12月のお薦め芝居(2006年)



12月のお薦め芝居


12月のお薦め芝居

by中西理



 




 エジンバラ演劇祭のリポートをweb wonderlandに寄稿したので興味のある人はそちらにも登録して読んでみてほしい。自分のブログ日記に書いたものを改稿したものではあるが、オリジナルのレポートとして分かりやすく補足しているので、エジンバラ演劇祭に興味のある人には読み応えがある内容になっていると思うのだが、このせいで毎週締め切りがやってきてけっこう大変。それでは今月もまずは先月の反省から。




 遊園地再生事業団「鵺 NUE」辻企画「世界」h.m.p.「Rie」と相変わらず注目公演の見逃しが多い。ただ、一方にはもちろん収穫もあって、人生とはそんなものさと達観するしかないかも。もっとも、まだこれからの公演なのに現在すでに痛恨なのは今下期の最大の注目公演であった岡田利規の新作新国立劇場「エンジョイ」 が週末はすべてソールド・アウトで、私が見ようと思っていた12月16日の分のチケットがついに手に入らなかったことだ。12月の仕事の予定がなかなか決まらなかったので、それを待ってと思ったのが敗因。東京を甘く見ているとこういうことになるわけだ。それじゃ、仕方ないから当日券に並ぼうかと思ったら、当日券は「朝10時から新宿のチケットぴあなどで発売するが、おそらくすぐ売り切れます」と劇場の女性のつれない言葉。私は大阪に住んでいるのだ。前日の夜は深夜2時半まで仕事でどうやってそんな時間にぴあ店頭に並べというのか(涙)。だれか、チケット余分に持ってる人いませんか。あるいは早起きして私の分のチケットもとってくれる人は……無理か。と書いてきたら重要なものを見逃していることを発見。ポツドール「恋の渦」のことなのだが、最近東京にあまり行ってなかったこともあり、気がつくのが遅れ、だけど再演だからまあいいかと思ってたのが完全に勘違い(涙)。岸田戯曲賞受賞作となった「愛の渦」と混同していたわけで、「恋の渦」は新作だったということに公演が終わってだいぶたってから、人に指摘されて初めて気がついたのであった。あーあ(ため息)。

 
 またもや愚痴からはじまってしまったが、気を取り直して先月(11月)の反省から。ダンスでは今下期の関西最大の収穫といえそうなのがシャッツカマー「レインコード」 (アトリエ劇研)である。schatzkammerは構成・演出の森本達郎とバレエダンサーの夏目美和子によって結成されたコンテンポラリーダンスユニットである。旗揚げ公演で注目して以来有望な若手カンパニーとして期待していたのだが、ここ数年は森本の就職と多忙で活動休止状態であった。今回はアロー・ダンス・コミュニケーションの松本芽紅見、狂気が見える女性パフォーマーとして最近存在感を増してきている野田まどかと女性ダンサー3人のキャストも強力だったが、やはり大きいのは演出家である森本の復帰。森本演出はダンス的というよりも、誤解を恐れずにあえて言えば、美術的ないし絵画的な印象。舞台装置のいっさいないアトリエ劇研の空間はブラックキューブを思わせるのだが、この無機的ともいえる空間に照明の効果を存分に活用して、光と闇の空間を作っていき、そこにダンサーをある時はまるでオブジェのようにまたある時は生身を感じさせる人間として、配置し、ある時は動かしていくことで、空間を造形していこうという強い意志のようなものをこの作品からは感じた。このカンパニーの存在は東京どころか関西でもごく一部の関係者にしか知られていないが、森本が活動を続けるならば近い将来、かならず脚光を浴びる日が来るはず。いまや、私にとってはきたまりKIKIKIKIKIKIと並ぶ関西若手の有望株である。頭の片隅に名前を書きとめておいてほしい。


 演劇では劇団太陽族岩崎正裕の作・演出による中島らもへのオマージュアイホール・プロデュース『ルカ追送〜中島らも「ロカ」より〜』がよかった。作者のそして、出演者の中島らもへの思いが伝わってくる熱気に溢れた好舞台で間違いなく年間ベスト10級の傑作である。劇団☆新感線の初期を飾った美貌の看板女優であった岡本康子の22年ぶりの舞台出演も特筆すべき出来事で、新感線時代を見てないのが惜しまれたほどの好演であった。


