サラ・パレツキー「ガーディアン・エンジェル」

サラ・パレツキー「ガーディアン・エンジェル」早川書房)を読了。
 「ビター・メモリー*1に引き続き、「ガーディアン・エンジェル」を読んだ。こちらはヴィク・シリーズの第7作目で、この後「ビター・メモリー」との間に「バースデイ・ブルー」(1994)、「ハード・タイム」(1999) と続くがこの2冊もすでに購入ずみなので引き続き読む予定。
以前に読んでいた時はあまり意識してなかったのだが、ヴィクことV.I.ウォーショースキーは「怒れる探偵」なのである。この「ガーディアン・エンジェル」でも病気で入院してしまった近所に住む老人の愛犬が以前からその犬を嫌っていた若手の弁護士に勝手に処分されてしまったことへの怒りが発端となる。
この後、隣人ミスタ・コントラーレスの旧友が行方不明となり、懇願されたヴィクは手掛かりを追って調査を開始するが、調査の中で、機械工場の不正が浮かび上がり、親友でもある医師ロティまでがなにものかの攻撃を受け生命を狙われ、怪我をしてしまう。この2つは本来、別々の事件のはずなのだけれど、犬を処分していた若手弁護士はヴィクの元夫のリチャード・ヤーボローの同僚で彼が横槍を入れてくることで、ヴィクの怒りに火に油を注ぐことになる。
 この小説にはこの元夫をはじめ、その現在の妻、若手弁護士とその妻とヴォクに対して、木で鼻をくくったような馬鹿にしたような態度をとる小悪人どもがそれこそ枚挙にいとまがないほどに束になって登場するのだが、こういう人たちはいつしかヴィクの捜査を妨害し、命さえも狙う敵対勢力みたいな一体のもとして認識されるようになっていき、ヴィクとその仲間対悪者の二分法のように読者の目に映るようになってくる。
 そして、そういう連中を悪の巣窟のように認識、ドンキホーテのようにぶつかっていくというのがこの小説の筋立てであった。冷静になって考えてみるとそんな陰謀説のような世界は実際にはないだろうと思うものの、読んでいるうちにはそれが気にならないで、読者はヴィクにそのまま感情移入できるように書かれているのが、サラ・パレツキーのうまさで、そのなかには嫌な人間を書かせたら抜群というところがあると思う。
 この作品にも「ビター・メモリー」同様、ミステリ小説として考えたら、この考える前に飛び込め、あるいは「犬も歩けば棒にあたる」的な捜査手法はどうしたもんだろうか(笑い)と思うところもないではないのだが*2、話が単純化されているだけに読み終わって深みには欠けるものの勧善懲悪的な痛快感は強いといえそうだ。
 こういう形で男性がもし主人公だったら、マッチョイズムが透けて見えて嫌らしさになるかねないところを主人公が女性であるという強みをこの作家はよく分かっていて利用していると思う。
 隣人ミスタ・コントラーレスやマックス、ロティといったレギュラーで登場する脇役が魅力的なのもこのシリーズの特徴だが、今回はなかでもミスタ・コントラーレスが彼の親友の死ということもあるが、獅子奮迅の大活躍。さらに言えば「ビター・メモリー」を先に読んでいただけに2人の愛犬ぺピーの子供の名前がなぜミッチなのかが分かって、思わずほろっとさせられてしまった。
  

*1:http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20060606

*2:この作品ではヴィクの捜査はほとんど決めうちで、ろくに推理はしてないから、ハードボイルドミステリではあっても推理小説とはいいがたいかも