サラ・パレツキー「ビター・メモリー」

サラ・パレツキー「ビター・メモリー早川書房)を読了。

サマータイム・ブルース◎ 1982 早川文庫104-1 パレツキーのデビュー作
ハヤカワベスト100・91位
2 レイクサイド・ストーリー◎ 1984 早川文庫104-2 キャサリンターナー主演で映画化「私がウォシャウスキー」('91)
3 センチメンタル・シカゴ◎ 1985 早川文庫104-3  
4 レディ・ハートブレイク◎ 1987 早川文庫104-4  
ダウンタウン・シスター◎ 1988 早川文庫104-5 CWA賞シルヴァー・ダガー賞('88)
6 バーニング・シーズン◎ 1990 早川文庫104-6  
7 ガーディアン・エンジェル◎? 1992 早川文庫104-10 早川書房('92)  
8 バースデイ・ブルー 1994 早川文庫104-13 早川書房('94)  
9 ハード・タイム 1999 早川文庫104-15 早川書房('00)  
10 ビター・メモリー◎ 2001 早川書房('03)  
11 ブラック・リスト 2003 早川書房('04) CWA賞ゴールド・ダガー賞('04)
◎が既読

 サラ・パレツキーの生み出したシカゴの女性探偵、ヴィク・シリーズの第10作。このシリーズは一時はロバート・B・パーカーのスペンサー・シリーズと並んでマイフェイヴァリットであったのだが、早川書房がハードカバーで出すようになってから、遠ざかっていてひさしぶりに読んだ。文庫が書店に平積みになっていたので、さっそく買って読んでみたのだが、やはり面白い。最初はなかなか入り込めなかったが、おなじみの登場人物が登場してくるうちにしだいに以前読んだものを思い出してきて、ひさしぶりにしばらく会っていなかった旧友に再会したのに似た感覚だろうか。上下2分冊でかなりの分量ではあるのだけれど、圧倒的なリーダビリティーがあり、一気に読み終えてしまった。
 このシリーズの特徴はヴィクが弁護士出身で、経済事犯(企業犯罪)の専門家であるということで、都市開発をめぐる不正工作であったり、保険がらみの企業犯罪であったりと毎回、その舞台となって時代のアメリカを反映した事件が描かれていること。もっとも、実は私立探偵小説といいながら、シリーズではヴィクの直接の知人(親族や友人)が犯罪に巻き込まれて、それを捜査することになるというプロットが多いことも、もうひとつの特徴で、個人的な義憤にかられて、その真相を暴くために飛び込んでいく、この主人公の怒りの感情に気がつかないうちに読者も巻き込まれていくという一種の痛快感があるところも魅力である、と思う。
 「ビター・メモリー」はシリーズのなかでも少し異色の作品となっている。というのはこれまでの作品でもヴィクの親友として登場してきているロティの隠された過去が明かされるという話になっているからだ。事件の鍵を握っているそのロティがヴィクの捜査に対して、非協力的なこともヴィクの怒りに火を注ぐ結果となっくるのだが、明かされる真相は重いものでもあって、それがシリーズを以前から読んできた読者にとってはこの作品にほかの作品にはないちょっと複雑な読後感を与える結果となっている。
 ただ、残念ながら、いろんなテーマを一度に盛り込みすぎた感もあって、心理分析と捏造された偽の記憶についての話やユダヤ人活動家と黒人の市民運動家(市会議員)の対立をめぐる問題などそれぞれに日本にいては分からない米国の事情が分かって興味深いのではあるが、ややプロットを組み立てるための表面的な素材に堕してしまって、図式的すぎるきらいがあってそこが気になった。
 さらに言えば、犯人像については「いくらなんでもそれはないだろう」というのが正直な感想。ミステリ部分の出来栄えに関していえばシリーズ中であまり出来のいいほうだとは言いがたい不満は残った。もっとも、
そういう欠点はあったうえでもこのシリーズは好きだというのを再確認。さっそく、未読だった「バースデイ・ブルー」「ハード・タイム」「ブラック・リスト」と以前購入したのは間違いないが、読んだかどうかが今となっては不明の「ガーディアン・エンジェル」を書店で購入。しばらく、続けて読んでみたいと思う。