AI・HALL+岩崎正裕『ルカ追送〜中島らも「ロカ」より〜』@AI・HALL

AI・HALL+岩崎正裕「ルカ追送〜中島らも「ロカ」より〜」(AI・HALL)を観劇。

AI・HALL+岩崎正裕 共同製作
『ルカ追送〜中島らも「ロカ」より〜』
■原作/中島らも
■構成・演出/岩崎正裕
■出演/寺田剛史、奇異保、亀岡寿行、森本研典、石橋和也、金明玉、中田絵美子、中元志保、岡本康子

 中島らもの遺作となった小説「ロカ」を下敷きに劇団太陽族の岩崎正裕が作・演出したAI・HALLの劇場プロデュース公演である。小説の方は未読なためにどの部分までが「ロカ」によるものなのかはよく、分からないのだが、リリパット・アーミーの座付き作家として関西小劇場においても大きな存在感を示した中島らも*1への岩崎の思いがストレートに表れた好舞台であった。
 岩崎正裕は熱い男でそれが彼の魅力でもあるのだけれど、社会的な問題などを視野にいれた作品を舞台として上演するときには心溢れて言葉足らずというか、あまりにもダイレクトに対象に向かうそのアプローチが説教くさく見えてしまうこともあり、あるいは社会の不正義などへの岩崎の怒りが作品の構造を破綻させて、思いが空回りすることがあるのだけれど、この芝居では間に中島らもの「ロカ」というテキストが存在していることもあってか、シンプルながらもかえってそのストレートな思いが、熱くはあるのだけれど、描かれる対象である中島らもとの間に微妙な距離感を作りだしていて、芝居を見ていて思いがストンと胸におちてくるところがあった。
 舞台上に登場するのは中島らもその人ではなくて、あくまで絶筆となった小説「ロカ」のなかで中島らもが描き出した作家「小歩危ルカ」である。もちろん、この小説は中島らも自身が近未来私小説と命名したようにルカには中島自身を思わせるところがある。しかし、一方ではこの小説においてルカが68歳、ベストセラーとなった「死ぬまで踊れ」以来筆を折った作家とされているように事実とはまったく異なる虚構の設定を含んでいる。
 岩崎はここで原作の「ロカ」をそのまま戯曲化するわけでなく、それを中心に置きながらも、やはり、私小説的な要素を含んだ中島らもの小説やエッセイなどから引用したエピソードを巧みにコラージュし、絡ませあって、中島らもではないが、小歩危ルカでもない、そして逆に言えばそのどちらでもあるような架空の評伝劇をでっち上げてみせる。
 この舞台に登場する寺田剛史、奇異保、亀岡寿行ら男優たちは複数の人間が学生時代の、そして印刷会社で働く、あるいは作家として苦悩する、老人となった人物「小歩危ルカ」をそれぞれ演じるとともに、アンサンブルとして何役もを演じる形で、その周辺にいた人物たちも演じ分けてもみせる。そうすることで実際に小説で舞台であるいはエッセイで少しでも中島らもを知る観客はそこにはあえて、直接は描かれていない事実*2を想起させられることになり、中島らもでも小歩危ルカでもある魂のようなものと邂逅することになるのだ。
 中島らもへの追悼の意味をこめた舞台であることは間違いないだろうが、そういうものとしてありがちなお涙ちょうだいにはならず、あくまでも馬鹿馬鹿しく、劇中で「小歩危ルカ」がテレビで歌って大顰蹙を買ったということになっている「放送禁止用語ばかりをつなげた歌詞の歌」を皆で大合唱して芝居は幕を下ろす。芝居の表題を普通だったら「ルカ追悼」とか「ルカ追想」となるべきところをあくまで「ルカ追送」としたのは最後まで反権力そして非常識の人を貫いた最後の無頼派作家、中島らもに対する岩崎の思いがこめられているのだろう。そんなことを考えながら、この馬鹿馬鹿しい場面を見ていたら、泣くような場面では全然ないのにもかかわらず不覚にも涙が出てくるのを抑えることができなかった。
 この舞台においては男優だけでなく、中島らも(あるいは小歩危ルカ)の周辺を彩る女性を演じた女優陣も魅力的。小説「ロカ」のヒロインである古沢ククを演じた中田絵美子は初めて見た女優だが、一見不思議ちゃん的キャラでありながら、その中にしっかりとした芯を持つこの役柄をみごとに演じて、鮮烈な印象を残した。
 全体としてのキャスティングが非常によかったわけだが、なかでも特筆すべきことは女優、岡本康子の凛とした演技であった。関西小劇場界では演劇制作者*3として知らぬ人はいない彼女だが、元々は劇団★新感線の女優であった。残念ながらそのころの彼女の演技は見ていないので、私にとっては彼女はあくまで制作者であり、大阪の劇場でよく目にする笑顔で受付をしている美人の制作のイメージしかないので、最初は舞台で見ても中島らも(あるいは小歩危ルカ)の妻の役を演じているあの女優さんはだれだろうか、どこかで見た記憶があるのだけれど顔は知っているのにダイレクトに結びつかず、そのうち岡本康子さんに似ているということに思い当たったのだけれど、まさか本人だとは「このキャスト表に出ている岡本康子っていうのはあの岡本さんですか」と終演後のロビーで作・演出の岩崎本人に挨拶して確認をとるまで半信半疑だった。
 岩崎によれば20年ぶりの舞台らしいが、そんなことはまったく感じさせない堂々とした女優ぶりに感嘆させられた。確認はとってないけれど、元新感線だったということはおそらく彼女も岩崎同様大阪芸大の出身かもしれない。
いろんな思いがあっての女優復帰だと思うので、再び舞台に立つことはしばらくないのかもしれないが、できるものなら近いうちにまた女優、岡本康子の演技が見てみたいと今回の舞台を見て思ってしまったのである。
 土曜日、日曜日とこの芝居は上演されるが、この舞台必見である。  
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*1:学科は違うけれど岩崎にとっては大阪芸術大学の先輩にもあたる

*2:たとえば、中島らもがどのような形で亡くなったのかなど

*3:演劇プロデューサーとして岩崎正裕、深津篤史と一緒に精華演劇祭の企画委員もつとめている