大竹野正典と「密会」

 大竹野正典率いる犬の事ム所による「密会」(1993年、大阪スペースゼロ)は衝撃的な舞台だった。小空間で上演されたため、観劇できる幸運に恵まれたのは少人数だったが、私はこの作品をその年のベストアクトに選んだ。90年代の関西演劇を代表する好舞台のひとつだった。
 安部公房の同名小説が原作だが、小説の世界を素材としながら得意とする事件ものの趣向も取り入れ、東京深川通り魔殺人の川俣軍司を主人公とした異色作。初演では上方小劇場の看板だった秋月雁が鬼気せまる演技で川俣役を演じたのが鮮烈に記憶に残っている。秋月雁をはじめ戎屋海老、九谷保元ら関西を代表する奇優・怪優を揃え、彼らが舞台狭しと自由奔放に遊び回る。そしてその中心には大竹野がいた。その雄姿をもはや劇場で見られないのは残念だが、東京で大竹野作品を連続上演してくれているオフィスコットーネの手によってもう一度この芝居を見ることができる。こんな贅沢なことはない。