エレベーター企画「アテルイ」

エレベーター企画「アテルイ(大阪現代演劇祭仮設劇場<WA>)を観劇。

古き時代。日の国。
帝を中心とする大和の民はこの国を一つにまとめんと帝人軍を組織し、北の民 蝦夷国に攻め入っていた。その頃、都には「立烏帽子党」を名乗る盗賊の一団が現れていた。怒った蝦夷の一群が盗賊と化し都を襲う、と人々は噂し北の民に恐怖していた。しかし、都の守護役についていた武士、坂上田村麻呂はその正体に疑問を抱き、踊り女、鈴鹿の協力を得て、立烏帽子党探索をすすめる。そのとき彼らの前に現れる「北の狼」と名乗る謎の男。男と田村麻呂は、時に反目し時に協力しながら立烏帽子党の秘密に迫る。立烏帽子党とは、蝦夷の女性、立烏帽子が率いる盗賊軍だっだ。彼女は男に言う。「あなたを迎えに来たのです。阿弖流為」男こそは蝦夷の長の息子、アテルイだった。彼は北の神の呪いを受け故郷を追放されたが、大和の民の攻撃を受け一族存亡の危機となった今、北に帰ってともに戦おうと立烏帽子は誘う。己の血の叫びに従い北に帰るアテルイ。強大な帝人軍、蝦夷の中でも彼に反目する蛮甲の抵抗など内外の問題を抱えながら、彼は一族の長として成長していく。しかし、彼の抵抗はおもわぬ展開を呼んだ。蝦夷討伐の切り札として田村麻呂に征夷大将軍の命がくだったのだ。北の英雄アテルイ征夷大将軍坂上田村麻呂。二人の宿命の対決に向けて運命の歯車はゆっくりと回っていくのだった。

 エレベーター企画*1が「アテルイ」を上演するという話を聞いた時、最初びっくりした。
劇団☆新感線中島かずき脚本、いのうえひでのり演出により市川染五郎堤真一が主演して上演された「アテルイ」である。この脚本で中島が岸田戯曲賞を受賞。その意味では戯曲の評価も高かった舞台ではあるが、学生劇団などがコピー的な上演を試みたことなどを除けば、劇団☆新感線の脚本を上演しようなどという無謀な企てに手を出した劇団はかつてなかったのではないだろうか。その意味では興味深い公演で、どんなことになっているのか興味津々で出掛けた。
 エレベーター企画はこれまで何回かは見たことがあるが、これまで見た舞台はスペクタクル風の舞台というよりは緻密に演出された会話劇という印象。岸田國士ベケットなどの古典的な脚本や小説の舞台化を得意としてきた集団で、集団とは書いたが劇団というよりはプロデュースユニット的な色彩が強い。ここに書いたようにエンタメ系の劇団ではないし、あの新感線の舞台を上演する集団としてちょっと予想がつかないところがあったからだ。
 実は外輪は当初この仮設劇場<WA>での上演で、演目として利賀の演出家コンクールでも上演した「マクベス」を考えていた時期があったのだが、演劇祭の他の参加劇団の顔ぶれを見た時に広い意味でのアート系の劇団やダンスカンパニーが数多く入っていたことから、
マクベス」ではあまりにそれっぽい演目になりそうで全体の中で埋もれてしまいかねないのを嫌い、同じようなテーストの脚本が現代の戯曲でないだろうかと探していった時、この「アテルイ」にぶつかったということらしい。
 ただ、外輪はやはり普段、ギリシア悲劇シェイクスピアなど古典戯曲を上演することの多い、ク・ナウカがケラの「ウチハソバヤジャナイ」を上演した際に宮城聰に共同演出として招かれ、舞台の一部(後半の第2部)を演出した経験があり、その際の宮城の戯曲選択の姿勢にも影響を受けた節もある。
 今回の公演で演出の外輪能隆は「アテルイ」を上演時間1時間40分で上演した。新感線の上演では新橋演舞場での上演ということもあり、途中休憩を含めて、4時間近かったように記憶しており、主役である蝦夷の長の息子、アテルイ征夷大将軍として蝦夷討伐をすることになる坂上田村麻呂とそれぞれが信奉するアラハバキ神、帝という神の対決を軸として、
原戯曲を生かしながらも大胆なテキストレジストにより、舞台の根幹をなす対立軸に無関係な人物が登場する場面を大幅に削除。それに加えて劇団☆新感線の特徴であるギャグ部分をすべてカットした。
 これだけの変更があれば見るに耐えないスカスカな舞台になりそうなものだが、舞台は思いのほか面白いものであった。もちろん、ハードロック系の音楽をギンギンに使い、殺陣などの見どころも入り、ギャグ満載の新感線の舞台とクラシック主体の音楽を使い文字通りストレートプレイのエレベーター企画ではずいぶんと違うのだが、それでも舞台自体がそれなりに面白く見られたことは円形劇場をうまく生かした外輪能隆の巧みな空間演出の力もあったが、新感線の上演ではさまざまな要素で覆い隠されえていた部分もあったこの戯曲が本来持っていた骨太で古典的は悲劇の構造が今回の上演ではより露わになったところもあった。
 この舞台ではクラシック音楽が劇中音楽として使われているのだが、特にオープニング、中段、エンディングの3箇所で木澤香俚*2によるアカペラによるソプラノ独唱が挿入され、劇伴音楽としてドラマチックな効果を挙げたのが印象的であった。
 これまで述べてきたように当初の危惧からすれば十分に楽しめもしたし、評価に値する上演ではあったが、新感線の上演がその年の演劇を代表する好舞台でもあり、その印象が強いためにいくつかのことで不満が残ったことも確かだ。
 もっとも大きな不満はこの舞台を演じるには歌舞伎役者の市川染五郎が持っているような語りの技術が必要なのにここでの出演者は会話劇ではうまさを発揮しても、そうした語りの演劇の経験が不足した俳優が多いキャスティングでもあり、しかもプロデュースユニットで、劇団ではないため例えばク・ナウカ山の手事情社が行ったように日常の訓練によりそうしたスキルを訓練するようなこともやっていない。そのためにいくつかの重要な場面で役者が場を支えきれていないところが散見されたことだ。
 もちろん、エレベーター企画の本筋は会話劇風の作品の上演にあるため、それはある程度、当初から予想されたことではあり、さらに言えばいのうえには許された歌舞伎俳優の起用などということが、外輪には不可能なことを考えればそこまでを望むのは酷ではあるのだが、上演として新感線とは違うところで面白いところが多かっただけにないものねだりがいいたくなる上演だったのだ。
 
 
 

*1:http://www.evkk.net/

*2:15歳より声楽を始める。大阪教育大学芸術専攻音楽コース声楽専攻卒業。同大学院修了。その後二期会オペラスタジオにて研鑽を積む。2000年度フランス音楽コンクール声楽部門第1位、及びフランス大使賞、朝日放送賞、2003年第7回松方ホール音楽賞選考委員奨励賞受賞。第34回関西新人演奏会、フランス歌曲研究会主催演奏会等に出演の他、読売チャリティーコンサート「メサイヤ」(ヘンデル作曲)にてソリストを務める。2003年、2004年、フェニックスホールにてソロリサイタル開催。2005年は8月にスイス、9月に大阪にてピアニストのティエリ・ラヴァサ−ル氏とのリサイタルを開催予定。