パリ・オペラ座「白鳥の湖」

パリ・オペラ座白鳥の湖(上野・東京文化会館)を見る。

・オデット/オディール:マリ=アニエス・ジロ
・王子:ジョゼ・マルティネス
・ロットバルト:カール・パケット

今回の東京行きの目的は少年王者舘・夕沈ダンスの観劇だったので、最初は見る予定ではなかったのだけれど、先日の風邪で東京バレエ「ベジャール・プロ」を見逃したので、どうしてもバレエが見たいと禁断症状におそわれて、大枚をはたいて当日券をゲット。ひさびさの本格的なクラシックバレエの観劇となった。
 パリ・オペラ座の「白鳥の湖」はビデオで以前にピエトラガラの主演のを見たことがあるのだけれど、それはプルノンヴィル版で今回はそれとは違うルドルフ・ヌレエフの振付のバージョン。
 まずはなんといってもオデット/オディールのマリ=アニエス・ジロだが、オデットに関してはやや疑問符。もともと、大柄なダンサーで、肩の線などでも筋肉が目立つほどたくましいので、なんか優雅というよりはたくましく凶暴な白鳥という感じなのである。これまで彼女のダンスは何度かガラ公演では見たことがあるのだけれど、強靭な身体と高い運動能力によるダイナミックで切れ味のあるダンスが持ち味という気がしていて、オデットのような抑えたなかに優雅な情感を出していくようなダンスはどうなんだろうと注目して見てみたのだが、どうもピンとこない感じなのである。この日は相手役がジョゼ・マルティネスでいかにも弱弱しいキャラなので、マリ=アニエス・ジロの強い女ぶりが余計に目立ってしまう。
 ただ、だからこそというか2幕のオディールは素晴らしかった。いかにも挑発的なオディールで、ジークフリート王子を翻弄する魅力に溢れていた。ここではマルティネスの持ち味である色男だけど、なんとも優柔不断な感じのするキャラクターが実にはまり役になっていて、最後に床に倒れこんでしまうところなどもう抜群。
 さて、今回のもうけ役だったのはロットバルトのカール・パケットである。実は初めて見るダンサーなのだが、こういうのがまた出てきたというのがパリオペラ座おそるべしである。もともと、ヌレエフ版の「白鳥の湖」の最大の特徴というのはオデット/オディールの1人2役だけではなく、ロットバルト役のダンサーが一幕では家庭教師の役を演じ、さらにこの役がいわばメンターのように王子を導くとともに誘惑するという従来のバージョンよりも重要な役割を果たしている。
 そして、この役の持つ妖しげな悪の魅力をみごとに体現してみせたカール・パケットはここでは存在感で完全にジークフリート王子を食ってしまっているぐらいカッコよかったのである。この人なぜか異常に2枚目なのだが、どうもこのキャラはいわゆるクラシックバレエでいうダンスールノーブルとは違う魅力で、それゆえ、現在プレミエ・ダンスールであるパケットがエトワールになれるのかというのはちょっと微妙なところがあるかもしれないけれど、とにかく、今回はよくて、最終幕などそのせいで「頑張れロットバルト」と声援したくなってしまったほどだ(笑い)。
 そういう点からすればこのヌレエフ版は結末が珍しくロットバルト完全勝利バージョンなので、最後、情けなく床にくず折れたままのジークフリートを尻目に高らかに勝利を宣言するロットバルトという今回のヌレエフの解釈にはこのキャストは抜群のはまりようだったかもしれない。
 ところで、「白鳥の湖」ということで、主役以上に白鳥の群舞(コール・ド・バレエ)も見ものなわけだが、こちらは思わず笑ってしまったよ。よくいえばパワフルかつダイナミックといえなくもないが、この人たちは合わせる気があるのと疑問に思うほど自由奔放、勝手きままな群舞にあぜんとさせられたのである。しかも、足音ももの凄くて、ドタドタいっているものだから……思わず水面を優雅に泳ぐ白鳥も水面下ではもの凄い力で足をかいているという何かの例えを思い出したのだけれど、そういうことを表現したかったわけじゃないよね
(笑い)。
 このコールド・バレエに関してはネット上の感想などで完璧なコール・ドなどと書いている人もいて、どういうこと?って疑心暗鬼にとらわれているのだけれど、こんな風に乱れていたのはこの日だけってこと? この日見た限りではそんな風には思えなかったけれど。というのはこれは技術的に下手でこうなってるわけじゃなくて、それぞれが勝手にソリストみたいに踊ってしまった結果こうなったという風に思われたからだ。そもそも、ポーズとってる白鳥にしてもよく見るとロシアや日本のバレエ団と比べると腕の角度とか微妙に皆違っていて、よく言えば個性的なんだけれど、やはり、そこでそうだとせっかく、プティパ/イワノフが苦心した幾何学美が台無しになってしまっていると思えたのだが、どうなんだろうか。