伊藤キム+輝く未来「階段主義」(6時〜、新世界スパワールド大階段)を観劇。
 「階段主義」は伊藤キムが引き連れたメンバーとともに戸外の大階段で踊るシリーズで今回は仙台に次ぐ第2弾。9月には兵庫県立美術館でも同様の公演の予定があるらしい。今回の公演は伊藤キムと輝く未来のメンバー4人が東京・大阪のワークショップの参加者40人と一緒に踊った。会場に開演ぎりぎりに着くとすでに前の方に並べられた椅子席は満席。椅子席の後ろの立ち見も立錐の余地ない状態になっていたたため、反則ぎみぎりぎりを覚悟のうえで、椅子席の下手の通路と椅子のすき間のようなところに陣取ることにした。
 音楽がかかって、舞台がはじまると最初は輝く未来のメンバー4人がまず登場し、踊りはじめる。今回の注目は輝く未来のダンサーとして振付家としてトヨタアワードを獲得したばかりの黒田育世が参加していたこと。これまでは伊藤キムの作品ではコンドルズの鎌倉道彦らが参加していた昔の作品を除けばあまり伊藤キム以外の個別認識ができていなかったのだが、今回は輝く未来のダンサーは少数精鋭の参加のため、結構じっくりとそれぞれの踊りを見ることができて楽しかった。特に黒田は先日彼女自身の作品を見たばかりなので、印象が強く最初の4人の時も後からワークショップメンバーが皆参加して大勢の群舞になった時も気が付くと彼女を目で追ってしまう。この日の振付はいつもの作品のように伊藤キムがメンバーに厳密に振り付けたものというよりは即興の要素が強いもののようで、そのせいかそれともキムの影響が彼女の作品にもでていたせいか、黒田がソロ的に舞う時の動きは自分の作品「sideB」の後半に出てくる彼女自身のソロと質が近いということにあらためて気が付いた。
 流れていた音楽がラジオの株式市況の放送に変わると4人の後にキムが1人で客席側から登場してそれに合わせて即興のソロを踊る。大階段には手すりが2つ上から下まで貫通していて、3つの部分に区切られているのだが、キムはその手すりを飛び越えて右に行ったり、左にいったりしながら踊り回る。この人のダンスは振り付けられた動きで踊る時も魅力的ではあるが、こういう開放されたような場所で即興のようなカタチで自由奔放に踊る時に独特の愛嬌を見せる。
 キムのソロが終わると階段の上から次々に大勢のダンサーが現れる。これも厳密に動きが決まっているというわけではなさそうだが、いくつかのキーになる動きとだれかがある動きをはじめるとしばらくすると周囲でそれを見ているダンサーはその動きを真似てユニゾンで合わせる。そうすることで出来る小グループを30〜40人がいるなかの動きのなかで、複数作っていくなどのいくつかの決めごとがあるようで、その最小限の組織化が全体の印象をバラバラで散漫なだけのものになることから救っている。
 ダンサーの技量の巧拙はいろいろであるから、これが劇場で上演されたものであればおそらく途中で退屈してしまいがちなところで、自然にダンサーの中から動きの魅力的な人を探して見つけることを無意識に行うようになるのだが、こういう時に黒田をはじめ4人だけといえ輝く未来のダンサーが参加してくれているのはよかった。ただ、それだけじゃなく、階段の魅力そして逆に言えば怖いところは全員の動きがそんなに重ならないで見えるということで、こういう時には技術だけの問題ではなく、かならず気になるダンサーが出てきて気が付くとそれを目で追っている。もちろん、知りあいのダンサーなどが出ていれば無意識のうちにそれを探すことにもなるのだが、この日はそれはいなかった(正確に言えばいないと思っていたので桃園会の江口恵美が出演していたのに気が付かなかった)ので、そういうことはなく、自然に悪目立ちするというのじゃなく、動きが引かれるダンサーをいつの間にか目で追っている自分に気が付いた。
 作品として、あるいはダンスとしての完成度やクオリティーを問えば問題外ではあるのだが、それでもこの日の舞台はいろんな意味で楽しめたのである。