11月のお薦め芝居

 
 エジンバラ演劇祭のリポートをweb wonderlandに寄稿したので興味のある人はそちらにも登録して読んでみてほしい。自分のブログ日記に書いたものを改稿したものではあるが、オリジナルのレポートとして分かりやすく補足しているので、エジンバラ演劇祭に興味のある人には読み応えがある内容になっていると思うのだが、このせいで毎週締め切りがやってきてけっこう大変。それでは今月もまずは先月の反省から。




 くじら企画「怪シイ来客簿」野鳩「アイム・ノット・イン・ラブ」木ノ下歌舞伎「四・谷・怪・談」とお薦め芝居にも取り上げた演劇の注目公演をことごとく見逃してしまった。これが第一の反省点だが、死んだ子の年をいつまでも数えていてもせんないことなので、収穫の方を挙げてみたい。


 まずは野鳩とどちらを見ようかとずいぶん迷った挙句、福岡に出かけることを決めたが、出かけたのは大正解。ニブロール「NO DIRECTION,everyday」 は現段階ではまだいろいろ課題はかかえていたが、アイデア満載。2年半ぶりの本公演にふさわしい舞台であった。この舞台はまだ会場など詳細は準備進行中ということらしいが、来年はじめには東京公演を予定しているようで、これはもう東京の人にとっては必見である。


 ダンスでは千日前青空ダンス倶楽部「水の底」 (アートシアターdB)も充実した内容の好舞台であった。いまやダンサー個々の成長もあって関西を代表するダンスカンパニーとしての地位を確固たるものにしたのではないだろうか。この公演の後、岡山などでの地方公演も引き続き行ったようだが、いまこそ東京での本格公演を計画する時期ではないかと思うのだが、どうも呼ばれないといかない、という方針のようでもあるらしいので、だれか呼ぼうというプロデューサーはいないでしょうか。


 演劇では前田司郎の率いる五反田団「さようなら僕の名声」がよかった。このところちょっといい話っぽい作品が続いていたが、これは本当にいい意味で馬鹿馬鹿しくて最高。「私演劇」と自称していて、確かに前田司郎自らが舞台上に自分の役で登場して、作・演出・主演と活躍するのだが、その内容は本当に人を食ったもの。というか、芝居のなかでは逆に食われていたりする人も出てくるのだが、それにしてもこの作品で岸田戯曲賞を受賞したら本当に愉快なんだれど、それはやはりないか(笑い)。


 さて、このお薦め芝居で3ヶ月連続掲載することになったクロムモリブデン猿の惑星は地球」はどうだったか。クロムモリビデンらしさはよく出ていて、十分に楽しめはした。そういういう意味で東京公演の1行レビューでの賛否両論の否の方は「客を選ぶこの劇団の舞台に選ばれなかった人たち」ということがはっきりと確認できたのだけれど、これが彼らの最高傑作かと言われると、いろんな意味でそこまではいかなかったのが、期待大だっただけのやや残念な公演であった。東京への劇団移転などもあって、出演者が多かったのだが、その分、ここ特有の濃厚さが薄まってしまった感はなくもない。ただ、その分ついてこれた人も増えたためか、動員的にはよかったみたいなので東京進出→空中分解ということはなさそうでそこのところはよかった。しかし、本音を言えば今回はオトナシぎみだった森下亮、板倉チヒロの狂気の爆発をもう少しじっくりと見せてほしかった。  




 11月も演劇・ダンスともになかなか充実したラインナップである。全国巡回公演ダンス「踊りに行くぜ!!」はすでに福岡青森松山の3会場を巡ったが出だしはなかなか快調。今回は10月から12月に、、前橋、札幌、福井、広島、静岡、茅ヶ崎佐世保、大阪、別府、金沢、沖縄、高知、新潟、山口、長久手(愛知)栗東、仙台の全国20ヶ所そして06年2月に東京(「SPECIAL IN TOKYO」と銘打ち、本年度の話題作品を上演)で40組のアーティストが出演するという大規模なものとなった。
 とりあえず今後の予定としては「踊りに行くぜ!!」in広島★★★★「踊りに行くぜ!!」in大阪★★★★、>、「踊りに行くぜ!!」in別府★★★★「踊りに行くぜ!!」in金沢★★★★にいきたいと思っている。福岡(http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20061007)の観劇リポートを掲載したので興味のある人はどうぞ。青森、松山はもう少し待ってほしい。
 さて、公演場所ごとに期待を記すと広島の楽しみは毎回地元選考会からほかにないユニークなパフォーマーが登場すること。「15歳よりバレエを始める。身体表現サークルを観て興奮を覚え、自分に内在してた変体性と向き合い始める」(国本文平)という元バレエ少年が身体表現サークルと出会ってしまって生まれた表現とはどんなものなのか。大阪のアートシアターdB、金沢21世紀美術館では逆立ちの青銅魔人Ko&Edge Co.〔東京〕に注目である。特に美術館にはこのまま展示しておきたいかも(笑い)。別府は初めての参加となるがやはり温泉(笑い)ではなくて、宇都宮忍・高橋砂織(yummydance)の新作が松山の公演をへてどのように進化を遂げているかにまず注目したい。




