クロムモリブデン「恋する剥製」@梅田・HEP HALL

クロムモリブデン「恋する剥製」
作・演出   青木秀樹
出演   森下亮 金沢涼恵 奥田ワレタ 木村美月 久保貫太郎 渡邉とかげ 幸田尚子 小林義典 武子太郎 花戸祐介 中川智明 小林タクシー(ZOKKY)


大阪公演

2010年6月4日(金)〜8日(火) 

6月4日(金)19:30
5日(土)14:30/19:30
6日(日)15:00/【19:00】
7日(月)19:30
8日(火)18:00 (全6ステージ) 
開演の45分前より受付開始、30分前より開場します。

HEP HALL
JR大阪駅より徒歩5分、阪急梅田駅より徒歩3分、赤い観覧車のビルHEP FIVE 8F
http://www.hephall.com/



東京公演

6月22日(火)〜7月4日(日)

6月22日(火)19:30☆
23日(水)19:30☆
24日(木)19:30☆
25日(金)20:00
26日(土)15:00
27日(日)15:00
28日(月)19:30◆
29日(火)19:30◆
30日(水)14:30/19:30
7月 1日(木)20:00
2日(金)20:00
3日(土)14:30/19:30
4日(日)13:00/17:00 (全16ステージ) 
開演の45分前より受付開始、30分前より開場します。

赤坂RED/THEATER
丸の内線 銀座線 赤坂見附駅(ベルビー赤坂口)より徒歩2分
千代田線 赤坂駅(2番出口)より徒歩6分
銀座線 南北線 溜池山王(7番出口)より徒歩6分
http://www.red-theater.net/

 「ゼロ年代の演劇ベスト10」雑誌「シアターアーツ」アンケート*1でも5位に「なかよしSHOW」を選んだのだが、クロムモリブデンゼロ年代を代表する舞台成果を上げてきた劇団であるのにもかかわらず、その演劇的系譜がはっきりとしないこともあり、批評の対象となることが珍しく、関西では異端としてついには活動の場を東京に移転させたがそこでもやはり孤高の存在*2であった。
 ところがそうした状況は「テン年代」において変わりつつある。

孤高の存在と書いたが、実は最近、デス電所やWI'REなど明らかにクロムの作風に影響を受けたフォロワーが関西演劇界にも登場している。その作風は一言で括れば作者の妄想を具現化した「妄想劇」と考えることができる。その作劇にはデス電所ら直接のフォロワーだけでなく、五反田団の前田司郎らここ数年若手劇作家に顕著な傾向のひとつとなっている「妄想劇」ないし「幻想劇」の系譜と通底するところがあり、先駆的な事例として注目しなければならないと思う。

