加藤健一事務所「レンド・ミー・ア・テナー」@兵庫県立芸術文化センター

加藤健一事務所「レンド・ミー・ア・テナー オペラ騒動記」兵庫県立芸術文化センター)を観る。

劇作・脚本:ケン・ラドウィッグ
翻訳:小田島雄志、小田島若子
演出:久世龍之介
ソーンダーズ 有福正志(ありふく まさし) オペラカンパニーの総支配人。マギーの父でもある。
ダイアナ 大峯麻友(おおみね まゆ) ソプラノ歌手。ティトーと共演のチャンス到来。
マリア 塩田朋子(しおた ともこ) ティトーの妻。典型的なイタリア女性。
ティトー・メレリ 大島宇三郎(おおしま うさぶろう) 世界的に有名なテナー歌手。若い女性が大好き。
マックス 加藤健一(かとう けんいち) ソーンダーズのアシスタント。ティトーを心から尊敬している。
マギー 日下由美(くさか ゆみ) マックスのガールフレンド。ティトーの追っかけ!?
ジュリア 一柳みる(ひとつやなぎ みる) オペラ組合の委員長。今夜の舞台を前に興奮気味。
ベルボーイ 横山利彦(よこやま としひこ) 用もないのにやたらとティトーの部屋に来る。


 「レンド・ミー・ア・テナー」はアメリカの劇作家ケン・ラドウィッグのオペラ入りコメディー。加藤健一事務所*1では1996年以来の12年ぶりの再演ということだが、どうも12年前に見た記憶がない。ただ、その前後に上演された「レグと過ごした甘い夜」「私はラッパポートじゃないよ」は確かに見た記憶があるし、 まだ東京にいたころなので、絶対に見てはいるはずなんだが、どうしたんだろうか。それはそうとずいぶんひさびさの加藤健一事務所である。加藤健一事務所はコメディをやらせれば絶品で、特にレイ・クーニーのものなのどは抱腹絶倒、抜群の面白さなのであった。好きな劇団でもあり、大阪に引っ越した当初は近鉄小劇場に毎回足を運んでいたものだが、近鉄小劇場がなくなった後はチラシを見かけると「いきたいな」と思ってはいたがついつい足が遠のいてここまで来てしまったのであった。
 今回思ったのはやはりカトケン事務所は面白いということだ。安心して楽しむことができる。コンテンポラリーダンスも演劇も前衛的な表現(これまでに見たことがないような新規な刺激)が好みではあり、「最近は普通に面白い芝居は苦痛となった」などとこぼしている昨今ではあるが、加藤健一事務所などを見るとやはり面白いものは面白く、それには正当な評価を与えないといけないと思う。つまらなくはないんだけれど……という風に思うのはどこかでパワーが不足しているのだ。
 ただ、正直なところをいえばコメディーとして見た時にこの「レンド・ミー・ア・テナー」がレイ・クーニーのように爆発的に面白いかというとやや不満がある。久世龍之介の演出も手堅くはあるけれど、「ラン・フォー・ユア・ワイフ」「パパ、I LOVE YOU!」での綾田俊樹の反則技ぎりぎりの演出と比べるとおとなしい感がいなめない。演出のせいでか、脚本のせいでだかは若干の議論になりそうだが、第二幕になってオセロが2人出てきてから後の混乱ぶりのエスカレーションなどはもしこれが綾田演出ならとついつい思ってしまうのだ。ただ、最近は加藤健一事務所では綾田が演出するということはなく、来年上演予定の「パパ、I LOVE YOU!」では加藤自らが演出するというようなことを考えると、綾田演出には若干、加藤の考える舞台との間にギャップがあったのかもしれない。
 この 「レンド・ミー・ア・テナー」は単にコメディというだけではなくて、オペラの舞台裏を芝居にしたもので、劇中で登場人物がオペラの一節を歌う場面が何カ所かあるという趣向が売り物なのだ。それが下手で、らしく見えないようでは台無しにもなりかねないのだが、加藤が本格的な歌唱を披露して本当にうまいので吃驚させられた。加藤健一といえばつかこうへい事務所時代に「熱海殺人事件」で「マイ・ウェイ」を朗々と歌いながら登場するという場面が有名。下手ではないはずだという前知識はあったけれど、本職はだしとまでいったらちょっと褒めすぎだとしても、ちょっとしたかくし芸の超えた域だったのは確かであった。次回作品の「詩人の恋」は本格的な音楽劇みたいだし相手役も音楽座などで活躍していた畠中洋だとあってこれは見なくちゃいけないと思う。