宮北裕美・ガラパゴス楽団「i.i.の死」@アートシアターdB神戸

構成・振付 宮北裕美
振付・出演 内山大、 垣尾優、 京極朋彦、 住吉山実里、 福岡まな実、 山口春美
音楽 Steve Nickel
照明 三浦あさ子
音響 秘魔神
舞台監督 大田和司
宣伝美術 納谷衣美
記録 井上大志・千穂(Leo Labo)
制作 清水翼、大泉愛子

 宮北裕美は山下残作品などにダンサーとして参加するほかはこれまでほとんどソロで活動してきたが、今回初めて自らは舞台に上がらず構成・振付に専念、6人のダンサーが参加してのグループ作品を制作した。
 表題の「i.i.の死」はレフ・トルストイの「イワン・イリイチの死」からインスピレーションを受けたということのようだ、実際の舞台ではそのことを具体的に想起させるようなものはない。ただ、作品の全体を覆う陰鬱な雰囲気というのは確かにあって、具体的な物語や人物というのはいっさいないのだが、「死」を思い起こさせるような気分が舞台を支配していたのは間違いない。
 リンゴの存在感も印象的。「死」に対する「生」の象徴のようなイメージが感じられた。最初にリンゴが出てきた時にはこの舞台に出てくる唯一、具象的なイメージであることから、原作である「イワン・イリイチの死」にどこかリンゴのイメージが出てきたかとおぼろげな記憶を反芻してみたが、どうやらそういうものではなかったようだ。だが、黒い衣装など全体に黒の強い舞台のなかで赤の彩りも鮮やかで先に書いた赤のイメージも皮を剥いた実から出てくる白っぽい色も同様に生命を表象するように感じられ、とても効果的であった。
 ポップさはいっさいないもの凄くタイトな作品なのだが、それぞれの場面の空間構成、照明、音楽などそれぞれの分野の完成度は高く特に全員でリンゴを持ってユニゾンで群舞を踊るシーンの美しさは特筆すべきものであった。音楽はロック系のギターが多用されている楽曲で、クレジットを確認してみるとSteve Nickelとなっていた。宮北は以前米国にもダンス留学していたから、その時に知り合いだった米国人だろうかと考えているとなんとこれが日本人でしかも2階の音響ブースですべて生演奏していたことも分かりびっくり。宮北によればSteve Nickelという人は京都を拠点としているバンドのギタリストで疑う余地のない日本人(笑い)。最近はコンテンポラリーダンスではエレクトロニカ系の音楽が使われることが多いが、骨太のギター演奏を生でやったのはよかった。宮北はソロダンサーではあったが、ダンサー・オブ・ザ・ダンサーではなくて、映像、音楽といった他分野のアーティストのコーディネイトには定評があり、その意味ではグループ作品には向いているのではないかと以前から思ってはいたのだが、その期待にたがわぬデビュー作品となった。
 ただ、惜しむらくは最後の場面が即興に頼った部分が多いたためか、やや表現として粗く感じられたことだ。その前のリンゴの群舞の場面が非常に印象的な終わり方でそこで終わったら心情的に満足感が高かったがゆえに逆にその後に続いたことで蛇足ではないかとの印象を持ってしまった。  

イワン・イリッチの死 (岩波文庫)

イワン・イリッチの死 (岩波文庫)