矢内原美邦ダンス公演「桜の園〜いちご新聞から〜」@あうるすぽっと


原作:アントン・チェーホフ
振付・演出:矢内原美邦
映像:高橋啓
音楽:阿部海太郎
衣装:スズキタカユキ
出演:稲継美保 小山衣美 絹川明奈 酒井和哉 坂本沙織 遠江 愛 福島彩子 三科喜代 望月美里 山下彩子 (五十音順)

 これがチェーホフの「桜の園」かと言われると若干???なのだが、ダンスパフォーマンスとしては圧倒的。振付家、矢内原美邦の作品としてもこれまでニブロールでもミクニヤナイハラ・プロジェクトでも見られなかった群舞など純ダンス的要素の部分での充実ぶりを感じさえ、今年見たもののなかでも1、2位を争う作品だと思った。
 振付・演出:矢内原美邦と映像:高橋啓祐のコンビは共通だが、ニブロールの公演とかなり印象が違うのは音楽が阿部海太郎、衣装がスズキタカユキといつものメンバーではないアーティストが作品つくりに参加しているからかもしれない。
 原作:アントン・チェーホフというクレジットではあるけれど、この舞台では戯曲「桜の園」の筋立てそのものがダンス作品化されたわけではない。チェーホフ戯曲ののダンス化作品としてはバレエのケネス・マクミラン版の「三人姉妹」が有名。ほかにもパパタマフマラ「三人姉妹」
などもレパートリー作品として再演を繰り返している。マクミラン版では原作の登場人物である3人の姉妹が登場するし、パパタマフマラの場合はそこまで具体的ではないけれど3人姉妹らしきキャラクターが出てくる。
 ところが矢内原美邦の「桜の園」はまるでアプローチが異なる。この作品にはヒロインのラネーフスカヤはほとんど登場しないし、もちろん、ロパーヒン、アーニャといった別の登場人物も出てこない。代わりに最初の場面に登場するのは人形遊びする1人の少女とその友人でもあり、あるいは分身でもある大勢の少女たち。彼女らによる群舞がこのダンス作品の冒頭のシーンを彩る。これはチェーホフによる原作戯曲「桜の園」の冒頭のト書き部分に出てくる「今なおこども部屋とよばれている一室」という部分からインスパイヤーされたのではないかと思われる。
 つまり、ここに登場するこども部屋というのはヒロインであるラネーフスカヤが少女時代に暮らしていた部屋であるとともに、彼女自身の亡くなった子供もここで育てられた。そして、戯曲全体から言えば「桜の園」が売却され、この屋敷を去るという時に最後にラネーフスカヤがここを訪れたという意味でも「永遠に去ってしまった過去」の象徴のようなところがあるのが、この「子供部屋」でダンス作品ゆえにはっきりとはしないが「〜いちご新聞から〜」という今回の副題と矢内原美邦が時折自ら演じてみせている「人形で遊ぶ少女」というのは「桜の園」を離れるラネーフスカヤをサンリオのキャラクターなどを紹介する「いちご新聞」に表象される自らの少女時代と重ね合わせる。そういうイメージがあったのではないかと思ったのだ。