マシュー・バーニー「クレマスター・フィルム・サイクル」全5作品ノンストップ上映

マシュー・バーニー「クレマスター・フィルム・サイクル」全5作品ノンストップ上映大阪市鶴見区民センター)を見る。

大阪市鶴見区民センター
7/16(日)『クレマスター・サイクル』全5作品ノンストップ上映

大阪シネ・ヌーヴォ
7/15(土)-7/21(金)『拘束のドローイング9』公開
7/22(土)-7/28(金)『クレマスター3』公開
http://www.cinenouveau.com/

 11時半からはじまって終わったのが20時すぎ。とにかく疲れた。といっても、出てくるイメージにはとにかく強烈なものが多くて、つまらないわけではないのだけれど、ここまで評価されていると大傑作だと騒ぐのもどうも。というよりは駄作ではないと思うけれど、これって傑作か? なんなんだこれは? という疑問もふつふつと湧いてくるわけだ(笑い)。今回は上映があることが分かった時に維新派「ナツノトビラ」とスケジュールがかぶっていることが分かって、だからこそ(維新派のためにスケジュールを空けておいたので)見ることができたのだが、見にいくに際しては迷いに迷った。だけれど、結果としては一度は見ておくべき作品だと思ったし、作品自体はそんなに私の好みに合ったものでもなかったとはいえ、見る価値はあったと思う。
 普通に面白かったのは昔のハリウッドミュージカル映画のパロディともいえそうな「クレマスター3」。これをもってコンテンポラリーアートの一大金字塔だなどと言われてもピンとこないこと甚だしいが、面白いのはこれだけの馬鹿馬鹿しいことを本物のアメフト競技場や飛行船を借り切ってめちゃくちゃ金かけてやっているところ。パロディとは書いたがダンスやダンサーのクオリティー自体はこれがこのままミュージカル映画のレビュー場面だといわれても遜色ないほどレベルが高いことでだからこそ楽しめるし、ちゃんと揶揄にもなっているのだと思った。
 「クレマスター2」と「クレマスター3」の前半はよく分からない。このあたりは前日寝付かれなかったためについついうとうとしてしまって、断片的にしか記憶が残っていないせいもあるのだけれど、提出されたイメージにいまひとつ実感が湧かないということもあったかもしれない。ただ、映像に関していえばところどころで「これいったいどうやって撮ったんだ」というような凄い映像が出てきて、例えばグレイトソルトレイク*1から川を遡って、氷河までをワンカットではないにしても連続した映像で一気に見せていくところなど、なんらかの方法で空撮を使ったとしか思えないのだけれどいったいどうやって撮ったんだか非常に不思議。
 「クレマスター2」が見ていてピンとこなかったのにはここでメインのモチーフとなっているゲイリー・ギルモアという殺人犯についての知識がまったくなかったのも一因で、後でネット検索して調べてみたところ、この人は死刑廃止に向かっていた米国において自ら処刑を求めて裁判を起こし、銃殺刑に処せられたことで有名な人で、実弟で、著名な音楽ライターのマイケル・ギルモアが死後17年を経過した後「心臓を貫かれて」(村上春樹訳、文藝春秋社、2900円)というノンフィクションを書き下ろしたことでも知られているらしい。ちなみにこの話になぜフーディーニが唐突に登場するのかが全然分からなかったのだが、この人の祖母で霊媒師のフェイがフーディーニと付き合っていたことがあり、彼女の子供がフーディーニの子ではないかという説が実際にもあるらしい。例え、知識として知っていたとしてもこのゲイリー・ギルモアという人が一般的なアメリカ人に対して、どういうイメージを与えている人なのかとうのが分からないとマシュー・バーニーがこのモチーフに与えようとした意味合いが実感としては湧いてこないから、こういうところに異文化理解の難しさはある。
 一方、「クレマスター3」の前半と「クレマスター4」は確信犯としてそういう風にしているのだと思うけれども、べたべた、ねちゃねちゃの粘着系のものがいろいろ出てきて生理的に不快、だめなのである。もちろん、ここでマシュー・バーニーは快いものを提示しようとしているわけではないのだろうから、そういう意味で狙い通りに効果は作品が生み出しているとはいえるのだろうけれど。「クレマスター3」の後半部分は特殊メイクや特殊効果なども含めて、ビジュアル的に一番見事な展開を見せるところで、長々と続いた自動車の衝突シーンなどで半分眠りかけていたのが、ここで一気に目が覚めてしまうほどに面白かった。この部分は今度まとめて再編集して、DVDになるらしくこれは面白そうで出来たら購入したい。
 最後の「クレマスター5」はハンガリーブダペストのオペラ劇場を舞台に絢爛豪華に展開するパフォーマンスで、よくできてはいるし、楽しめるのだけれど、その分だけ異質感はなくなっている。鎖の女王を演じるウルスラ・アンドレスの存在感はさすがのものがあるのだが、全体にオペラ仕立てになっているので、彼女が歌ってなくてアフレコだというのは興ざめで、こういう趣向でやるのであれば実際に歌えるオペラ歌手をキャスティングすべきだったのではないだろうか。

*1:ついついぼーっとしてしまうと作品と関係ない余計なことを考えるもので、この時考えていたのはソルトレイクに魚はいるのか、ということ。淡水にしか棲めない魚はいないはずだし、海とはつながっていないし。答えは魚は塩分濃度が高すぎるせいでいなくて、生物としては唯一熱帯魚の餌になるブラインシュリンプだけが生息しているらしい。ちなみにより塩分濃度の高い死海にはDunalliella salinaという緑藻類だけが生息しているらしい。あ、確認はしてないけれどソルトレイクにもブラインシュリンプの餌になる藻のようなものも当然いるんだと思う