ポかリン記憶舎「カミン」

ポかリン記憶舎は旗揚げ3年目という若手劇団ながら、その表現のオリジナリティーの高さから、私がもっとも注目している劇団のひとつとなっている。少人数の出演者で、張り詰めたのような濃密な劇空間を築き上げた前回の公演「Pictures」は若手劇団に似あわぬ完成度の高さを見せてくれたので、今度はどうだろうと注目していた。

 今回の舞台は田舎の温泉町の休憩所である。基本的には群像会話劇のスタイルを取っており、この休憩所には様々な人物が現れてはまた去っていく。こうした構成は平田オリザ岩松了らに代表される「関係性の演劇」の手法を思わせるが、ここでは平田らの作劇のように会話を通じて、登場人物の間の隠された関係性が浮かびあがってくるといような構造にはなっていない。

 なにかの調査でこの温泉町にやってきた相原水質研究所という会社の研究者らしい3人の男たち(野田宗司、田中邦昭、池川真人)。この町の祭りに参加するために呼ばれてきたらしいやはり3人組の女性たち(田上智那、松田恵子、高橋由希)。さらに村の青年団の男たち(後藤文一郎、村田暁彦)や温泉のやってきていちゃついている恋人たち(西手勝秋、秋山京子)。こうした複数の人物の関係が芝居の進行にともなって、徐々に提示されていくが、休憩所に集う人々の日常的な描写と思わせる前半部の描写はそれが日常と微妙にずれた空間であることを小出しにしながら、後半になって起こってくる様々な不思議なことに観客を少しづつ引っ張っていく、伏線の役割を果たしている。ここにこの芝居での明神慈の作劇のからくりがある。

 ポかリン記憶舎の独自性は後半部に起こる非日常的な怪異の描写にある。短いシーンながら着物姿の坂井珠真が登場するにいたり、この芝居は明らかに幻想の方向に向かって転調する。だが、それがいきなり登場するわけではなく、そうした怪異が起こっても変でない雰囲気に徐々に一見、日常的な描写の積み重ねによって、飛躍のための滑走路のようなものを作っていく。ここにポかリン記憶舎のこれは「関係性の演劇」の側の作家であるジャブジャブサーキットのはせひろいちの作劇法にもあい通じるものがある。だが、はせと明神の方法が大きく異なるのは、はせの場合はあくまで怪異、あるいは幻想は日常描写の背後に暗示されるような存在であるのに対して、明神の場合、最終的にはビジュアルとしてそれをはっきりと見せることが主眼となっているからである。

 「Pictures」の上演を通じて、それまで無意識であった方法論がかなり意識化されたためか、この芝居では16人という多数の人物が登場し、しかもポかリン記憶舎の芝居は初めて出演する役者が半分以上を占めていたのにもかかわらず、全員がしっかりとポかリン的な世界を体現する演技をするレベルにまで達していたのには感心させられた。ポかリン記憶舎はこの後、12月4、5日に男優2人による2人芝居「スリヌケル」を上演。来年、3月の「オン・シツ」はまた「Picuters」同様に登場人物5人らしいので、今回の結果を踏まえて今度はどんな世界を描き出すのかがますます注目である。