 これまで厳しめのコメントをしたことが多かったが、この作品で一皮剥けたと思わせたのがデス電所「夕景殺伐メロウ」である。「オタクによるオタクのためのオタク演劇」の魅力を臆面もなく発揮した。これまで少年王者舘クロムモリブデンのフォロワーといわざるえないところがあったのだが、オリジナルなスタイルをつかみつつあるという意味ではメルクマールとなった作品といえそうだ。  




 12月も演劇・ダンスともになかなか充実したラインナップである。JCDN全国巡回公演ダンス「踊りに行くぜ!!」は10月から12月にかけて前橋、札幌、福井、広島、静岡、茅ヶ崎佐世保、大阪、別府、金沢、沖縄、高知、新潟、山口、長久手(愛知)栗東、仙台の全国20ヶ所そして06年3月に東京(「SPECIAL IN TOKYO」と銘打ち、本年度の話題作品を上演)で40組のアーティストが出演するという大規模なものとなった。今年はこのうちすでに福岡、青森、松山、広島、大阪、別府、金沢の7ヶ所に出かけ、そのせいで今年の秋は週末ごとに全国を駆け回る男となってしまっている。現在は後半戦だが、さすがに全部に付き合うわけにもいかないので、とりあえず今後の予定としては「踊りに行くぜ!!」in栗東★★★★(12月23日)を残すのみとはなっているが、今年は来年3月の秀作集である「SPECIAL IN TOKYO」にいったい誰が選ばれるのかが、今から楽しみ。観劇リポートは福岡(http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20061007)に続き、青森(http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20061013)、松山(http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20061020)を執筆。広島、大阪も一部執筆中。別府会場の打ち上げの席で勢い余って、「今年は観劇した全会場のレポートを書きます」と宣言してしまったので、それ以外の会場についてもおいおいレポートを書いていく予定。興味を持った人はぜひ覗いてみてほしい。





 ダンスでは注目はMonochrome Circus+ディディエ・テロン「水の家プロジェクト」 ★★★★(京都芸術センター)である。参加しているダンサー個々のスキルの高さ、坂本公成の振付、照明プランによる空間構成力など現在関西でもっとも充実した舞台内容を見せてくれているカンパニーがMonochrome Circusである。今回は12月の京都公演と1月の大阪公演とともにすべて坂本公成の振付による小品のガラ形式ながら、京都と大阪では演目がすべて入れ替わるという意欲的なプログラム。なかでも、佐伯有香のソロ作品「怪物」はJCDN全国巡回公演ダンス「踊りに行くぜ!!」に参加、複数の場所での公演を通じてどのような作品に成長したのかが注目される。ディディエ・テロンに共同振付として参加してもらい練り直した「最後の微笑」にも期待したい。




 最初で最後のソロ作品と銘打たれた矢内原美邦ニブロール)独舞「さよなら」★★★★(シアタートラム)にも注目したい。福岡で上演された新作「NO DIRECTION,everyday」のなかでも矢内原自らが踊る部分は本当に際立っていたし、その矢内原がソロということでその踊りをたっぷりと見せてくれる機会というのはニブロールの通常の枠組みのなかでは今後もあまりないと思うので、今回はその生意気でありながらキュートでもあるダンサーとしての矢内原の魅力を堪能したいと思う。




 演劇ではフジテレビの企画のよる『お台場SHOW−GEKI城』がスタート。いま旬の小劇場の劇団にそれぞれアイドルが出演するという微妙な企画(笑い)だが、少なくともロリータ男爵+愛川ゆず季「なんてったってアニマル」 ★★★★シベリア少女鉄道+MARI「ライジングトルネードナースコール」 ★★★★あたりは必見ではないだろうか。ロリータ男爵はグラビアアイドルが出演するという今回の企画に一番しっくりとなじみそう。シベリア少女鉄道は上演時間が短く(おそらく1時間程度か)、凝った舞台装置もつかえないという今回の企画の制約のなかでどんなネタで勝負してくるのかがすごく気になるところなのである。