 ダンスではまずなんといっても注目はBABY-Q「GEEEEEK」 ★★★★HEP HALL)である。東野祥子の驚異的な身体能力を生かしての爆発的なソロがここの最大の魅力ではあるが、シアタートラムでのプレビュー公演を見ての印象では今回は超人形=押尾守の世界に加えて、フリーク、そしてホラーなイメージが特徴である。最近のクロムモリブデンは少しポップな感覚があって感じが違うのだが、会場のHEP HALLでクロムの公演を見ながら、そういえば演劇とダンスとジャンルは違うけれど、一昔前のクロムモリブデンのカルトな色合いを一番受け継いでいるのはBABY-Qの今回の作品ではないだろうか、と思いついた。つまり、ノイズ系の尖った音響、暴力・狂気をイメージさせるパフォーマーのテンション、そして、東京公演では見られなかったけれど大阪公演では登場するであろうデストロイドロボットをはじめとする舞台美術……。そういうわけで関西にはまだいるらしい最近のクロムは丸くなった、物足りないとお嘆きのあなたは必見である(笑い)。




 そういえば珍しいキノコ舞踊団金沢21世紀美術館での公演に体調を崩して寝過ごし、行くことができなかったのは今年の10大痛恨というのがあれば絶対に入るほどの口惜しさであった。だから、その時には愛知での公演もあるからねと余裕をかましていた珍しいキノコ舞踊団がオーストラリアのインテリアデザイナー、とのコラボレーションにより制作したKINOKO Project 〜コラボレーション作品の製作〜「3mmくらいズレてる部屋」★★★★愛知県芸術劇場、11月22日)は石にかじりつけても見逃すことができないのである。平日1日だけの公演だが、そのためだけに休みもとったし、今度こそ大丈夫だろう。





 このカンパニーの公演だけは絶対に見逃せないと思っているカンパニーがいくつかあって、スタッフに追っ掛けよばわりされたことさえある珍しいキノコ舞踊団、福岡まで公演を追っ掛けたニブロールなどが挙げられるが、それ以上にどこまでも追いかけて見たいのがレニ・バッソなのだ。ある意味日本での評価が前述の2カンパニーと比べると低すぎるんじゃないかと思うほど注目している。だから東京から広島(「踊りに行くぜ!!」)に移動という強行日程になってもレニ・バッソ「ショートピース・アンソロジー」 ★★★★(森下スタジオ)は絶対に見逃すわけにいかない。今回は北村明子のほか、レニ・バッソで活躍する2人のダンサー、小澤剛と堀川昌義の振付・演出作品も併せて上演するという短編集的な公演。なんといっても注目は北村の新作だが、前回作品で共同振り付けにクレジットされていた小澤剛と堀川昌義がそれぞれどんなテイストの作品を創作したのかも興味深い。




 関西のダンス公演ではシャッツカマー「レインコード」 ★★★(京都アトリエ劇研)が注目である。バレエ出身の夏目美和子の率いるプロデュースユニットだが、2003年のお薦め芝居でJ.a.m.Dancetheatreとともに若手の注目株と書いて期待していたのだが、その後、本公演らしい本公演も打たないままフェードアウト状態になっていた。今回はひさびさの本公演で、オリジナルメンバーで演出の森本達郎が作品創作に加わるほかダンサー・共同振付にアロー・ダンス・コミュニケーションの松本芽紅見も参加。さらにもうひとりのダンサーが狂気に見える女性パフォーマーとして最近存在感を増してきている野田まどかとなかなか期待が膨らむキャスティングである。





