃すことができないものとなった。 
こまばアゴラ劇場のサイトを覗いてみると「主人公を僕にしてみました。最近、色々なところで露出症的な表現と窃視症的な表現について書いたりしゃべったりしてますが、露出する行為は実は何かを隠す行為でもあり、すべてを露出したような状態でもさらに隠している部分にこそ、なにか作家にとって切実なものが隠されてるんじゃないかと考えるようになりました。さらにその露出した状態でなお隠されている部分を窃視することで、何かこれまで見れなかったようなものが見れるかも知れないという希望があります。」という本人のコメントが掲載されているのだけれど、これって「私小説的、あるいは自伝的演劇」ってこと? そんな馬鹿な?
 そんなことの言い出さなくても前回作品で登場した即身仏を目指す男などある意味作者の精神的な分身という感じがしたのだけれど、今度はどんな話なんだろう。




 はせひろいちの新作、ジャブジャブサーキット「歪みたがる隊列」 ★★★★(精華小劇場)にも注目したい。前回公演ははせの新作といっても原作ものだったが、今回は正真正銘のオリジナルということでどんなことを仕掛けてくるのか予断を許さない。内容についても少し耳にはしたのだが、はせの場合、ミステリ風の作品であることが多いので、どこまで書いたらネタばれになるんだかが、見てみない限り分からないのがつらい(苦笑)。





 野鳩「アイム・ノット・イン・ラブ」★★★も注目である。「野鳩の特徴はほとんどの作品で田舎を舞台に中学生の男女の恥ずかしくも懐かしい恋愛模様がSF・ファンタジー的な設定をからめて描かれる、というもの。役者のまるで棒読みのような平板なアクセントの台詞まわしや演技の際の漫画的リアクションなどは、まるで学芸会のような下手な演技に見えかねないところもあるが、何度かこの劇団を見てみると実は非常にきめ細かく確信犯として演出されている一種の『様式』であることが分かってくる」と以前にレビューで書いたのだが、今回の新作も内容は分からないけれどもチラシなどのテイストから言えばそうしたテイストの作品だろうか。
 それとも、このレビューを書いた前回作品は以前の作品の再演であったから、今度はちょっと違う新しい展開を見せてくれるのだろうか。若手人気劇団から2人が客演しているのだが、客演しているのが藤原幹雄(シベリア少女鉄道) 加瀬澤拓未(ロリータ男爵)という……このビミョーさが野鳩らしい(笑い)。




 Monochrome Circus+藤本隆行ダムタイプ)「Refined Colors」★★★★(滋賀会館、10月9日)も必見の舞台である。こちらは注目の舞台の再演なので前回公演のレビューをそのまま掲載して紹介することにしたい。

共に京都に本拠を置く集団であるMonochrome Circusの坂本公成とdumb typeの藤本隆行のコラボレーション作品「Refined Colors」を京都造形芸術大学studio21で観劇した。YCAM山口情報芸術センター)の企画として、昨年7月に山口でアーティスト・イン・レジデンスの形で製作されたもので、その後、シンガポール、マレーシアなどのアジアツアーをへて、両者の本拠地でもある京都で上演されることになった。
 初演も見ているが、今回の京都公演ではこの後に予定されている欧州(スペイン)ツアーをにらんで、ダンサーを3人(坂本公成・森川弘和・佐伯有香)に絞り込んだことでダンス部分が一層タイトになり、作品の完成度も高まった。オリジナルの音楽(音響)を提供した南琢也(Softpad)、真鍋大度も加え、きわめてクオリティーの高い舞台作品に仕上がった。
 「Refined Colors」の特徴は、R(ed)、G(reen)、B(lue)の3色の発光ダイオードを組み合わせて、自由に色を作り出せる新しい照明器具「LEDライト」を使ったダンス作品だということだ。LEDライトはデジタル制御で瞬時に約1670万色のカラーバリエーションをつくりだすことができ、次世代の照明といわれている。デジタルカメラで撮影したものをコンピューターで再構成し、照明として取り込むことも可能で消費電力が格段に少なく発熱もほとんど伴わない上に、重装備が不要。音響や照明の操作も全てノートブックPCで行うことにより、機動性に優れた公演が可能となる。この照明の部分を藤本隆行が担当した。
 dumb typeからこのプロジェクトに参加したのは照明の藤本だけであり、パフォーマンス部分はMonochrome Circusの坂本公成森裕子の振付で、音楽も池田亮司のものとは方向性が異なるものだが、それでも舞台の印象全体からはdumb type的なクールな匂いが感じられる。これは参加した坂本公成、南琢也らがdumb typeチルドレン的な立場のアーティストであるせいもあるかもしれない。古橋禎二なき後、本家のdumb typeの作品自体は音響・映像インスタレーション的な志向を強めているように見えるだけに藤本がダンスカンパニーとのコラボレーションにより、本格的なダンス作品を手掛けたということには今後のdumb typeを考える意味でも興味を引かれた。
 Monochrome Circusは振付家でコンタクト・インプロビゼーション(コンタクト・インプロ)の指導・実践者でもある坂本公成森裕子の2人を中心に、ダンサーやアーティストにより編成されている。その活動でもっとも特徴的なのは出前公演「収穫祭」プロジェクト。ダンスの小品をどこにでも呼ばれれば出かけていって、劇場以外の場所で観客の目の前で踊ってみせるのが「収穫祭」のコンセプトだが、その過程において様々な形起こる出会いを作品のなかに取り入れていくというダンスをコミュニケーションツールとしたコンセプトアートの側面も持っている。
 「Refined Colors」は「収穫祭」とは異なり、劇場で上演されることを前提とした舞台作品だが、出かけていった場所とコミュニケートすることで作品が変容していくという意味では「収穫祭」的なコンセプトもそのなかに取り入れている。dumb typeを連想させるハードエッジなテイストとアジアツアーを通じて、現地でサンプリングした音や光を作品のなかに取り込んでいくような融通無碍なMonochrome Circusのテイストが渾然一体と溶け込んでいるところが、この両者の共同製作ならではのオリジナリティーを感じさせた。
 Monochrome Circusの振付ではこれまでコンタクト・インプロにおける即興性が強調されてきたきらいがあるが、この作品は照明効果との関係性もあって、ほとんどのシーンでタイトな振付の要素が強まり、音楽とシンクロしてアクロバティックなリフトや倒れこむような動きが多用されるなどいつもの公演以上に身体的な強度が強いムーブメントとなった。
 坂本公成によれば「この作品は今後も変化し続ける」ということで、照明にしても振付にしても実験的な要素も強いだけにまだ汲みつくされていない可能性も感じさせられた。欧州ツアーをへてどのような次の変容を見せてくれるのか。その時には再び関西で上演されることに期待したい。

