スクエア「ラブコメ」

 スクエア「ラブコメHEP HALL)を観劇。
 スクエア版の「ショー・マスト・ゴー・オン」とでもいいたくなるような劇団を描いたバックステージものだが、正確にいうと芝居のはじまる数十分前の最後のリハーサル風景からはじまって、その後は舞台上で前説から劇中の劇団の公演自体がリアルタイムで進行していくからむしろ「オン・ステージ」ものといった方がいいのかもしれない。
 ここで描かれるのはとびっきりカッコいい芝居をやると自称しながら全然いけてない「劇団とびっきり☆ドリーマー」とそこに集う「トホホ」な人たち。ここでは小劇場にありがちな自分たちだけがカッコいいと勘違いしている勘違い劇団を俎上にのせているのだが、その作りこみの細かさが、並大抵ではないのである。
 まず会場で渡される当日パンフを見てみると表側はいつも通りにイラストレーターのチャンキー松本が描いたおなじみのイラストがあしらった「スクエア第16回公演 ラブコメ」とあるパンフなのだが、これをひっくり返して裏を見ると、裏も表のような仕様でこちらには「劇団とびっきり☆ドリーマーVol.16 ラブ・レジスタンス−壁の内側から流れるメロディ−」とある。表にムーミン浜岡=上田一軒とあるキャスト表にはこちらはピンキー=ムーミン浜岡などとある。これは劇中に登場する劇団の当日パンフという趣向なのである。
 この劇中にはこうした遊び的な趣向がいろんなところで仕掛けられていて、スクエアはこういう劇団だったらありがちかもと思う「映像・演技・美術・脚本」をすべて緻密に再現してみせる。この「劇団とびっきり☆ドリーマー」はSF活劇的な展開の芝居を上演する劇団で、その傾向はいろんな劇団から取り入れたところはあるとしても、どう考えてもこれはやはり劇団☆新感線だと思う。近未来で愛のある音楽が禁止された世界で伝説のバンドが復活するという劇中劇「ラブレジスタンス」の筋立てはそういえば新感線ではないけれどいのうえひでのりが演出したある芝居とそっくりなような。証拠はないけれど劇団名に挿入された☆がすべてを語っているでしょう(笑い)。
 もちろん、ここで描かれているのはここまでの記述で分かると思うけれど、新感線自体じゃなくて、そういうものを志向しているけれどセンスも演技もだめだめで、それこそ「トホホ」な劇団で、スクエアの脚本・森澤匡晴、演出・上田一軒のコンビはそれこそ顕微鏡で拡大するように駄目劇団の駄目ぶりをデフォルメしてみせる。
 これだけだとただのバックステージもののパロディでよくある趣向ともいえなくもないが、「ラブコメ」の面白いのはその表題通りに劇団員同士の恋愛模様を描いたコメディにもなっていることで、それは本番中にその舞台上で芝居の進行に従って分かってくるというそれこそアクロバットな仕掛けもこの芝居には盛り込んでいる。
 この劇団は芝居が始まる数十分前の時点で脚本が遅れて後半の最後の方の台本がまだ劇場に到着していないという危機的な状況にあるのだが、この脚本が遅れている脚本家(楠見薫)と演出のムーミン浜岡(上田一軒)は恋人で現在、痴話げんかの状態にあって、脚本家が私情を脚本に持ち込むためただでさえ、だめなこの劇団の芝居は物語の進行にともないどんどん出鱈目になってそれこそ収拾がつかなくなる。この辺りはまさに抱腹絶倒もので、普段のスクエアがもう少し微分的な細かい笑いを拾うのを特徴としていることを考えればややスクエア本来のテーストとは異なる面もないではないが、その分理屈抜きに笑えるのがこの芝居のよさであろう。
 実はこの芝居は初演も見ているのだが、その時には実際に森澤の本も遅れ、まさに虚実ないまぜのドキュメント演劇のようなことが起こっていたらしく、舞台後、楽屋に挨拶に行くと上田と森澤が恐縮したような顔で出てきて、「今回は稽古不足で」などというので逆に「この芝居のいいところは稽古不足かそうじゃないかが、他の芝居に比べて分かりにくいところですね」とそれこそ慰めにもならない失礼な慰め方をしてしまった(笑い)。ただ、今回は再演ということもあり、この劇団の完全主義から、それこそ劇中劇の下手な演技についても完璧な下手な演技を目指して、ああでもないこうでもないと工夫の限りを尽くして練習したはずだが、これってうまい演技をする以上にとんでもなく難しいことではないだろうか。ただ、劇中劇の演技に関しては一度見ただけでは舞台上でトチリに見えたのが、本当にそうなのか、超絶技巧的なトチリの再現なのかが分からない(笑い)。
 そういえば私が見た回では舞台装置にちょっと故障があってそれをある役者が演技しながら隠そうとしたらしいのだが、そこの部分は全然隠すことには役立ってなかったものの、観客である私の目にはその演技は「そういう駄目駄目なことをするような役者を演じている」ようにしか見えず、そういうことを考える時点でスクエアもこの劇団と大差ないじゃないか(笑い)と思わず思ってしまったのだが、それは言われなければ絶対に客席からは分からなかった。でも、その話を聞いたら、そうはいってもこの劇団のモデルはやはりスクエアでもあるのだなと今更ながら思ったのでもあった(笑い)。
 これから、東京公演もあるので、東京の演劇ファンはスクエアを要チェックである。