コニー・ウィリス「犬は勘定に入れません・・・あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」

 コニー・ウィリス犬は勘定に入れません・・・あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」早川書房ISBN:4152085533

  「このミステリーがすごい!」2005年版9位。ミステリの風味はあるとはいえ、これは純然たるSFでしょう。そして、最近、SF小説ともちょっとご無沙汰になっていたこともあって、この人の作品は初読だったが、これはタイムトラベル、タイムパラドックスものとして極めて良質のSF小説で、評判の高いらしい「ドゥームズデイ・ブック」をはじめ、他の作品も読みたくなった。
 表題自体がそこからの引用となっているジェローム・K・ジェロームの「ボートの上の三人男」をはじめいろんな小説・文学の引用がここにはあって、そのことは訳者の大森望による後書きにも詳しく述べられているのだが、この小説を読んだ後の読後感からしてあきらかに作者が意識しているだろうという超有名な作品のことがそこでは触れられてないのが不思議。それは猫が登場するタイムトラベルものといえばだれもが「あれか」と思うはずだが、もちろんロバート・A・ハインラインの「夏への扉」である。この小説にはブルドッグのシリルと、猫のプリンセス・アージュマンドと犬と猫がいずれも登場して物語展開上大きな役割を果たすのだけれど、「夏への扉」へのオマージュということを考えないと「犬は勘定に入れません」が表題のこの小説で本筋のタイムパラドックスの部分の謎解きのところで、なぜ猫であるプリンセス・アージュマンドの方が大きな役割を果たすのかというのがうまく説明できないのじゃないかと思う。そして、なにより嬉しいのはこの小説の登場で私たちは「夏への扉」と同様に優れた猫小説をまた一冊手にいれることができたということだ。
 犬好きな人はこの小説は表題からして明らかに犬小説だと主張するかもしれないが、この小説はミステリというよりはSFだというのと同様に犬小説ではなく、猫小説なのである。だれがなんといおうとも(笑い)。