山本太郎展「水泡の恋−長谷雄草紙より−」

山本太郎展「水泡の恋−長谷雄草紙より−」(neutron)を見る。
 「ニッポン画」*1山本太郎の新作による個展はこれまでの山本の作品とは少し傾向の異なるものであった。「長谷雄草紙」というのは平安時代初期の文人であり、漢学者としても知られる紀長谷雄(きのはせお)(845−912)にまつわる怪奇譚を描いた絵巻である。長谷雄が鬼との双六の勝負で勝ち、絶世の美女を得たものの、鬼と約束した100日を待たずに契ったため、美女は水となって流れ去ったという「続教訓抄」(14世紀初頭成立)に収録された物語にもとづいている。草紙という通りにこれには言葉書きに絵がついた絵物語となっている*2のだが、今回の個展で山本はこの絵巻に詞書はあっても絵がない部分をいつものように原画の作風を引用(パスティッシュ)して、脱構築するというのではなく、山本自身の手によるオリジナルの絵画の連作シリーズの現代版の「長谷雄草紙」として創作した。
 山本作品の面白さはもちろんまず第一にアイデアの奇抜さにあるが、ステレオタイプな日本画の構図のなかに西洋文化の産物(コカコーラ、ケンタッキーフライドチキン)やアニメやヒーロードラマのキャラクター(仮面ライダーガンダムスパイダーマン)を配置するという分かりやすい面白さだけではなく、日本の文化に目を向ける際のシニカルな批評性にその最大の面白さはあって、その意味では一見地味な画風のなかに「秀吉と利休」の有名なエピソードを批評的に忍ばせた「朝顔図」の連作(一対となっている屏風絵)などは日本文化の伝統的美学に対する切込みの鋭さ、そしてそうでありながらそこにほほえましい悪戯ごころが感じられるところに感心させられた。
 モチーフとしてのエロスという主題は日本の伝統絵画の1ジャンルをなす「春画」を参照している。だが、例えば類似のモチーフによる小川信夫の作品などと比べると、この山本の作品には「朝顔図」同様に奥ゆかしさが感じられる。モチーフからするとこのシリーズは会田誠とも近いところがあるのだけれど、例えば性描写のようなものを直接手掛けていても、山本の作品からは生々しさよりはその構図・タッチにおいて周到に構築された伝統美を感じさせるところが興味深い。
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