マース・カニングハム逝去

 月末はセミネールの準備などに奔走していて、いささか旧聞に属する話題になってしまったがマース・カニングハムが亡くなった。先日ピナ・バウシュが亡くなった時の話題に「まだ(高齢の)マース・カニングハムでさえ、生きているのに……」などという不謹慎な話題を仲間内でいわばギャグのように語っていたところだったのに。

しかし、このNHKのニュースなのだが舞踏家マース・カニングハムというのはどうなんでしょう(笑)。「舞踊家」じゃないかと思うのだが。
http://www.asahi.com/obituaries/update/0728/TKY200907270473.html
こちらの朝日新聞の記事では「モダンダンスの巨匠、マース・カニングハムさん死去」となっていて、これが普通であろう。
 音楽におけるジョン・ケージ、美術におけるマルセル・デュシャンのように芸術の世界にはそれまでの既存の芸術の概念を枠組みもろとも解体してしまうような仕事をする人がいるのだが、ダンスの世界ではこのマース・カニングハムという人が間違いなくそういう人であった。
 ピナ・バウシュは生前ドキュメンタリー的なものを除いてあまりその作品を映像としては残さなかった(少なくとも販売はしなかった)のだが、マース・カニングハムは調べてみるとけっこういろんな映像が出ているようだ。

 そのせいかYOU TUBE上の映像もかなり多い。これなんかはマースによる若いダンサーたちへの指導の様子のようだが、映像放映は2008年のようだから、最近の映像ではないかと思うのだけれど、どうだろうか。

Merce Cunningham--Beach Birds



 マース・カニングハムについては最初にその存在を知ってから実際に動いている映像を見られるまでずいぶん時間がかかったし、結局、マース・カニングハム舞踊団の公演自体はついに生前には見ることができずじまいだったわけですが、これが代表作と言われる「Beach Birds」である。you tubeというのはこういう風に映像を見られるということでダンスに興味を持った人間にとっては強力なツールといえよう。追悼文的なもののなかでこんなことを書くのもなんだが、実は私はこの人のムーブメントが新しかったんだろうということはなんとなく分かるし、例えばバレエあるいはグラハムメソッドのモダンダンスというような当時既存のダンスをはずしていくような動きだということは分かるのだが、面白いという風に思ったことがあまりなかった。それはどうしてなんだろうと何度も考えていたのだが、今回映像ではあるがこの「Beach Birds」を見直してみて、これは完全な抽象というよりは「Beach Birds」という表題からも分かるように海鳥の描写をしているように一部具象的なところがあって、これは初めてかなり面白かったかもしれない。
Merce Cunningham--Changing Steps 1


 もっとも実験至上主義の立場からすれば「Beach Birds」などは完全に保守反動化といえなくもないのかもしれない。そういう意味でいえばこちらの「Changing Steps」は確かに実験的、前衛的ではあるのだかれど、この作品の一部だったのか、ここの冒頭部分の野外での場面を以前になにかの映像で見た時にあまりのバカ者ぶりに空いた口がふさがらなかった。どう考えても下手下手なのだが「これはいったいなんなんだろう」と思ったからだ。どことなくモンティー・パイソンのシリ―ウォークを彷彿とさせるようなバカバカしさがプンプンしているのだけれど、おそらく作っている方のカニングハムの方はそんなことは思いもよらぬような真面目一方の人にも見える。なんでこんなことになってしまっているのか。やらされているダンサーの方もかなり悲惨ではないだろうか(笑)。でも本音を言うとこのバカバカしいところがくだらなくてけっこう好きなのだけど。
About the Arts: Merce Cunninghamインタビュー

 このインタビュー、内容は興味深いのだけれど、インタビューの後ろになにか別の音楽や話声のようなものが混線して聞こえてきてすごく聞きにくいのだがどうしてしまったのだろうか。最初は空耳かとおもったのだけれど、やはりこれは実際に何か聞こえてきていることは確かだ。そういうノイズが混ざりこんできてしまうこと自体、マース・カニングハム的な出来事だと言えなくもないけれど、これはまさかそういうわざとじゃないよなあ(笑)。

 この映像もなかなか面白い。真ん中あたりにマース・カニングハムピナ・バウシュと続けて出てきて思わずはっとさせられたけれど、そう言えばその前に大野一雄も出ていたか。後半最後の方にはけっこう見たことのない振付家の作品映像も出てきて興味を引かれた。