気がついたらお薦め芝居と言いながらまたもや全然、演劇公演がでてこないが、こうなりゃやけだ(笑い)。勅使川原三郎ガラスの牙」★★★★新国立劇場)もなんだかんだといっても見逃せないに決まっているからだ。もっとも問題はまだチケットを確保できてないので(12月のスケジュールも固まらない)、見ることができるかどうかであるが。




 そして、やっと関西のオススメでこれまでの中では一番演劇に近いもの(笑い)。上海太郎舞踏公司「ソロマイム 上海太郎のWANTED-指名手配ー」★★★★。このところ歌ものの企画にかまけていたこともあって本当にひさしぶりの上海太郎のソロ公演である。
 内容はブログのものを転載させてもらうと

タイトル「指名手配」から推察していただけるように、登場人物はすべからく犯罪者である。
スリ・痴漢・結婚詐欺・放火魔・殺人鬼・食い逃げ犯など、あらゆるジャンルの犯罪者を一気に1人で
演じてみようと言う企画である。

おもしろそうでしょ。

ちょい不良おやじ」などという言葉が世間で流通している。
時代は「良識」や「真面目さ」などを求めていないということか。
最も社会を引っ張っていかねばならなぬ、若者の手本になるべき中年男性に対してまで。

映画や芝居の中に登場する犯罪者たちは何ゆえああも魅力的に見えるのだろう。
それを追いかける刑事や警官よりはるかに。「やばい、逃げろ!」心の中で叫びながら、犯罪者に同化してる自分に気づく。自分も手に汗握りながら路地から路地を奴らから逃げ回る。奴らって?
そうさ、しつこいポリ公たちさ。

高校時代は不良にあこがれた。だが、ただの落ちこぼれだった。

二浪して大学に入った。
機動隊に体当たりしていく上級生がまぶしかった。
反社会的な人間になりたかった。

せめてもと思って学生劇団に入って芝居を始めた。
ときどき他の大学の劇団とけんかをした。
だが気づいた時には京都の女子中高生のアイドルになっていた。

獄中で戯曲を書き続けたフランスの劇作家ジャン・ジュネ。下着泥棒だったか、のぞきだったかで捕まった寺山修二。かっこいい・・・。

いつのまにか不良になるのをあきらめていた。
だが先日指揮者佐渡裕氏の子供向けコンサートにゲスト出演した時に、知らず知らず「愉快なお兄さん」
を演じている自分に違和感を感じた。(いや、「愉快なおじさん」ですね、はい。)
それはあきらかに善人のキャラで、佐渡氏のオーラでもって会場中がやさしく暖かい空気で包まれているのに影響されてか私までその時「いい人」を演じていたのである。
その時の違和感・・・・・

そう、私は普段はそうとう癖のある、ひとすじなわでは理解できないキャラクターを日常でも非日常でも、つまり舞台の上でも下でも演じているようだ。
それは、舞台の上のとんでもなく頑固なおやじが最後には涙もろくも優しい男であることを観客が発見するように、私のドラマトゥルギーの中では至高の善、あるいは善悪を超えた人間存在への愛を確認
するためのしかけであるにちがいない。

犯罪者を演じることで私は何をつかもうとしているのか?
その結果、観客に何を伝えることが出来るのか?
もちろんやってみなきゃわからない。
そう、やってみたい役をやるだけよ。

ただ、犯罪を舞台上でおもしろおかしく表現するのは容易ではない。
食い逃げや立小便などの軽犯罪ならともかく(あ、そういうのもはいりますよ)生々しくなれば
観るに耐えないものにもなるであろう。だが、大丈夫。SEX,ANIMAL SEX,スワッピング、自慰・・・・などという超やばいタイトルのねたで観客を爆笑させて来た私である。それほど困難なことではあるまいて。

 うーん、やはりこれは軽演劇タッチのものなんだろうなあ。「ダーウィンの見た悪夢」「マックスウェルの悪魔」「RHYTHM」と過去の重厚な傑作群を考えるとどうしてもそういう作品が見たくなってしまうのだが、上海太郎を見たことがない人がいたら、ぜひ一度劇場へ。この人、パフォーマーとしてもただものじゃありませんから。