 そういうわけで、現在欧州の4カ国を巡演中のこの作品、待望の関西での再演である。滋賀は遠いと思うかもしれないが、これを見逃す手はない。




 岩崎正裕中島らもの原作を元に書き下ろす新作「ルカ追送 中島らも『ロカ』より」★★★★も期待の舞台。中島らもの世界を岩崎がどのように舞台化するのか。岩崎の場合、社会問題に対する関心が深いのは分かるが、そういうものが前面に出すぎると、「芝居としてはちょっとなあ」と思ってしまうこともあって、そのあたりが課題だと思うのだが、原作がある場合にはそういうことがちょっと背景に引っ込むせいか、バランスのとれた好舞台となることが多いのである。




 関西の若手劇団では京都造形大学の卒業生・在学生による木ノ下歌舞伎「四・谷・怪・談」★★が気になる。関西では戯曲オリエンテドな劇団が多いなかで、歌舞伎のオリジナル脚本を生かして新しい演劇を構築していこうという方向性がユニークな集団。演出的な面白さはあったが身体表現としてはまだまだこれからというのが前回公演の印象であったが、前回同様、鶴屋南北の戯曲をそのまま使いながら、演出家が入れ替わった今回の公演はどんなものになるのだろうか。




 超人予備校「迷い犬のサクマさん」★★★は元・遊気舎の魔人ハンターミツルギによる新劇団の公演。他劇団からの客演も数多く出演していたトリオ天満宮の公演さえ、「もう少しなんとかならんか」と思うほどにゆるかったから、若手で経験の少ない出演者ばかりであろうこの公演は見に行ったらきっと「あー」となって、いらいらしてしまうに決まっているのだが、それでも見にいくつもりなのはやはり彼のとぼけた世界が好きだからなんだろうなと思う。表題の「迷い犬のサクマさん」も意味が分からないし、本当に困った奴である。




 演劇ユニットYOU企画「ハーフ」★★★(アートコンプレックス1928)にも注目したい。

YOU企画は、2006年度に「 ハーフ 〜Which and where the heart will be - 」という作品を準備しています。これは、舞台となる枚方・八幡両市の風景写真を平野愛氏に撮影していただき、その写真からもインスピレーションを得て、作家クスキユウが戯曲を書いていく企画です。クスキユウは、2000年に書いた処女作「ハーフ」を再演するに当たり、時間を5年後にずらして新たにリライトします。前作で採用された、ベンチでの会話によってのみ外の世界で起こった出来事が観客に知らされる、と云う基本的な劇構造と、登場人物たちの関係性を基盤にして、舞台写真家が見た風景とコラボレートすることで全く新たな舞台作品を作らんとしています。

 なるほど「風景からつくる演劇」というとすぐ思い出すのはトリのマークのことだが、これは写真家とのコラボレーション。こういうやり方もあるわけか。どういうものなのか興味をそそられる。





 演劇雑誌「悲劇喜劇」8月号の特集で三浦大輔ポツドール)と岡田利規チェルフィッチュ)についての小論を執筆。エジンバラ演劇祭のリポートは週刊ウェブマガジン「マガジン・ワンダーランド」(http://www.wonderlands.jp/info/subscription.html)にも寄稿。これから何回かにわたって連載する(第一回目の原稿は掲載済みだが、関連のホームページでも読むことが可能)ので興味のある人はそちらにも登録して読んでみてほしい。

 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。

 私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。
人気blogランキングへ




中西