下北沢通信1997年1月号

96ベストダンス
1、ラ・ラ・ラ・ヒューマンステップス「2」
2、イドー・タドモル・アンド・カンパニー「TA(タア)」
3、珍しいキノコ舞踊団「もうお陽さまなんか出なくてもかまわない」
4、ダムタイプ「S/N」
5、イデビアン・クルー「いどろる」
6、山崎広太・rosy・co・ダンス「what's wrong」
7、H・アール・カオス春の祭典
8、ローラン・プティダンシング・チャップリン
9、ジャン・クロード・ガロッタ「ドクター・ラビュス」
10、CRUSTACEA「ISH vol.2 fantastic cafe」

 今回は下北沢通信の場を借りて、今年(96年1月―12月)見たダンスのベスト10をまとめてみることにした。実はダンスは演劇以上に現在の私が興味を感じている舞台表現だったりする。もともとは身体表現としての演劇について考えているうちにダンスについても興味を持ったのだが、気が付いてみると今年見たダンスの数が100公演を超え、舞台のうちの三分の一にも達していることに気が付いたからだ。


 なんといっても、今年最大の収穫というか、期待しながら裏切られずその格好の良さに思わずぶっとんだのがカナダのダンスカンパニー、ラララ・ヒューマンステップだ。ダンスの魅力はムービングと空間構成にあると考えるが、ラララのきたえられたアクロバティックな動きのすごさには圧倒された。エドワール・ロックの振り付けは基本的には足を振り上げたり、空中で打ちあわせたりするバレエ的な動きの要素に身体の横回転などアクロバティックな動きを組み合わせたものだが、とにかくその速度と強度が並外れている。これを見てしまうと普通のダンスなどはスローモーションに感じられてしまう。


 表現の意味性というか映像で表現される若さと老いの対立などのテーマにはあまりのナイーブさに白ける部分もないではないが、圧倒的なダンスの強度が生み出す快感の前にはそんなことは吹き飛んでしまう。
 一方、予想外にというか知名度が低かったこともあり期待していなかったのに見事な構成、振り付けのレベルの高さの驚かされたのがイスラエルのダンサー、振付家のイドー・タドモルの作品だった。表題の「TA」というのはヘブライ語で檻のことで、ダンサーが舞台上に拘束服で宙吊りにされて登場するインパクトたっぷりの冒頭シーンから檻状の装置を舞台の上で自由に動かしながら、ダンサーの動きと組み合わせ舞台を病院やダンスホール、街路など異なる空間に見立てて構成していく。目まぐるしく変わる舞台の雰囲気に合わせムーブメントもバラエティーに富んでいて飽きさせない。ダンサーのテクニックもしっかりしている。同じ動きでも細かくひとによって振り付けが異なり強い個性を持つダンサーが印象的だった。


 ガロッタの作品もダンサーの個性に合わせた振り付けが魅力的。男女デュエットによる四組の踊りを組み合わせた構成だが、シンプルであっても、それぞれに関係性を変えるのに合わせて振り付けの質も変えてみせるなど全体の構造がよく考え抜かれているのに感心させられた。
 こうした海外カンパニーにくらべ日本のダンスは振付家がダンサーでもあろことが多いためか、空間構成に難があり退屈してしまうことが多い。だが、若手の振付家のなかには豊かな空間構成力を持つ人材もでてきている。


 これまでのキッチュな感覚を生かしながらも端正なひと味違うキノコを見せてくれたのが「もうお陽さまなんて〜」。三月に再演とのことでそれにも期待したい。


 白河直子のダンサーとしての実力は認めながらも、どうも自己表出的な表現が気になって好きになれなかったH・アール・カオスだが「春の祭典」ではストビンスキーの音楽がまずあって構成されていたせいか、自己表出性が生のままではなく全体の構成のなかでうまく生かされていた。出色の出来の作品である。


 ダムタイプのよさはパフォーマンスの格好よさにあると思っている。この作品もフラッシュライトの中で壁の後ろにパフォーマーたちが消えていく部分の美しさは本当に見事であった。だが、それ以上に古橋悌二の生命ぎりぎりの表現に涙が止まらなかったのも確か。古橋亡き後、残りのメンバーがどのような方向性を打ちだすのかが気になるところだ。
 若手では空間の処理に独特の感覚を見せるイデビアン・クルー井手茂太の舞台も面白かった。ダンサーに対した技量がないのに、一風変わった振り付けの面白さと空間構成の力で見せてしまう実力はたいしたものだ。


 たとえアートでなくショウだといわれようがダンスは楽しいに限る。そういう意味でローラン・プティのサービス精神とエスプリには脱帽した。
 もちろん、プティと比べられるようなものじゃないのは分かっているが、これが旗揚げ二回目という女性三人によるダンスユニットCRUSTASEAの公演は極めて楽しいダンスパフォーマンスであった。少し客に媚を売りすぎじゃないかとか気になる点はあっても、このサービス精神は買いたいと思う。