 企画ということでいえば王子小劇場での「王子トリビュート 001 畑澤聖悟」にも注目したい。今回上演されるのは「俺の屍を越えていけ」 ★★★★いるかHotel「月と牛の耳」 ★★★★渡辺源四郎商店「素振り」 ★★★★。もちろん、一番の注目は畑澤自らが作・演出する新作「素振り」であることは間違いないのだが、クロムモリブデンの森下亮が出演するという「俺の屍を越えていけ」 、遊気舎の谷省吾が率いるいるかHotelによる「月と牛の耳」 も見逃せない。
いるかHotel「月と牛の耳」は今年の初めに大阪で上演された舞台の再演だが、谷の演出とともにキャスティングが絶妙。初演は加藤巨樹の好演もあって、2006年の年間ベストアクトの上位にも位置づけられるほどの好舞台だった。
初登場となる東京の人はもちろん、年明けにはピッコロシアター・中ホール(尼崎市=1月6−8日)での関西公演も予定されており、前回見逃した関西の演劇ファン、演劇人にとって必見の公演である。「王子トリビュート」は劇場が注目する旬の劇作家の作品に焦点をあてて紹介していくという意欲的な企画だが、その第1弾に東京の劇作家ではなくて、青森を本拠とする畑澤聖悟(渡辺源四郎商店・元弘前劇場)に白羽の矢をたてたというのは私もかねがね注目してきた作家であるだけに興味深い。




 関西では元維新派草壁カゲロヲ、近藤和見らによるロヲ=タァル=ヴォガ「YANAGITA」★★★(アートコンプレックス1928)にも注目したい。維新派独特のボイスパフォーマンスや群舞などを継承する身体表現としての部分と台詞芝居を融合させようというのが最近のこの集団の方向性だが、現在までのところ戯曲の完成度にやや課題があるのも事実。今回の公演ではどの程度この課題を解消してくれるだろうか。個人的には「数独I」のようなパフォーマンス色の強い公演の方が特徴がよくでていて面白かったのだが。今回は電視る




 チェルフィッチュ「エンジョイ」★★★★新国立劇場)は先月のお薦めですでに紹介しているのだが、12月にも公演があるため引き続き紹介する。このところの岡田利規の舞台を見ていると、やや肩透かしの感があった京都での「体と関係のない時間」も含めて、微妙に揺らぎ続けているところがあって、そこが魅力的であったりする。というのは「三月の5日間」である一定のスタイルを築き上げて、それは岸田戯曲賞も受賞して、しばらくはそこに安住しても不思議ではないのにこの人の場合はそうじゃなくて、自分の方法論でなにが可能か、あるいはどのようにするとその表現を広げられるかの実験がまさに進行中なのだ。そしてその場合にはいつもネクストワンがなにかがむしょうに気にかかるのだ。「エンジョイ」ではなにを見せてくれるだろうか。




 「ソウル市民」といえば日韓併合期のソウルの日本人家族の日常を淡々と描き出すことで、無作為の差別の構造をあぶりだした平田オリザの代表作。いまや「東京ノート」などと同様に現代の古典といっても過言ではない作品だが、新作も含め3部作(「ソウル市民」「ソウル市民1919」「ソウル市民 昭和望郷編」)を一挙上演するという青年団「ソウル市民三部作連続上演」★★★★吉祥寺シアター)は見逃すことができない。

 
 「ソウル市民」は、トーマス・マンの「ブッテンブローグ家の人びと」を意識して書かれ「ある一家の三代に渡る年代記のようなものを、一時間半の凝縮された時間と空間の中に醸し出すことはできないかと、1989年、当時26歳の私は考えた」と平田はコメントするが、その意味では「今年『ソウル市民 昭和望郷編』を書くことで、この作品は、本当の意味での年代記としての完成する」ということらしい。これはやはり3本まとめて見る必要があるだろう。新作「ソウル市民 昭和望郷編」では元弘前劇場の森内美由紀が青年団の劇団員としてデビュー。どんな演技を見せてくれるのかも個人的には楽しみである。











 演劇雑誌「悲劇喜劇」8月号の特集で三浦大輔ポツドール)と岡田利規チェルフィッチュ)についての小論を執筆。エジンバラ演劇祭のリポートは週刊ウェブマガジン「マガジン・ワンダーランド」(http://www.wonderlands.jp/info/subscription.html)にも寄稿。これから何回かにわたって連載する(第一回目の原稿は掲載済みだが、関連のホームページでも読むことが可能)ので興味のある人はそちらにも登録して読んでみてほしい。

 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。

 私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。いるかhotel「月と牛の耳」、「踊りに行くぜ!! 総合チラシ」、Monochrome Circus12月本公演などでレビューの転載や宣伝文引き受けています。劇場でチラシ見つけたら読んでみてください。
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中西