上海太郎カンパニー「阿呆(a fool)」@伊丹・アイホール

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

 構成・振付・脚本・演出:上海太郎 振付:室町瞳
 舞台監督:谷本誠[CQ]  照明:吉本有輝子
 音楽:多久雅三,駿田千佳 音響:Alain Nouveau
 衣裳:勝原理江、井本惇子[演劇秘 密結社ピーピー ・スー]
 宣伝美術:東學[188] 宣伝写真:山田徳春(STUDIO 500G.)
 制作:松井康人,石垣佐登子  企画・製作:上海太郎カンパニー
 出演:
 上海太郎 :チャーリー
 室町瞳  :アルジャーノン、アリス(養護学校教師)

 浅野彰一[あさの@しょーいち堂]:ニーマー教授(プロジェクト主任)、父親マットほか
 坂本さやか:ストラウス博士、パン屋の主人ドナーの妻ほか
 堀江勇気[尼崎ロマンポルノ]:助手バートほか

 加門功 :パン屋の主人ドナー
 浦川舞奈:母親ローズ
 駿田千佳
 増井友紀子[悲願華]

 構成・振付・脚本・演出:上海太郎とあり、そのクレジットに間違いはないが、今回はオリジナル・ストーリーというよりもダニエル・キース「アルジャーノンに花束を」をほぼ原作通りの筋立てで舞台化した。
 上海太郎といえばマイムやダンスを中心にした無言劇の作者として知られるが、新カンパニーとして「上海太郎カンパニー」を立ち上げた後は旗揚げ公演こそは上海太郎舞踏公司時代の代表作「Rhythm」の再演*1であったが、従来のマイムに加えてセリフや歌もふんだんに取り入れた新しいスタイルに変貌を遂げつつある。しかも前回作品は「不思議の国のアリス」、今回は「アルジャーノンに花束を」とよく知られた原作の舞台化であることも興味深い。
 「アルジャーノンに花束を」については「なぜいまこの作品を」との疑問を持ったことも確かだが、この作品の上演の大きな動機としては20年前から「この作品をいつか舞台でとの思いがあった」ということで、作品自体の主題がどうであるというようなことよりも、ひとりの役者として知恵遅れから天才的な頭脳までの主人公チャーリーの変貌を演じてみたいということが大きかったようだ。
 もっともこの作品はミュージカル「チャーリー」や日本国内では劇団昴による舞台化、さらに映画やテレビドラマにもなっているのだが、ドラマ化はそう簡単なことではない。というのは原作はチャーリーの一人称で書かれていて、知的障碍者の一人称描写という特異な文体が主題である知能の変化にリアリティーを与える大きな要因になっているのだが、ナレーションなどが自由に入れられる映画はともかく、舞台化においては目に見える部分だけでこれを演技により表現しなくてはならず大きなハードルとなっているのだ。
 もう1つの問題はハツカネズミのアルジャーノンの存在で、知能を持ったネズミという存在をどのように表現するのかというのはこちらもクローズアップが自由に出来る映画はともかく演劇の場合は大きな問題なのだ。
 上海太郎版は少し漫画やアニメめいたタッチにはなったが、看板女優である室町瞳がマイムとダンスを駆使してアルジャーノンをセリフなしで演じ、この難問を強行突破した。さらに独自の工夫としてはアルジャーノンが知能の証明として振付を覚えてバレエ「白鳥の湖」(劇中ではおやじギャグそのものだが「白チューの湖」と呼ばれている)を踊るという趣向を取り入れたことだ。
 特筆すべきなのはバレエダンサーとしての経験も持つ室町だからこそ可能なことだが、この「遊びの趣向」とのいえる「白チューの湖」がほぼ原典そのものの「白鳥の湖」の振付(プティパ=イワノフ版)を室町が忠実に踊っていて、最後の方ではアルジャーノンの知能が次第に減退してきて思ったように踊れなくなるという演出もあるから余計にそうなのだが、特に前半はバレエとしてちゃんと成立しているほどしっかりと踊っている。クラシックの名曲をアカペラで歌った上海太郎舞踏公司Bでもそうだったが、ネタもののようなものでも、一切手を抜かずに全力投球するとことが上海太郎の魅力でもある。ちなみにこの場面の後半ではこちらはおせじにも本物のバレエダンサーのようとはいわないけれど(笑い)、上海自身もほぼ原振付に近いバレエに挑戦している。
 もっとも、芝居全体の印象ではダンスパントマイムの集団劇のスタイルだった「上海太郎舞踏公司」時代と異なり、特に上海、室町以外の役者たちは関西弁の会話を演じており、オーソドックスなストレートプレイ(会話劇)に近い。キャスト的にもこのカンパニーのレギュラー陣的な存在となりつつある坂本さやか、浦川舞奈はともかく、残りは浅野彰一、堀江勇気[尼崎ロマンポルノ]らマイム、ダンスなど身体表現的な技術より、通常の俳優としての演技を重視したキャスティングにもなっていて、そういう意味でも少なくとも今回のスタイルの変化は「集団マイムなどに必要なパフォーマーが集まらないから」ではなくて、上海太郎舞踏公司時代とは表現したいものの方向性に違いがあることもうかがえて興味深い。実は公演後に分かったのだが、今回はスケジュールの関係で実現はしなかったが、上海太郎はこの芝居についニーマー教授(プロジェクト主任)役で彼のそとばこまち時代の僚友である川下大洋(Piper)にオファーを出していたのだという。川下の出演舞台などのスケジュールがすでに決まっていて、結局は実現しなかったのだが、もし実現していたら川下が上海の演出の舞台に出演するのはそとばこまち退団後初めてとなっていたはずで、それまでの上海ならこういうキャスティングはほぼ考えられないから、実現しなかったのは残念きわまりないが、上海のスタイルがそとばこまちを退団して上海太郎舞踏公司を旗揚げした時に一変して以来の大きな変貌をとげる前哨戦のようなところがあったのかもしれない。