 チェルフィッチュ「エンジョイ」★★★★新国立劇場)は本来今月のお薦めの本命といえる舞台なのだが、それをここまでとっておいたのは別にダンスだけのギャグがやりたかったからというわけじゃなくて、単純に12月との端境期に公演があったため、つい忘れていたから。このところの岡田利規の舞台を見ていると、やや肩透かしの感があった京都での「体と関係のない時間」も含めて、微妙に揺らぎ続けているところがあって、そこが魅力的であったりする。というのは「三月の5日間」である一定のスタイルを築き上げて、それは岸田戯曲賞も受賞して、しばらくはそこに安住しても不思議ではないのにこの人の場合はそうじゃなくて、自分の方法論でなにが可能か、あるいはどのようにするとその表現を広げられるかの実験がまさに進行中なのだ。そしてその場合にはいつもネクストワンがなにかがむしょうに気にかかるのだ。「エンジョイ」ではなにを見せてくれるだろうか。




 「ソウル市民」といえば日韓併合期のソウルの日本人家族の日常を淡々と描き出すことで、無作為の差別の構造をあぶりだした平田オリザの代表作。いまや「東京ノート」などと同様に現代の古典といっても過言ではない作品だが、新作も含め3部作(「ソウル市民」「ソウル市民1919」「ソウル市民 昭和望郷編」)を一挙上演するという青年団「ソウル市民三部作連続上演」 ★★★★吉祥寺シアター)は見逃すことができない。

 
 「ソウル市民」は、トーマス・マンの「ブッテンブローグ家の人びと」を意識して書かれ「ある一家の三代に渡る年代記のようなものを、一時間半の凝縮された時間と空間の中に醸し出すことはできないかと、1989年、当時26歳の私は考えた」と平田はコメントするが、その意味では「今年『ソウル市民 昭和望郷編』を書くことで、この作品は、本当の意味での年代記としての完成する」ということらしい。これはやはり3本まとめて見る必要があるだろう。新作「ソウル市民 昭和望郷編」では元弘前劇場の森内美由紀が青年団の劇団員としてデビュー。どんな演技を見せてくれるのかも個人的には楽しみである。




 はせひろいちの新作、ジャブジャブサーキット「歪みたがる隊列」 ★★★★こまばアゴラ劇場)にも注目したい。今回の作品は2004年に上演された「しずかなごはん」の続編的な匂いがする作品。「しずかなごはん」は摂食障害を取り上げたがこの「歪みたがる隊列」では乖離性同一性障害(DID、Dissociative Identity Disorder)つまりいわゆる多重人格障害を主題にしている。


 多重人格をモチーフにした文学作品、映画、演劇というのはこの問題の古典である「ジキルとハイド」をはじめとして珍しくはないのだけれど、ダニエル・キースの「24人のビリー・ミリガン」など一部の例外を除くと、その大部分は「多重人格」という趣向を作品のなかに取り込んでいるという類のものであって、この問題について正面から取り組んだものは少ない。重い主題でありながら、ミステリ的興味を生かした巧みな作劇で娯楽としても成功させており、その部分で実はやや違和感も感じさせられたりしたのだが、いろんな意味で問題作であると思う。




 問題作といえば松田正隆の新作マレビトの会「アウトダフェ」★★★★(シアタートラム)も東京の人にこそぜひ見てもらいたい作品である。あの映画「紙屋悦子の青春」で静謐な会話劇を描いて、ひとつのスタイルを確立した松田正隆が時空劇場を解散した後、再び自らの手で立ち上げたのがマレビトの会だが、その劇世界はそれこそ天と地ほど違う。マレビトとの会の東京公演は旗揚げ公演の「島式振動器官」以来しばらくなかったのだが、その時には予感にすぎなかった不穏な世界が奥村泰彦のみごとなまでの美術造形をともなって、目の前に姿を現わす。




 演劇雑誌「悲劇喜劇」8月号の特集で三浦大輔ポツドール)と岡田利規チェルフィッチュ)についての小論を執筆。エジンバラ演劇祭のリポートは週刊ウェブマガジン「マガジン・ワンダーランド」(http://www.wonderlands.jp/info/subscription.html)にも寄稿。これから何回かにわたって連載する(第一回目の原稿は掲載済みだが、関連のホームページでも読むことが可能)ので興味のある人はそちらにも登録して読んでみてほしい。

 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。