 演劇批評サイトwonderlandのレビューの最後をこのように締めくくったのが、2007年春の時点でのことだが、その後に活動が顕著になってきた柴幸男(ままごと)、中屋敷法仁(柿喰う客)、快快、山崎彬(悪い芝居)らの作品群、さらには前述の竹内祐(デス電所)、前田司郎らも合わせた全体の動きを見るとそれまで演劇界において孤立していると見えたクロムモリブデンが「テン年代」において顕著になりそうな動きの先駆的試みとして見えてくるからだ。  
 クロムモリブデンの場合はそのスタイルと主題が舞台の進行につれて、シンクロし合っていくというのをひとつの特徴としているが、そのことからいうと今回の「恋する剥製」を貫く主題は「恋」なのだが、それが呼応していく裏テーマとして「嘘」と「でたらめ」がある。中心となるのは森下亮演じる「恋愛代行業」の男(ウチヤマダ)とそのクライアント(アズミ=奥田ワレタ)、そのターゲットである警官ササキらの物語。そして、もうひとつがデタラメ占い師のジョウジマ、女優のマリエ、口先だけ男のマナブらがでっち上げるインチキ宗教団体をめぐる物語である。
「あなたには中身がないから」そう言われて女に振られた口先だけの剥製男。彼は恋愛がうまく出来ない。男はその口先を買われて「占い」の世界に。冒頭の場面は口先男が携帯電話で恋人に振られる場面から始まるが、この台詞からしてなかなか意味深なのだ。
 「え、ちゃんとしてるじゃん。それはそっちから見たらそうかも知れないけど、俺はちゃんとしてるし、中身もあるし、別れたいの? 俺は別に そっちは別れたいの? いやだから俺は。別にって。別にの別は別れるって書くけど、そういう意味じゃなくて! え、飄々としてるところが、よかったんじゃないの? 何だよ口先だけって。いや気持ちが入ってないのは生まれつきなんだって。いや生まれつきだから仕方ないでしょって親父もこんな感じなんだって。ちょっと……」
 一応、ただの別れの会話に見えますが、一筋縄でいかないのがクロムだ。まず「別に」っていうのはだれもがすぐに沢尻エリカの離婚騒動のことを連想すると思うが、そういうように最近の時事問題的な出来事を作品にすぐ取り入れて、それを戯画化して遊んでみせるのがクロムの真骨頂。だとするとこの冒頭の台詞なんとも意味深ではないだろうか。「それはそっちから見たらそうかも知れないけど、俺はちゃんとしてるし、中身もあるし、別れたいの? 俺は別に そっちは別れたいの? 」。いかにも最近やめたどこかの首相を連想させるではないか(笑)。もっとも、ここのところは舞台を見ている時には最初だということもあって、気がついたのは終演後ロビーで買って帰った戯曲を読み返して、突然ひらめいたのだが、そういう風に考えていくとここで顔をそろえている3人が1人が口先男、もう一人が自称「ちょっと売れてる女優」のマリエ*3、だとすると3人目に登場する「デタラメ占い師」というのは最近テレビから干されているらしいあの人がモデルなのかもしれない。 
 そうなるとこちらのグループのメンバーに後から加わることになる「戯言研究家のオイタテ」「友人を刺してしまった女子高生クロエ」も単なるデタラメというわけではなくて、実在人物ないし小説かなにかの登場人物にモデルがいそうではあるけれど、残念ながらそこは判然としなかった。
 口先男、女優、占い師の共通点は「嘘をつく人」であるということで、これはどうたらこの「恋の剥製」という芝居全体を通底していくメインモチーフということになりそうだ。
 クロムモリブデンの芝居のもうひとつの特色は大阪芸術大学の映画映像学科の出身でもある主宰、青木秀樹の映画好きを反映してか作品の多くが、映画を下敷きにしていることで、今回はもちろん表題からも明らかであるようにウォン・カーウァイの「恋する惑星」である。もうひとつの物語に登場する「恋愛代行業」の男(森下亮)のターゲットとなる男が警官であるというのはどう考えても「恋する惑星」が警察官(刑事)との恋を描いた物語だったことと無関係とはいえないだろう。
 さらにこちらの話の「恋愛代行業」もやはり他人に嘘をついて騙すことを職業とする「嘘をつく人」であり、この2つの集団をめぐる出来事は当初はそれぞれ相互に関係なく進行していく。だが、偶然恋愛代行業の男と口先男らによるインチキ新興宗教の本部がマンションの隣室であったこと。さらにはそのため、「恋愛代行業」の事務所と誤って、教団事務所に入ってきた警察の女に「別れさせ屋」の業務の受託をしてしまい、それで恋愛代行業の男と利害がまっこうから対立することで、この物語はいわば2組の「嘘つき」集団の抗争の形をとることになっていくのだ。
 クロムモリブデンの近作では通常の台詞劇のスタイルが舞台のクライマックスに向かっていくに従い変容していくのがひとつのスタイルとなっているのだが、この「恋の剥製」も例外ではない。こちらは警察がインチキ宗教団体の教祖に祭り上げられた女子高生クロエを追いかけ、そして追われる方はそれを匿おうとするのだが、それらの戦いは武力ではなく「嘘をつく」ことで戦われる。しかもそれはダンスシーンによって表現される。このあたりはもはやナンセンスの極地としか言いようがないのだが、最終的には警官を撹乱するするためにはサルが逃げたという嘘をつこうということになるのだが、このなんとも出鱈目な作戦のうちにほぼ訳が分からない混乱のうちに舞台は幕を閉じるのである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20100423

*2:以前のクロムモリブデンのことについてこちらを参照してほしい wonderland クロムモリブデンマトリョーシカ地獄」http://www.wonderlands.jp/index.php?itemid=686

*3:明らかに沢尻エリカのことが想起される