ヤザキタケシ「Blue Time/SpaceX」

パリ日本文化会館ヤザキタケシ&アローダンスコミュニケーションの新作公演「Blue Time/SpaceXを見た。パリ国立ダンスセンターとパリ日本文化会館の共同制作によるもので、特に「Blue Time」はこれが初演となる。
わずか3日間の公演ではあるが、初日の評判がよかったのが口コミで広がったのか当日券の販売が伸びたようで、280程度のキャパの客席はほぼ満員と盛況であった。
2本だてのプログラムだが、公演は新作「Blue Time」からスタート。舞台には畳大の莚(むしろ)が4つ吊るされていて、その後ろに裸電球がそれぞれ1つずつ。これが照明の具合により、後ろの人が影になったり、前にでてきた人もシルエットになったりと効果的に空間構成に利用される。冒頭は松本芽紅見が上手寄りの莚の前、佐藤健太郎が下手寄りの莚の後ろにスタンバイしており、両者ともにほぼ正面向きに立ってユニゾンでゆっくりと踊り始める。2作目の「SpaceX」が佐藤が出演していながらほぼ狂言回しのような役柄に徹しているのに対して、こちらは佐藤を含めてのトリオ作品と言っていいだろう。全体として手のひらを自分の胴体部分に這わせたり、こすろつけたりといったヤザキ特有の動きがもたらす社会的な抑圧などを感じさせる雰囲気で、動きも比較的スローで舞踏とはまるでことなった出自のダンスであることは明らかだが、白っぽい衣装の配色やモノトーンの照明の効果、使っている音楽も現代音楽的なものであることを併せて、東洋的なコンテンポラリーダンスの色彩を色濃く打ち出しているのが特色といえるだろう。
後半のべートーベンのピアノソナタに合わせて手紙を読む佐藤健太郎を真ん中にして左右でそれが気になって仕方がなく覗き込むという2人の様子をダンスの動きに還元して構成した部分などなかなかに印象的な場面もあった。ただ、全体としてはこの作品だけに関していえばやや大人しい印象もあってインパクトに欠ける印象も残った。
一方、15分間の休憩をはさんで2本目が「SpaceX」。こちらは昨年国立パリダンスセンターの主催で制作した作品で日本でも京都のアトリエ劇研などで上演しているだけあって、新作と比べると完成度の高い舞台となった。ここ数年ヤザキが取り組んできた舞台上に白いテープで四畳半大の矩形を描き、そのなかで身一つで踊ることで空間とダンスを見詰め直すという「エスパス」シリーズの連作の集大成といっていい作品で、松本、ヤザキのそれぞれのソロに2人のデュオを加えた3部構成となっている。
ヤザキタケシの振り付けるダンスの持つ運動性の連続の面白さを4角形の空間のなかで純化させたかのような松本のソロもいいが、なんといってもコンテンポラリーでありながら卓越したショーマンシップを存分に見せてくれるヤザキのソロは圧巻。
最初の作品、松本のソロとどちらかというと張り詰めたような緊張感でアートとしてのダンスを鑑賞していた感のあった客席の雰囲気が笑いを起こさせるヤザキのパフォーマンスで一変。そうしたキャラっぽい演技だけでなく、その後に見せたきわめて運動性の高いダンスにも振付以上にダンサーとしてのヤザキの才能を感じさせた。
最後のヤザキと松本のデュオは佐藤が審判役で登場。男と女の恋のかけひきを真ん中の矩形を畳、全体を柔道に見立ててダンスに仕立て上げたエスプリに溢れた作品。
これは京都で見た時に思わずここだけの表題を「愛の1本背負い」(笑い)と名づけたくたくなったのだが、1本背負いやウエスタンラリアット(?)といった格闘技の技を取り入れたダンスはフランスでは受けるんじゃないかと思っていたのだが、予想以上の客席の反応ぶりであった。
一本目の作品はやや地味かもと書いたが、2本合わせたプログラム全体としてはバランスの取れたものであったと思う。